■能登半島の歴史と文化、食材と人に触れる
今年は北陸とご縁がある。富山、金沢と出向く機会があり、その度に独特の文化や伝統に近づき感じながらも深く触れるに至らず、興味だけが積もってゆくというもどかしいところへ、今回のお誘いをいただき、能登へと旅立った。
「のと里山空港」で待ち構えていたのはLEXUS RX。昨今のSUVブームの中にあって、輸入ブランドと肩を並べる一際プレミアムを感じさせるジャパニーズ・ブランドの1台だ。
今回、能登を訪れたのは、「DINING OUT WAJIMA with LEXUS」を体験するためである。
「DINING OUT」とは、その地の食材や器を用い、選ばれしシェフが屋外で調理し至福の晩餐を楽しむ、一夜限りのレストラン。その土地の気候、風土、土壌、歴史などを知ることで、その限られた一食は寄り深く楽しむことになる。そのために、昼間はLEXUSを自由に使い、自在にその土地のことを知るドライブも可能となっている。
夕食への集合時間までは5時間ほどある。迷わずRXで能登半島の海沿いをぐるり巡るルートを選んだ。それでもゴールとなる輪島まで寄り道せずに2時間強で到着する。昼食や観光地へ寄り道して十分時間を費やすことができそうだ。
まず向かったのは九十九湾。複雑な能登の「内側」の地形を代表するような入り組んだ湾が、奇岩とともにその目を楽しませてくれる。よく見ると、京都丹後半島に見られるような船小屋らしきものもあり、言うまでもないもののこの地が海と密接に生きてきたことが思いに浮かぶ。
そして、能登半島の突端を目指す。途中の道路は、日本の古くからの街並みを通ることも多く、道幅は狭い。しかしながらRXは決してコンパクトとは言えないサイズを持つものの、目線の高さ、見切りの良さなどから、その取り回しに不安を感じることなどなかった。
能登半島の突端は風が強い。そこに植わる木が斜めに海原とは逆方向にその枝を伸ばしながらも必死に岩肌に根を張っている様子からも、恒常的にそこは海風が吹き付けていることが想像される。アスファルトとコンクリートのジャングルなどと表現される都会など「ヌルい」と思い知らされる非日常感。人の日々の営みなど地球にとって細やかなことなのだ。
さらに日本海沿いへと進め、海に面したワインディングをスムーズにRXは奔る。そうしているうちに、段々と人里へと近づいてきたのが感じられる。
海岸沿いには製塩所が見える。生きていく上で必須の塩が作られていたことからも、人がこの地に住んできた歴史を思わせる。そして周りは手付かずの自然から、明かに人の手による整地された部分が顔を覗かせ出した。棚田である。
何百年と地元の人々の手により作られ、守られてきたであろうその農耕地は、得も言われぬ美しさを魅せる。地形を利用し、日当たりも水捌けも考えた結果、その稲を育てるための道具は、工芸品へと昇華した。狭い耕地を最大限に有効活用したその場所は、無駄も隙も見せない。美しさを生み出したのは偶然ではなく必然なのだ。
そして、LEXUS RXでのドライブによる「予習」は終了。DINING OUTの本領へと突入する。
まずは、古民家である時國家へ、LEXUS LSで向かう。そのステアリングを握るのは、地元のタクシードライバー氏である。DINING OUTでは、地元に由来する食材を使うだけでなく、人的リソースも地元産なのである。
時國家は、江戸時代に北前船貿易で栄た豪商である。壮大な和風建築は圧巻である。食前酒とオードブルをいただき、襖や調度品などを堪能し、家屋を一通り見学させていただいたら、本会場へとまたもやLSで移動する。そう、ここも「予習」だったのだ。
着いたのは、なんと田んぼのド真ん中。棚田の一枚を厨房と客席のあるレストランへと変貌させていたのだ。
そして、能登・輪島と言えば漆塗りの輪島塗である。当然、食器にはふんだんに供されることであろうと予想していた。しかし、そこは普通に使ってこない。今回、建築家の隈研吾氏の監修のもと、輪島塗の制作工程途中の状態を器として使用するというサプライズを見せてくれた。
何工程にも登るその手の込んだ作り込みと、何種にも及ぶ料理が盛り付けられて出てくるわけだ。果たして、シェフの供したいメニューと、制作工程の数々がピタリと合うものか?とドキドキさせるのも演出の一つであろう。
そんなシェフは、今回二人のコラボとなった。わざわざサンフランシスコから来日したという「ジョシュア・スキーンズ」シェフと、青山に店を構えるフレンチレストラン「AZUR et MASA UEKI」の「植木将仁」シェフ。植木シェフは、石川県金沢市の出身だという。
提供される料理はもちろんそれぞれがひと手間もふた手間もかけた逸品。例えば、キャビアをかつては北前船が運んだであろう北海道産昆布で昆布〆にしたもの、松茸を熱した鉄鍋に入れ、そこに熱い出汁を注ぎ、中の香草で風味を足したものなど、解説するのが返って野暮に感じさせる物ばかり。もちろん、食材には地元の鮑、猪、今回のために育てられた米、そして能登牛など、この地域にゆかりのある物ばかりであり、料理に合わせて毎回、ソムリエが選んだ酒類が、シャンパンに始まり、赤・白・ロゼのワイン、日本酒、國産ウイスキーなどと、そのマリアージュを楽しませてくれた。
不覚にも、何品供されたかは、驚きの合間にカウントできなくなってしまった。ちなみに、私のテーブルについて料理をサーブしてくれるのは若い女性だったが、聞くと普段は輪島塗の勉強をしているそうだ。ここからも「地元」との接点を大事にしていること、そして「そこにいる人の意味」が常に考えられていることに驚きと喜びを感じた。
突然、大きな太鼓の音が響いた。振り返ると鬼の形相をした二人の男が大きな太鼓を打ち鳴らしている。石川県の無形文化財「御陣乗太鼓(ごじんじょだいこ)」である。これもサプライズだ。
田んぼの真ん中というシチュエーション、未完成ながら自然に使われる制作過程の輪島塗、どれも初めて口にする料理と酒の数々、そして伝統文化の披露……様々な経験を積んで、それなりに成功を収めてきた人たちをも満足させようとする、これでもかと言わんばかりながら不自然ではない演出。それは、まさにレクサスブランドも目指し、常に追い求めている日本的なおもてなし。
欧米的なサービスとはひと味違う、押し付けがましくなく先回りするような心遣いに、共通項が見えた気がする。
(文:小林和久・写真:小林和久/DINING OUT)
【関連リンク】
次回DINING OUTは沖縄県うるま市にて2019年1月18日(土)、19日(日) 開催
【DINING OUT RYUKU-URUMA with LEXUS】
https://lexus.jp/brand/dining_out/uruma/