目次
■エクストレイルのハイブリッド4WDの走りっぷりは
リアル試乗・エクストレイル第2回目は走り編。
巨体とは裏腹に、なかなか俊足なヤツでした。
●街乗りでは気遣いが要る大柄ボディ
カタログで示される寸法は、全長×全幅×全高=4660×1840×1720mm。日産の資料には、全長を30mm短縮、全高を20mm低くしたと書いてありますが、これは旧3代めT32型最終モデルとの比較で、旧T32発売時の2013年の車両の4640~4670×1820×1715mmからは全長と全高がわずかに大きくなっています。
毎度いっているとおり、筆者は長期入院が必要なほどの重度な3ナンバーサイズアレルギー患者で、5ナンバーサイズから3ナンバーサイズに移行したクルマなんぞ、その後のモデルチェンジのたび、幅を20mm、30mmと広げ続け、自動車がますます使いにくくなることを心配していますが、エクストレイルもその例に漏れず。
といっても、エクストレイルはもともと2000年の初代型から4445~4510×1765×1765mmのサイズを持つ、生まれながらの3ナンバーボディを持っていました。あれから20年以上経つとやはりこうなったかと思わせる車幅1840mmは、やはり街乗りでは気を使います。ドアミラー間距離に至っては、筆者実測で2mを超える2075mmございました!
片側1車線の生活道路で、路肩に停車している乗用車、荷下ろし中のコンテナトラック、客の乗降を待つバスを追い越すときなどは、5ナンバーサイズ車のばあいよりも対向車線側に大きくはみ出すことになり、不慣れなひとは注意が要ります。
運転視界は良好。フロントガラスは広く、外からの見え方はともかく、室内側からはワイパーがほとんど見えない位置にまで下がっているのですっきりしたものです。
サイドのウエストラインも着座高さに対して適切で、高すぎることはありません。筆者はシートリフトを高めにして座ることが多いのですが、高めにしてもウエストラインがまだ高く、サイド視界が不足気味のクルマがあるものです。
感心したのはフロントピラーの造り。見れば決して細いわけではなく、ピラー内側のトリムと外側を親指とひと指し指で挟めば結構な寸法があるのに、右左折時にはじゃまっけさを感じさせないことでした。
まずは運転者から遠い位置にあることと、前回のステップワゴン試乗で述べたのと同様、必要な断面積を確保しながら運転者から見える面は細く、見えない面は見える面の向こうに隠すという工夫があるからです。文字で書いてもわかりにくいと思うので写真をごらんあれ。
ただしこのフロントピラーは室内側に倒しすぎ。スタイリング要請と、おそらくおっ立っているよリは、より後傾させたほうが前面衝突時のキャビン変形を抑えやすいからだと思うのですが、視界のじゃまにならない工夫はあっても上端はかなり運転者に迫っているため、駐車時に窓からちょい顔を出したいときは、ドアの窓枠斜辺から上辺にかけてのカーブ部に頭をしょっちゅうぶつけたもの・・・ピラートリム色の白がフロントガラス両端に写り込んだのと、天候と光線の向きしだいでは、計器盤上面の模様がフロントガラスに映り、視界を遮ることがあったのが残念でした!
