■NSKはベアリングメーカー?いいえ、その想像を超えています!
日本で初めてベアリング(軸受け)の開発に成功した会社、日本精工株式会社(NSK)。エンジンやタイヤなどの回転部分に必ず用いられているベアリングは、自動車にとってなくてはならない重要な部品。走りのスムーズさや燃費など、自動車の性能に直結するアイテムであり、古くは1964年に登場した新幹線に、NSKのベアリングが使われたそう。
しかし今や、こうしたNSKのイメージからは想像つかない、最新技術を開発していました。東京モーターショー2019、NSKブースで見つけた「スゴ技」な技術アイテムをご紹介します。
── 今日はよろしくお願いします。こちらのサスペンションの模型は何でしょうか?
担当者「こちらは最新の走行中ワイヤレス給電の実寸大模型です。弊社と東大グループ、ブリヂストン、ローム、東洋電機製造で共同研究しています」
── 走行中ワイヤレス給電とは、道路の下に埋め込んで、走行中に充電するイメージの装置でしょうか?
担当者「イメージは大体あっていますが、最新のワイヤレス給電はちょっと変わってきました。ちなみに弊社は、中にあるインホイールモーターやメカ開発を担当しています」
── この部分が受電部ですね。
担当者「そうです。これまでは車体底部(ばね上)に備えた受電部で充電する方式でした。しかし、クルマは常に上下に動きながら走行しており、ばね上と地面との距離が一定ではない為、充電効率が悪いことが課題でした。また電力をバッテリーに蓄えて駆動するためどうしてもクルマは重たくなるのです。そこで、受電部をばね下に持っていき、インホイールモーターで駆動することで軽量化を狙いました」
── なるほど!ばね下であれば、地面との距離はさほど変化しませんよね。タイヤのたわみ程度ですからね。これで充電効率が安定するというわけですね
担当者「その通りですね。また、タイヤのトレッド内に受電装置を入れてある、タイヤ充電もブリヂストンさんが研究しています。ただし、スチールベルトが受電の疎外要因となるため、有機繊維などで代替する必要があるなど、課題は多いです」
── おー!
担当者「タイヤから給電するパターンと、ばね下のボードから給電するパターン、両面から研究を続けています」
── しかし、道路の下にコイルを埋め込むことは、あまり現実的ではない気がするのですが
担当者「おっしゃる通り、道路にずっとコイルを埋め込み、その上をずれないでクルマを走らせるのは、あまり現実的ではありません。もっとクルマが通行しやすく、そして確実に給電ができるところを見極める必要があり、弊社はそういった研究も行っています」
── 具体的には、どういったことでしょうか
担当者「乗り物が頻繁に停止する所に埋め込めば充電が効率よくできますよね。弊社は、どこに埋め込むのがいいのか、クルマの動きを調査し、クルマが止まることの多い位置の確率を算出しました。その結果、やはり信号の手前が一番効率的だということが分かりました
── 動きながら、というよりは、スピードを落とすところに設置する、ということですね。しかし、こんなに受電部が低い位置にあると路面と干渉しませんか?100ミリ無いように見えます。平らな道だけではないと思いますが
担当者「そのために、弊社ではあちらの車高調整システムがついたインホイールモーターも作っているのです」
── これとセットなのですね!
担当者「はい。この形に至るまで紆余曲折あり、この形が「第三世代」なのです。電動車の走行距離は、バッテリーの容量に依存しますが、このように充電しながら走らせれば、バッテリーは小さくて済みますよね。ということは、クルマを軽くできるし、航続距離も伸ばせる。いかに効率的に給電させるのかを考えた結果、この形に行きつきました」
担当者「また他にも、海外の研究機関と組み、波力発電の研究をしています。波の上下動を利用して、海洋上で発電をするシステムです。こちらがその模型と、実物大の装置です。この発電部分を作っています。こうした発電機構やインホイールモーターなどが、弊社の得意な分野です」
── なるほど!良く分かりました。将来の実現に向けて着実な進歩が確認できました!更なる成果を紹介できるよう、我々も期待しております。本日はありがとうございました
【まとめ】
当プロジェクトは東京大学を中心に、NSKをはじめ複数企業との産学連携によって実施されています。また、2019年10月には、この研究グループが提案する「走行中ワイヤレス給電システムの実用化」をオープンイノベーションによって加速させるため、当プロジェクトに関わる基本特許をオープン化することが決定しました。
筆者も1年間、EVを所有していた期間があり、充電には常に悩まされてきました。現実的には思えていなかった「走行中ワイヤレス給電」、もしかすると10年以内には実用化できるかもしれません。
(文:吉川賢一)