●ドリフト競技ならではの進化。フロントの切れ角アップ
当初はストリートカーで行われてきたD1GPですが、この20年の間にきわめて先鋭化した競技専用車両で行われるようになりました。
車両の進化の方向性として、ひとつはスーパーGTのようなハコ車の究極であるレーシングカーに近づいていったという傾向があります。しかし、ドリフト車両には非常に重要だけど、レーシングカーにはまったく不要という機構があります。それはフロントの切れ角アップです。
これは完全にドリフト競技独自の進化です。D1初期は切れ角アップ加工をせずに参加していた車両もありました。最初の頃の切れ角アップの方法としては『切れ角アップタイロッド』を使ったり、『切れ角アップスペーサー』を使ったりする方法でしたが、やがてナックルアームのショート加工も行われるようになってきました(この間、あわせてステアリングラックの変更や改造も行われてきました)。
ナックルアームのショート加工を行えば、かなり切れ角が増やせるのですが、あまり切れ角が増すと、ホイールがサスペンションアームに当たったり、タイヤがボディに当たってしまうという問題が生じます。
そこで、スペーサーを使ってタイヤを外に張り出させるとともに、タイヤを逃げる形状のサスペンションアームに交換するという手法が主流になってきました。
しかし、最近は新しい傾向が出てきました。それは、もはやハブキャリア(レース業界ではアップライトと呼ぶことも多い)やサスペンションアームがセットになったサスペンションシステム一式をトータルで設計したキットの普及です。
そのパイオニアが、エストニアのメーカーであるワイズファブです。ワイズファブはハブキャリアもキットに含み、車種によってはサスペンションの取り付け位置も変更し、さらにアームの角度や長さの調整機構も豊富で、ドリフトに適したジオメトリーと高い自由度を実現しました。
特にユーラシア大陸系のドリフターに幅広く支持され、近年は、Team RE雨宮 K&NのRX-7、川畑選手と齋藤選手のGRスープラなど、日本のD1マシンでも採用例が増えてきていました。
そして7月24日に開幕した今年のD1GPでは、新興のサスペンションシステムを新たに採用したマシンが出てきました。1台目は岩井選手のRX-7(FC3S)です。カナダのFDFというメーカーのサスペンションシステムです。RX-7は純正のサスペンションアームがアルミ製ということもあって、うかつな加工をすると強度の面で不安が残ります。これはスチール製にすることで、強度を確保しつつ調整機構も設けています。
もう1台は日比野選手のマシン。こちらは国内メーカーであるクスコが開発中のサスペンションシステムが搭載されています。クスコは自社でのモータースポーツ参戦経験も豊富で、幅広い競技部品を発売しているので、信頼性はバツグンです。
もちろん切れ角は大幅アップし、調整機構も豊富です。日比野選手は、練習走行時には「まだセッティングを探っている状態」ということでしたが、見事な走りで準優勝したので、このサスペンションシステムの戦闘力は高そうです。
クスコから発売されるとなると、日本でのシェアは増えそうです。よりクイックな動きや、大きな角度をつけても安定した姿勢を保てるドリフトなど、D1GPの走りが全般的にレベルアップするかもしれません。
また、国内外を問わず、今後このほかにも新たなサスペンションシステムが出てくる可能性は大いにあります。サスペンションシステムのジャンルは群雄割拠だといえるでしょう。
さて、滋賀県の奥伊吹モーターパークで開催された第1戦、雨が降り始めたばかりでまだほぼドライ路面だったときに確実に点をとったCrystalH.E VALINO N-styleの中村直樹選手が単走優勝しました。
そして、追走で優勝したのは、このラウンドでGRスープラの2号機を投入したTeam TOYOTIRES DRIFT-1の川畑真人選手でした。
D1GPの次戦は8月22日・23日、福島県のエビスサーキットで第2戦/第3戦のデュアルファイナルズが開催されます。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス)
【関連リンク】
D1グランプリの詳しい情報は、D1公式サイト(www.d1gp.co.jp)で。