パワートレイン系の試験の概説:エンジン車や電動車の動力性能や燃費、排ガス性能などを測る【自動車用語辞典:パワートレイン系の試験編】

■メーカー独自の試験や保安基準で定められた試験で評価

●電動車では、エンジン車と異なり電池の充電状態を考慮して試験

パワートレイン関連の性能を評価するために、動力性能や燃費性能、排出ガス性能などさまざまな試験があります。試験には、メーカーが開発過程で独自に行う開発試験や評価試験のほか、保安基準に適合しているかを審査する認証試験があります。

パワートレイン関連の性能を評価する各種の試験法について、解説していきます。

●エンジン車の評価試験

代表的な評価試験として、動力性能とモード燃費・排ガス試験に大別されます。

・動力性能

動力性能には、クルマの速さや力強さを評価する発進加速性能や追い抜き加速性能、登坂性能、最高速度などがあります。

発進加速試験は、停止状態から全開加速する加速試験です。

もっとも一般的なのは、停止0mから400mまでの到達時間を計測する「ゼロヨン加速」、発進から車速100km到達までの時間「ゼロヒャク加速」です。そのほか、追い抜き加速試験や登坂試験、最高速度試験が行われます。

・モード燃費および排ガス試験

クルマの燃費および排ガスの計測は、シャシーダイナモ(C/D)メーターのローラー上で実走行を模擬した世界基準のWLTC(Worldwide-harmonized Light vehicles Test Cycle)モード試験で行います。車の生産販売のために必要な認証試験です。

WLTCモードは、従来のJC08と比べると最高車速が高く、加減速が多い、また走行時間や距離が長期化しました。走行パターンは、「低速(市街地走行)」、「中速(郊外走行)」、「高速(高速道路走行)」の3つのフェーズに分けられています。

燃費排ガスモード試験
燃費排ガスモード試験

●HEVとPHEVの評価試験

エンジンと電池で駆動するモーターを併用するHEVおよびPHEVのモード燃費試験では、駆動電池の電力収支を考慮する必要があります。具体的には、試験の前後で電池の充電率(SOC)を同一にしなければいけません。

・HEVの燃費試験

モード燃費試験の前にあらかじめSOCを変化させた試験によって、電池の電力収支とモード燃費の関係を求めておきます。

実際のモード燃費試験では、試験前後の電力収支を計測して、事前に行った上記の電力収支とモード燃費の関係から、モード燃費を補正して求めます。

・PHEVの燃費試験

PHEVは、外部電源から駆動電池に蓄電した電力も走行に利用するハイブリッド車です。

試験は、外部電源で満充電にした電池の電力で走行するCD(Charge Depleting mode)モードと、その後電池のSOCが規定レベルまで低下してSOCを一定に維持しながら走行するCS(Charge Sustaining mode)モードに分けます。

燃費としては、CDモードのCD燃費とCSモードのCS燃費、両者を組み合わせて重み付け係数UFをかけて算出する複合燃費があります。

HEV・PHEVのモード試験
HEV・PHEVのモード試験

●EVの評価試験

・動力性能

EVの駆動モーターは、広いトルクバンドを持ち、低速で高いトルクを発揮できるのでスムーズで力強い加速が得られます。一方、電池の充電状態によって電池出力、モーター出力が影響されるので、電池の充電状態を考慮した動力性能の試験方法が必要です。

エンジン車と同様に、加速試験や登坂試験、最高速度試験を行いますが、前提として電池の充電方法が規定されています。

・EVの燃費試験

EVは、燃料ではなく電池の電力でモーター走行するため、排出ガスや燃料消費はありません。そのため、エンジン車で実施する燃費試験や排ガス試験の代わりに、電力量消費率(電費)試験で評価します。

エンジン車と同様C/D上でWLTCモード運転を開始し、電池の電力が続く限りモード運転を繰り返します。電池の電力量を使い果たし、試験サイクルに追従できなくなった時点で試験は打ち切りとなります。その時点のトータルの走行距離が、一充電の航続距離と定義されます。

走行終了後、電池を充電して満充電状態まで回復させて、これに要した交流充電電力量(E kWh)を計測します。

一充電の航続距離(D km)とそれに要した電力量(E kWh)から、以下の式で電力量消費率C(Wh/km)が算出できます。

C = E × 1000 / D

EV電費の考え方
EV電費の考え方

電動化技術など高機能なクルマの出現によって、それを評価する試験方法も複雑かつ多様化しています。

本章では、パワートレインに関わる多くの試験の中から代表的な試験方法について、詳細に紹介します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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