運転免許を自主返納した高齢者への特典、どんなものがあるか調べてみた!【クルマにまつわる免許・資格おさらい 2022年版】

高齢者が原因となる交通事故の防止を目的とし、運転免許の自主返納を呼びかける運動が全国各地で見られます。また、免許を自主返納することで受けられる特典が用意されている地方自治体も多くなってきました。

その内容が地域によって大きく異なるため、WEBサイトで47都道府県の市町村をチェックしてみました。移動やクルマにまつわるものから、地域色豊かでユニークなものまで、バリエーション豊富な特典を紹介していきます。
なお、特典を受けるには返納時に申請する運転経歴証明書が必要なことが多いです。これについては最後に説明しています。

【買い物を運んでくれる系】

免許がなくなって困るのは、買い物や通院など外出を伴う用事にクルマを使えないこと。お米や飲み物などの重いものをクルマなしで運ぶのは大変。そんな場合、配送について優遇してくれるサービスもあります。

首都圏の高島屋は、店舗限定ながら無料配達のサービスを実施しています。また、イオンリテールの総合スーパー・イオンの「イオンの即日便」について、運転経歴証明書を提示すると送料を割り引きしてもらえるサービスがあります。

【こちらから伺います系】

クルマなしは不便。「来られないなら、こちらが伺いますっ!」というような特典もありました。三重県などでは移動スーパーマーケットが個人宅、高齢者施設への訪問に応じています。このほか、宮崎県では灯油配達料金を無料サービスしてくれる燃料店もあります。

【誰もが必要になる「その時」や「大物」系】

いずれ誰にも等しくやってくる「その時」。仏壇・仏具を購入時の割引きする店舗の特典も全国に多く見受けれらます。京都府では、葬儀費用の優待価格などを用意する店舗もあります。また、東京での弁護士の遺産相続・生前対策の相談をはじめとして、数回の無料法律相談や報酬割引きが可能な弁護士事務所も。遺産相続、遺言状の相談など「終活」に利用できそうです。

また、よりよく長く生きるために、というメニューとしては、カイロプラクティックなどの割引きもあります。

そのほか「大モノ」としては、不動産会社による「新築住宅や新築マンション成約時にインテリアチケット20万円分をプレゼント」というものも。愛知県のトヨタすまいるライフの特典ですが、終の住処を理想に近づけるサポートともいえるかもしれませんし、同居する家族のために使うという選択もできる、ありがたいものですね。

生活に絡んだものだけでも色々な種類のものがあることがわかります。

とはいえ、アシ替わりのクルマがなくなって、イチバンに気になるのは、移動手段についてのフォローがあるかどうか……。

【アシがわりとなるか? 公共交通系】

多くの地方自治体で、鉄道、バス、タクシーなど、公共交通機関を主とした、割引や無料期間の設定があります。ただし、その内容は千差万別。鉄道やバスは半額、タクシーは5〜10%引きが多く、1〜3年が有効期間となっているものも少なくありません。

幾つかのケースで試算をしてみると、やはりなんらかのクルマを維持したほうがトータルでの移動コストが安くなると思われるパターンが多く、交通事故の防止が目的の施策、そしてアシのなくなる高齢者へのフォローとしては、ありがたいサービスとはいえ、この施策だけを頼りに免許返納するのは悩ましいという状況もあるかもしれません。

【無期限無料のコミュニティバスが走る】

そんな中で注目したいのが、福井県。

眼鏡の街としても有名な鯖江市では2007年度からコミュニティーバスの無料券配布があり、13年度からは利用期間も無期限に。このほか、恐竜博物館のある勝山市でも無期限となっています(恐竜博物館の入場などにも割引があります)。大野市では、まちなか循環バス、市営バス、乗合タクシー、京福バス(発着とも大野市内の場合)などが10年間無料となります。

アシがなくなくなる不安に対して、その後の命綱となる公共交通の無期限・長期無料化は、免許返納の強い後押しになりそうです。

この中で、続日本100名城に選定された「天空の城 越前大野城」のある大野市の民政環境部市民生活課にお話を伺ってみました。

大野市が運転免許自主返納支援制度を開始したのは2012年度。当時、高齢運転者が当事者となる交通事故が増加している中、高齢者による交通事故の減少を図るため、高齢者の運転免許の自主返納を促進することになりました。

