1月31日にモータースポーツの最高峰であるフォーミュラー1(以下F1)は、公式サイトで「グリッドガールの廃止を決定する」というオフィシャルコメントを発表しました。
この発表を受けて多くのメディアが「F1がレースクイーンを廃止」と報じていますが、これをすぐに日本のレースクイーンに当てはめるのは少し事情が違います。
今回のF1の決定はあくまでも「主催者が採用」した「チーム名と選手名のボードをグリッド上でかかげる」ための女性人員について廃止を決定した、という内容です。
この発表の中でF1のコマーシャル部門責任者のショーン・ブラッチス氏は「この習慣が(F1の)ブランド価値に共鳴するものではなく、現代の社会規範とはまったく矛盾していると感じています」と説明し大きな波紋を呼んでいます。
こちらも多くのメディアで「性差別による現代の社会規範との矛盾」ととらえられた記事があふれています。確かに現在F1の興行オーナーであるリバティ・メディアは「グリッドガールの存在は今日の道徳規範では性差別的で時代遅れだと多くの人々からみなされている」と昨年から主張、廃止を検討していました。
しかしこの発表の本質は、コマーシャル部門責任者が「フォーミュラ1は、レース前のグリッドでチームやドライバーが費やした時間をセレモニーの1つとして考えています。ゲストや様々なパフォーマーがグランプリの魅力と光景に加わり、プロモーターやパートナーが国や製品を紹介できるようになります」とした上で「この偉大なスポーツのビジョンにより多くのものが反映されるように、更新が必要ないくつかの分野を昨年にわたって見てきました」と発言したという部分にあると考えられるのではないでしょうか。
F1のスターティンググリッドでは世界中の多くのメディアが訪れます。その中でチームのスポンサーは商品やサービスを、開催国は自国をアピールしたいと考えます。今後のF1ではそれらに対応したイベントなどをグリッド上で開催するような検討がなされているとのこと。
しかしスターティンググリッドでの限られた時間にこのようなイベントを開催した場合、グリッドガールに費やす時間は無駄と考えざるを得ないのではないでしょうか。F1という莫大な資本が投入される「興行」としてはその数秒、数十秒すら金額換算されてしまうことでしょう。
この経済的な理由によるグリッドガール不要論と女性差別論が合致してきたのが、今回の発表なのではないかと推察されます。つまり、本来的には多様性が発揮されるべきこと、としての「現代の社会規範とはまったく矛盾している」という発言も含まれると見ることが出来ます。
同じFIAの世界選手権としての世界耐久選手権(WEC)は2017年ではグリッドガールは存在しません。しかしチームスポンサーが採用したキャンペーンガール(日本で言うところのレースクイーン)は存在しますし、開催国をアピールするためのセレモニーガールというものも存在します。WECは多様性に対して柔軟であったという部分をF1も見習ったのではないか、今回の発表についてはそんな印象が感じられます。
なお、グリッドガールが廃止されたF1グランプリは3月25日にメルボルンで開催される2018 F1ロレックス・オーストラリアGPから始まります。
(文:松永和浩)
【関連リンク】
Formula 1 official web – Formula 1 to stop using grid girls
https://www.formula1.com/en/latest/headlines/2018/1/formula-1-to-stop-using-grid-girls-.html