自伝的・爺ぃの独り言・13 <新型カローラが原点回帰だそうで>

【MONDAY TALK by 星島浩】

 2012年5月11日、11代目カローラが発売された。大震災からの復興記念とあって、セントラル(自動車)宮城工場肝入りの発表行事が45分間も続いたお陰で、初代カローラをいろいろ思い出す。ただしセントラルは7月からトヨタ東日本の一員に併合された。

 曰く「原点回帰」。新型は国内限定のセダン型とワゴン型で、小型車規格に戻ったダウンサイジングを「原点」としたようだが、正直言って1500ccエンジン以外に◎なし。せいぜい乗り心地が○かしら。

 

 私に言わせればカローラの「原点」はもっと過激で挑戦的だった。

 マイカー元年と謳われた1966年。日産が半年に及ぶティーザーキャンペーン後、初代サニーを発売したのが4月。追って、同年10月、トヨタが「プラス100cc」の初代カローラを発売した。

 

 開発主査の長谷川龍男さん(後の副社長)には、パブリカやトヨタ・スポーツ800でお世話になり、ロードテストの先生方と同席する機会もあったので、初代カローラについては、多くを事前に伺っていた。

 エンジンは当初1000ccで企画したが、車両サイズがやや大きく、重量も大人1人分重いので、1100ccに改造中であるとか、4速フロアシフト採用などなど。オフレコながら、広報担当者が聞けば慌てるような内容だった。もちろん自工・自販が合併する前の話である。

 

 まさしく反面教師がサニーだ。初代サニーを買って間もない私には耳の痛い話ばかりで、唯一「なぜ4ドアにしなかったのですか?」と質すのがやっと。これにも長谷川さんは「やってますョ、直ぐにも追加できるでしょう」とのこと。すかさず先生のお一人が「欧州では小さなクルマほど4ドアが好まれますからネ」と—-ために発売直後のカローラを買おうとした友人には「半年待って4ドアにしたほうがいい」と薦めたもの。事実、僅か半年後の4月に機種追加された。

 

 長谷川主査の作戦は全て的中。トヨタ自販による「プラス100ccの余裕」が大当り。フロアシフト4速MTも「スポーティだ」として初めてマイカーを手にする若者や若夫婦たちに大歓迎され、またたく間に販売実績でサニーを追い越すヒット商品になる。新発足したカローラ店チャンネルが、数年でみるみる大型化していく。

 想えば、それまで拮抗していた日産が、トヨタに水を開けられるようになったのも、サニーとカローラの市場人気差に始まる。

          

 以来47年目。海外にも受け入れられ、現地生産を含め3900万台に及ぶ累計販売台数は、押しも押されもせぬ世界のベストセラーだ。

 初代カローラは待ち構えたようにモーターファン・ロードテストで採り上げた。谷田部が建設途次で、舞台は都下・村山の機械試験所。

 全長3845、全幅1485、全高1380、ホイールベース2285㎜。テスト時は車両重量734㎏に3名+計器で929.5㎏—-なるほど、サニーと比べ、全長・ホイールベースはほぼ同じだが、よりワイドで、やや背が高く、試験時重量も約80㎏重い。

 

 むろん直4縦置きのFR設計で、エンジンはショートストローク型、いわゆるハイカムシャフトOHVの60ps/6000rpm。ダイレクトチェンジでクローズドレシオの4速MTが呼応して小気味よく回った。

 サスペンションはトヨタ初のマクファーソン・ストラットを前輪に起用。後輪は板バネだが、ワインドアップを抑えるリーフが加えられた。

 ゼロヨンは19.4秒。サニーと同値だが、やはり100ccプラスのトルクが物を言い、③速で得る追い越し加速が効果的—1966年は東名高速全通。高速走行時代の幕開けでもあった。

 

 ハンドリングで憶えているのは、パワーアシストなしでは無理ないものの、駐車操作など低速域で重く、走り始めても重めの部類。ただし高速域では軽くなる—-比較的直進安定性に優れる点が救いだった。

 操縦性は強めのアンターステアに終始。コーナー手前でアクセルを戻すと、穏やかながらタックインを示した記憶がある。

 ロードテスト車内騒音測定値は100㎞/hで70dBを僅かに超えていたから、今考えると「うるさい」が、サニーはもっとひどかった。

 ブレーキは当然、前後ドラム式。軽く踏んで効くブレーキだが、もうちょい前輪への配分を増やして欲しいと感想を述べたっけ。

 

 サニーのオーナーとして悔しかったのは、後席足許の余裕と、前席をフルリクライニングすればベッドにもなること。実際、友人と2人で前夜東京を出発。桑名近くで睡魔に襲われ、並んで寝てしまった。

 荷物室は大きいと思わなかったが、その頃の庶民はゴルフのキャディバッグを積むなんて、思いも寄らず。

 価格は49万5000円、サニーより3万5000円高く、翌春追加の4ドアは52万円したが、案の定、数年後の中古車市場ではカローラ4ドアが群を抜く人気車になっていた。事実、中古のカローラ4ドアを初のマイカーに選んだ知人・友人を3名知っている。

 結局、話は初代カローラに終始。新型カローラには7月初旬に河口湖周辺で試乗したが、その時点で「カローラのすべて」はもちろん、多くの媒体が詳しい紹介と試乗記を載せていたので、私は出番なし。★