当初からの施策として、中心市街地活性化施策の一つとして市内公共交通機関を無料(有効期間3年)としました。その後、2015年度からはその有効期間を10年間に延長。あわせて利用範囲も乗り合いタクシー、まちなか循環バス、市営バスのみだったものを、同年度から広域路線バスの市内区間も利用できるよう、範囲を拡大しました。結果、2016年度末までの4年間で6,362名が利用した実績をもちます。その柔軟な取り組みの変遷も含めて、効果のある施策だったといえるのではないでしょうか。

ちなみに、福井県では一部市内のマクドナルドでプレミアムコーヒーを50円で提供するという特典もあります。

【レンタカーの割り引きという、ワザあり特典も】

クルマそのものの特典としては、廃車時の割引、同居家族の新車・中古車購入時の割引などが多くの自治体の店舗で展開されています。

このほか静岡県にあるオリックスレンタカーでは、平日のワゴン車のレンタル料50%引きなどの特典が受けられます。これは、返納した高齢者が同乗者として移動するクルマの費用をサポートしてあげるというニュアンスですね。また、各地でシニアカーなどの電動カートや、車いす、自転車の購入費用や修理費用を割引してくれる店舗もあります。

【特典、まだまだあります!】

まだまだ、全国各地でユニークな特典があります。

たとえば徳島県のラーメン店では、餃子の割引きや生たまご、ウーロン茶などのサービスも。奈良県の焼肉店では、グループ全員にミニアイスサービスという特典も。このほか食べ物系は、商店街での飲食をお得に楽しめる特典も多く見受けられます。

異色なところでは、神奈川県の工務店で新規工事見積もりするとグルメギフト券がもらえるといったものも。そのほか、大阪府の千日前道具屋筋商店街では各店舗で3000円以上の購入でフライパンを進呈したり、香川県では割引価格で温泉に入浴することができるサービスが用意されています。

また、奈良県香芝市では、地元にあるガラス彫刻工房ONOが、オリジナルの名入れロックグラスをプレゼントしてくれるという特典を提供しています。工房に問い合わせたところ、地元の警察からの協力依頼がきっかけで、支援策への参加を始めたそうです。

このように、これらの特典は高齢者の生活を支えるため、地方自治体と地元の企業などが免許返納制度に賛同し、協力して行なっています。地域に長らく住んでいる高齢者に対して、地元に密着した企業のひとつの感謝のしるしともいえるかもしれません。

【自主返納の手続き、その方法は?】

なお、自主返納の手続きにかかる費用は無料ですが、免許を持っていたことを証明し、身分証明書としても使える「運転経歴証明書」の申請には、多くの場合交付手数料として1100円がかかります。この手数料については、地方自治体によって無料だったり、交通安全協会加入者のみ無料だったり、あるいは割り引きだったりという違いがあります。

冒頭でも書きましたが、運転経歴証明書の提示がないと受けられない特典もありますので、注意が必要です。

また、基本的には籍を置いている地域の特典のみが受けられると考えておく方がいいでしょう(全国展開の企業のものは除く)。あわせて、特典が受けられる年齢についても、65歳以上とされているものが多く、その中でも65歳以上になってから返納した場合に限るというものもあります。

このように、都道府県はもちろん、その中でも市町村等によっても、レギュレーションも内容も微妙に異なっていますので、免許返納先の自治体のサイトや問い合わせ先に確認してください。

※この記事は2022年11月1日に再編集しました。

この記事の著者

古川教夫 近影

古川教夫

1972年4月23日生。千葉県出身。茨城大学理学部地球科学科卒。幼稚園の大きな積み木でジープを作って乗っていた車好き。幌ジムニーで野外調査、九州の噴火の火山灰を房総で探して卒論を書き大学卒業。
ネカフェ店長兼サーバー管理業を経て、WEB担当として編プロ入社。車関連部署に移籍し、RX-7やレガシィ、ハイエース・キャピングカーなどの車種別専門誌を約20年担当。家族の介護をきっかけに起業。福祉車輌取扱士の資格を取得。現在は自動車メディアで編集・執筆のほか、WEBサイトのアンカー業務を生業とする。
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