地上から空までをカバー、熱効率60%以上のエンジン理論を早稲田大の教授が発見

日産自動車に勤務後、白亜の塔へシフトした、早稲田大学理工学術院の内藤健教授(基幹理工学部 機械科学・航空学科)が、単体熱効率60%以上という、現在のガソリンエンジンに比べて実質倍以上の効率を誇る「究極効率エンジン(Fugine)」につながり原理を発見、そのプロトタイプを製作していることが早稲田大学により発表されました。

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通常のガソリンエンジンの熱効率は30~35%。市販車としては最高レベルといわれるトヨタ・クラウン・ハイブリッドのアトキンソンサイクルエンジンでも最大熱効率は38.5%。しかもガソリンエンジンの最大熱効率は全負荷状態という、いわゆるアクセル全開での効率であって、通常走行では10~20%程度の熱効率といわれています。

ハイブリッドやCVT、また変速機の多段化・変速比幅のワイド化というのは、そうした熱効率に優れた領域をできるだけキープするための手法なわけですが、早稲田大学・内藤教授らの研究している「究極効率エンジン(Fugine)」は、広い運転条件において60%以上の熱効率を実現することが考えられています。

その画期的なエンジンのポイントとなるのは、新たな流体力学理論・スーパーコンピュータシミュレーション・高速空気流実験によって、エネルギー変換原理(新圧縮燃焼原理)を見出したことにあります。

ピストン往復によるレシプロエンジンは圧縮比(膨張比)が大きいほど熱効率・比出力が大きくなるのが基本です。従来のレシプロエンジンはピストンの往復運動によって吸気・圧縮する仕組みとなっていますが、この「究極効率エンジン(Fugine)」は異なります。

セルモーターなどで燃焼室内部を真空に近づけ、外部大気との圧力差によって、大気を燃焼室に急速吸引、いくつもの気流を衝突させることで圧縮させるというのです。スーパーコンピュータを使ったシミュレーションによれば、これによって燃焼室内に音速レベルの高速気流16~30本程度を衝突させれば、10~30倍の圧縮比が可能になることが明らかになったというのです。

そうして圧縮され、高温高圧になった混合気が自己着火するという仕組みです。

さらに、通常のレシプロエンジンでは冷却による損失は30%程度といわれますが、高速の気流が燃焼後の高温ガスを閉じ込めるためにシリンダー壁が熱を持たず、冷却損失が少ないのも、60%という熱効率につながっているようです。同時に、冷却システムの簡素化も期待されます。

自動車用・航空機用のプロトタイプが製作されているということですが、将来的には地上走行から離陸、超音速飛行までをシームレスにカバーするエンジンへの進化も考えられていいます。エコカーだけでなく「エアカー(空飛ぶクルマ)」としての可能性も秘めているのが、この「究極効率エンジン(Fugine)」なのです。

■関連リンク
早稲田大学プレスリリース『理工・内藤教授、究極効率のエンジンを生む新圧縮燃焼原理を発見
自動車・発電・航空機用などで熱効率を60%以上、HV車凌ぐ低燃費か』
http://www.waseda.jp/jp/news13/130709_engine.html

 

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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