世界観を作り、ジャンルを生み出し、レースを引き寄せたバイク。それがCBR900/1000RR【新型ファイアーブレード登場・3】

■歴代ファイアーブレードを振り返る

初代CBR900RRファイアーブレードが登場したのは、レーサーレプリカ全盛期のピークを過ぎたとはいえ、まだまだ名残がある1992年でした。しかし、フルカウルをまとい、ライディングポジションもかなりの前傾姿勢を強いられるこのモデルはレーサーレプリカではありません。

当時のスーパーバイクは750ccの四気筒か1000ccの二気筒。CBR900RRはフロントタイヤが16インチで、まるでミドルクラスのレーサーレプリカのようなディメンションと軽さ、750ccスーパーバイクを上まわるほどの動力性能を持っていながら、サーキットでレースをするようなモデルではありませんでした。これは新しい世界観のバイクだったのです。

歴代FireBlade
12月に行われた新型CBR1000RR-Rの撮影会には、歴代ファイアーブレードも展示されました。写真では古いモデルが奥に並んでいます。

当時オーバーリッタークラスのバイクはツアラー色の強いモデルが主流でした。この当時は大型バイクの最高速性能もまたバイクファンに注目されていた大きな要素でしたが、最高速という点ではCBR900RRより速いバイクも存在しました。そういった最高速ランナーとは一線を画す軽快で鋭い運動性能がありながらレーサーレプリカでもない、でも、もし公道でバトルをしたらいちばん速いんじゃないか……。CBR900RRには、正当な陸上競技の選手でも格闘技の選手でもない“ケンカ最強”みたいな雰囲気があったものです。

実際、1990年代中頃にドイツ・ニュルブルクリンクの北コースでは、とんでもないスピードでカッ飛ばしているバイクがいると思えばCBR900RRだった、なんていうことがよくありました。1990年代、そんなファイアーブレードに憧れと畏怖をいだいていたスポーツバイク好きは多かったのではないでしょうか。

1992_CBR900RR
1992年に登場した初代CBR900RR。乾燥重量185kg、ホイールベース1,405mmと、クラス最軽量、最コンパクトを実現していました。

このあと、CBR900RRをライバルとして、ヤマハからはYZF1000Rが、カワサキからはZX-9Rが登場します。いつごろからかはわかりませんが、この900〜1000ccの、ツアラーでもなくレーサーレプリカでもないフルカウルの高機動バイクは『スーパースポーツ』というカテゴリーでくくられるようになりました。『スーパースポーツ』を『SS』と省略してバイク雑誌には『リッターSS』などとも書かれていました。CBR900RRが作り上げたジャンルです。

その後CBR900RRもモデルチェンジを受け、正常進化を重ねてきましたが、1998年に大きな転換期が訪れました。ヤマハYZF-R1の登場です。ターゲットはサーキットではなくあくまでもワインディングロード。これまでのリッターSSとは異なるシャープで軽快なデザイン。軽量なボディにパワフルなエンジン、ロングスイングアーム。YZF-R1は、CBR900RRが確立したこのジャンルを、ひとつ上の次元に引き上げました。

とうぜんCBR900RRもそれに呼応するかたちで大幅な進化を遂げました。2000年代には排気量が929cc、954ccと増えていき、929RR、954RRなどとも呼ばれました。そして車体は軽量化が進み、初代モデルより乾燥重量は10kg以上軽くなりました。“公道最速”の座を争ってリッターSSがしのぎを削った時代です。

2000_CBR900RR-R
2000年に登場したCBR900RR。北米仕様はCBR929RRの名称で販売されました。エンジンを初めて完全に刷新し、フューエルインジェクションを初採用。乾燥重量は170kgでした。

2004年、ファイアーブレードにとって、もうひとつの大きな転機が訪れました。レースにおけるスーパーバイクのレギュレーション変更です。それまでは、750ccの四気筒か1000ccの二気筒とされており、ホンダはVTR1000SP-1/2を使っていたのですが、この年から4気筒も1000ccまで認められるようになったのです。ファイアーブレードがレースベース車になったのがこのときからでした。

排気量は998ccにまで拡大され、CBR1000RRという名前に変わりました。“ケンカ最強”が正統派格闘技の世界にデビューしたのです。

2004_CBR1000RR
レースでの使用も視野に入れて開発された2004年モデルから、CBR1000RRのネーミングが与えられました。エンジンは新開発となり、マフラーはセンターアップタイプになっています。
2008_CBR1000RR
2008年にデビューしたモデルです。ちょっと大人なカラーリングになっています。軽量化、コンパクト化がさらに押し進められ、カウル類も重心から遠い場所ほど小型化されています。
2019_CBR1000RR
2019年モデルのCBR1000RR SP。2017年モデルからスロットルバイワイヤが搭載されましたが、このモデルでは電子制御がさらに進化し、ウイリーや後輪スリップなどの抑制が、さらにきめ細かくできるようになりました。

それから15年、CBR1000RRは公道での楽しさと同時に、サーキットでの速さを追求する形で進化してきました。最先端の技術を次から次へと盛り込み、その時代の究極といえるバイクでありつづけています。

歴代CBR900/1000RR(-R)
今回撮影できたファイアーブレードは現行モデル(右手前)を除いて5台ですが、じっさいはこのほかにも様々なモデルが存在していました。

今回、新型CBR1000RR-Rの新車撮影会に合わせて、過去のモデルも撮影する機会があったので、その歴史を振り返ってみました。新型CBR1000RR-Rの紹介は前回までの記事をどうぞ。

(撮影:澤田優樹)

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この記事の著者

まめ蔵 近影

まめ蔵

東京都下の農村(現在は住宅地に変わった)で生まれ育ったフリーライター。昭和40年代中盤生まれで『機動戦士ガンダム』、『キャプテン翼』ブームのまっただ中にいた世代にあたる。趣味はランニング、水泳、サッカー観戦、バイク。
好きな酒はビール(夏場)、日本酒(秋~春)、ワイン(洋食時)など。苦手な食べ物はほとんどなく、ゲテモノ以外はなんでもいける。所有する乗り物は普通乗用車、大型自動二輪車、原付二種バイク、シティサイクル、一輪車。得意ジャンルは、D1(ドリフト)、チューニングパーツ、極端な機械、サッカー、海外の動画、北多摩の文化など。
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