自車の先端、幅のおおよそがつかめるよう、フードは原則的に運転姿勢で視界に入るべきだと思っているのですが、エクストレイルはフードが視界に入るものの、車両感覚が得られる形にはなっていません。このクルマには販社オプションの「フードディフレクター」があると書きましたが(第1回)、このディフレクターが運転席から見えると思ったらそうでもなし。水平に近いフード面を運転席から斜めに見ても仕方ないわけで、本当はフードの角と中央の3か所を見せてくれるといいんだけどね。この点については車庫入れ編でも触れていきます。
フードと路面の重なる位置が外から見て車両前端からどれくらい離れているかを、今回も調べてみました(前回ステップワゴンのときに「めんどっちいから次もやるかわからない」といったくせに。)。その距離、ざっと2mちょいで、正確には2055mmでした。これは身長176cmの筆者がシートを運転位置にしたとき(シートは最上位)の筆者実測値ですが、ご参考まで。ステップワゴンのときは4300mmだったから、クルマの形でずいぶん変わるもので。
どのクルマもそうですが、センターピラーは中腹あたりを境に、上半分を後ろ側に、根元を前側にして後傾させています。これは後席からの乗降時、乗員の足さばきをよくするための手法で、トヨタが2代めコロナで始めたものです。したがって、フロントドア後端もセンターピラー後傾角に沿って斜めになっているため、以前採り上げたCX-60も今回のエクストレイルも、ドア開時には窓枠エッジが顔前を横切ることに。開け閉めのたびに鋭角が目や鼻に当たりそうでおっかなくてしょうがない。窓枠後辺だけいくらかでも前傾させるとか角を丸めるなど、何か策はないものか・・・筆者は常に角っこを左手で覆ってドア開閉しましたが、これくらいの全高&ドア丈を持つクルマにつきまとう悩みです。
●e-POWERはノートに始まった第2世代版
パワートレーンは、従来は最高出力147ps・最大トルク21.1kgmのMR20DDの直列4気筒2000、もしくはここに31ps・16.3kgmの交流モーターRM31を組み合わせたハイブリッド車の2本立てでしたが、今回は144ps・25,5kgmのKR15DDTの直列3気筒1500+204ps・33.7kgmの交流モーターBM46のe-POWERオンリー。4WDの e-4ORCEなら後輪を136ps・19.9kgmのMM48型モーターが駆動します。
旧型の最終モデルでは1510~1660㎏まで分布していた車両重量が、新型では1740~1880kgまでと格段に重量増となったのに、パワーユニットのほうはエンジンが4気筒2000から、ターボ付きとはいえ3気筒1500なんて、格下げ以外の何ものでもない感じがしますが、そんな考えなど時代遅れで、車両サイズと重量、排気量でスペックを判断するのはとうの終わり。
特に今回の試乗車はシリーズ中最上級にして最も重量のある1880kgのクルマですが、最新の第2世代e-POWERは2トン近い車重を忘れさせる走りを示しました。
パワースイッチ起動後、車庫からにじり出て住宅街を徘徊する範囲でも、幹線路を流れに乗って走っても、エンジン始動は予想よりもずっと遅いタイミング。
始動しても車速が50~60km/hあたりに到達すれば、エンジン音よりもロードノイズのほうが勝ってきますが、エンジンがまわっていても走行音は総じて静かなほうでしょう。
エンジン始動がどうこう書きましたが、停止中はともかく、少なくとも走行中に於いてはエンジンがかかったかどうかを振動で感じることはほとんどありません。静かな環境ではエンジン音とメーター表示、流れに乗り、ロードノイズが室内を占領する頃ならメーター表示でわかるのみ・・・このへん、日産が1991年にU13型9代めブルーバードで、自動車用では世界初で起用し、このエクストレイルでは全機種標準装備である「アクティブノイズコントロール」が効いているのかもしれません。
ハイブリッドもいくつか方式がありますが、本来、日産のe-POWERは、エンジンは発電に徹し、エンジンが起こした電気でモーターを駆動するシリーズハイブリッド。したがってアクセルの踏み放しはモーター出力の増減でしかない・・・はずなのですが、だからといってこの両者がいつでも無関係なわけではなく、停車中にエンジンが自動でまわり、ここでアクセルをばたつかせればそれなりにエンジン回転は上昇します。
ところが高速路で追い越しをかけるとき、あるいは山間道の上りでエンジンが始動すると、エンジンパワーがモーター走行に加勢している印象もありました。エンジンで直接タイヤをまわせばいいものを、エンジンパワーをいったん電気に変換してモーター稼働に充てるなんて、シリーズハイブリッドは何だか無駄なまわり道をしているような気がするのですが、まわり道してもパラレルハイブリッド並みにタイムラグなくエンジンとモーターが協調しているように感じられるのは、実際には電気の消費量に負けじと、可変圧縮比のターボエンジンがフル稼働でセッセと発電しているのでしょう。
