三菱自動車の次期CEOが語った海外事業を成功させる二つの秘訣とは?

■三菱自動車の加藤隆雄・次期CEOが会見に登場。「全身全霊をかける」

●海外でうまくやるには「相手の文化を理解する」「議論を尽くす」が大切

5月20日、三菱自動車の加藤隆雄・次期CEOが東京都内で記者会見に出席しました。加藤氏は、6月21日開催予定の株主総会で承認されれば、正式に三菱自動車のCEOに就くことになります。


加藤氏は、1962年2月21日生まれ。1984年3月に京都大学 工学部 物理工学科を卒業後、同年4月に三菱自動車工業に入社。主に生産畑でキャリアを積んできて、2010年にはロシアに出向して合弁車両組立工場「PCMA Rus」の立ち上げに関わりました。そして2014年の名古屋製作所副所長を経て、2015年4月にはインドネシアに赴き、三菱商事と現地のPT Krama Yudha とともに設立した「ミツビシ・モーターズ・クラマ・ユダ・インドネシア(MMKI)」の取締役社長に就任して、現在に至ります。一男一女のお子さんがいらっしゃって、趣味はゴルフだそうです。

今回行われた会見では、加藤氏がこれまで海外で培ってきた、事業をスムーズに行なうためのコミュニケーション術を二つ語ってくれました。

一つ目は、相手の文化・慣習をよく理解して尊重すること。
加藤氏が現在社長を務めているMMKIはインドネシアの会社なので、イスラム教の社員が多いそうです。ちょうど今は、イスラム教徒が1か月断食を行う「ラマダン」の時期で、彼らは日の出から日没まで飲食が禁じられます。そんなときに、いくら宗教が異なるとはいえ、日本人社員が気兼ねなく食ったり飲んだりしていたら現地の社員はどう思うでしょうか。相手の立場に立って考え方や生活をアジャストしていかなければ、異国で信頼関係は築けません。郷に入れば郷に従えという諺は、海外でも大切にしなければならないようです。

…とはいえ、ビジネスですから、相手に合わせてばかりではいけません。
二つ目のコツは、主張すべきことははっきりと主張すること。そして、議論を尽くすことが非常に大事である、と加藤氏は述べました。徹底的に議論することで、最後はお互いが理解し合えるというのです。


こうした加藤氏の豊富な海外経験が、2016年12月の臨時株主総会以降、本格的に後継者の選定に入っていた益子修・現CEOの目に頼もしく映ったようです。益子氏は、以下のように語りました。「三菱自動車は海外で多くの事業を行なっていますが、一番重要なのは、その国で仕事をさせてもらっているという謙虚な姿勢を持つこと。特に東南アジアで仕事をする場合には、上から目線になることがないよう、常々部下に言っていました。そういう意味では、加藤さんはインドネシアの方々の意見にもよく耳を傾け、異なる文化にも理解を示し、非常に包容力があるので、次期CEOとして適任だろうと考えました」

益子氏が三菱自動車の社長になった2005年は、「会社が潰れそうだった(益子氏)」というほど大変な時期でした。益子氏は海外の大きな工場を3つ閉鎖するなどして、会社のスリム化を実践。そうした施策が功を奏し、業績は順調に回復軌道に。ところが、2016年には燃費不正問題が発覚。その翌年には日産自動車との資本提携に踏み切るなど、益子氏が三菱自動車の経営を担ってきた14年間は、まさに山あり谷ありでした。
「全体を総括してみるとたくさんのことがありましたが、うれしいことよりも、むしろ厳しいことの方が多かったというのが実感。人間としてとても鍛えられたという印象があります」と振り返った益子氏。加藤氏にCEOの座を譲った後も、依然として会長として三菱自動車の今後に携わっていくわけですが、その表情はどこかホッとしたようにも見えました。

6月21日の株主総会で承認されれば、加藤氏は新CEOとして三菱自動車をリードしていくこととなります。クールな表情とは裏腹に、今後の意気込みを語る口調には熱がこもっていました。

「MMKIは当社の中ではタイに次ぐ規模の海外生産拠点であり、その社長を務めているから経営の大変さは多少なりとも経験しています。しかし、三菱自動車本体の舵取りとなると、まったく重さが異なります。したがって、今回、本件を伝えられた際には、大変身が引き締まる思いとともに、三菱自動車全社員のために、全身全霊をかけて、CEOとしての職務を全うすることを改めて決意しました(加藤氏)」

これからの自動車産業は、CASEに代表される新技術の開発や、米中の貿易戦争に代表される経済状況など、ますます厳しい時代を迎えることが予想されます。加藤新CEOが率いる三菱自動車が、今後どんなクルマで我々の生活を豊かにしてくれるのか、大いに期待しましょう。


会見の最後に行われたフォトセッション。益子修・現CEO(左)と加藤隆雄・次期CEO(右)が握手を交わしました。カメラマンから「表情が硬いです!」と声をかけられ、この日初めて加藤氏は笑顔を見せました。

(長野達郎)