タイヤはサイズが235/55R19のHANKOOK ventus S1 evo3 SUV・・・銘柄からおわかりのとおり、日本では新車装着でめずらしい韓国製でしたが、過去の経験から韓国ものにはあまりいい印象を抱いていない筆者も、知らずに乗ったら見抜けなかったに違いないほど、感触は国産タイヤとは大差ないものです。
タイヤ踏面の特性なのか、街乗り、高速路とも、継ぎ目やアスファルトの補修跡を乗り越える際だけコツつく感じがありましたが、こんなのは国産タイヤでも体感することで、韓国製ゆえのウィークポイントとはいえません。
乗り味はやわらかめ・硬めの中間からやや硬めといったところですが、これも筆者が、まるでクルマが「乗せて差し上げる」といっているかのようなやさしい乗り味を好むからやや硬めと感じるだけのことで、多くのひとには受け入れられる乗り味だと思います。国産車でまま見られる、継ぎ目越えの際の、前輪が1回揺れて通過したあと、後輪は2度3度揺れるといったこともありませんでした。
ハンドルはかなりクイックで、遊びが存在しないといっていいほど鋭く、わずかな操舵でもノーズが鋭く向きを変えていく・・・ホイールベースは2705mmなのに、エクストレイルの走りはもっと短いホイールベースの、1500cc級のハッチバック車に乗っているようなハンドリング。街乗りでは持てあますサイズですが、挙動に関してはサイズを感じさせません。
235/55R19というサイズから、計算上のタイヤ径は741.1mm。同じホイールベースでもタイヤ径が大きくなれば相対的にホイールベースは短くなったのと同じと筆者は勝手に考えていますが、まずはクイックなステアリングギヤ比であるにしても、エクストレイルはこの論を(ちょっとは)証明しているような気がしています。
タイヤが太くても前輪切れ角が大きいのは車幅拡大の恩恵でしょう、巨体の割に小まわりは効くほうで、このサイズでの最小回転半径5.4mは及第点かほめられる部類。筆者が以前使っていた、同じ日産のティーダでやっとターンできた場所を、エクストレイルでも同じ感覚でまわることができました。幅も長さもこんなに違うのに。ハンドルのハジからハジまでの回転量は2回転+190°、片側では左右まったくおんなじ1回転と95度・・・たったこれだけで小さくまわるんだから、そりゃあハンドリングだって鋭いはずだョ!
●e-Pedal Step
最新日産車に不慣れなひとが街乗り加速でギクシャク感を抱くとしたら、それは知らぬ間に「e-Pedal Step」をONにしているせいです。
カタログ表記では「ワンペダル感覚」「アクセルペダルを戻すと最大0.2Gの減速度を発生。フットブレーキの回数を減らし、ワンペダル感覚のイージードライブを実現・・・」とあり、実際、説明どおりの働きをしてくれます。
ちょっと雑にいえば、e-Pedal Stepは、幼少時にデパートの屋上で乗った、100円玉を入れて走るバッテリーカーの感覚。あのバッテリカーは床に設置した押しボタンを右足で踏み放しするだけで走行&惰性停止するもので、停止するためのブレーキはありませんでした。e-Pedal Stepも似ていて、確かにアクセルを踏めばいつもどおり加速するいっぽう、放せばブレーキを踏まずとも踏んだのと同じ挙動で回生ブレーキにより減速します(完全停止まではしない。)。
このブレーキ制御、てっきり内部で行っているのかと思ったのですが、右足の左側で何か気配を感じるなと思って足元を見たら、何とナイト2000よろしく、ブレーキペダルが勝手に動いていました。何のことはない、ブレーキ左足派のひとが右足アクセルと併せ、絶えずどちらかの足を動かしているのと同じなだけ。
というわけで、通常は、行く先に赤信号が見えたらアクセルを放し、ある程度の空走時間で減速してブレーキ操作、停止に至りますが、e-Pedal StepをONにしていればこの空走時間が存在しません。アクセルを放したときはもちろん、緩めたときでも見逃さず、ブレーキペダルはたえず動いているからです。
メーター内のエクストレイルのリヤスタイルのイラストを見ると、e-Pedal Stepがブレーキを働かせているとき、ストップランプが点灯していることがわかります。これはいつでもというわけではなく、減速度合いによって点灯したりしなかったりなのですが、心配だったのは、交通状況に応じてアクセル踏み込みと緩め気味を混在させて加速していくときです。よく下手なドライバーで、ほんのちょっとでも車間が詰まるたび、ちょんちょこちょんちょこブレーキを踏んで、のべつ幕なしにストップランプを点灯、というよりももはや点滅させているのがいますが(タクシーにも多い)、e-Pedal Step作動時は、後続車から見ると同じように見えているはずで、後ろのドライバーをイラつかせることにならなきゃいいがなと思いました。
率直にいうと、このe-Pedalがどれほど便利なのか、しばらくONにしたまま走ってみたのですが、こういったデバイスのないクルマに乗り慣れた身には、街乗りではギクシャク、高速路では必要以上に車速の落ち込みが大きく、使いにくいものでした。慣れればいいのでしょうが、それまでは時間が必要と思われ、早々にOFFにしました。唯一使い出があるかなと思ったのは山間道の下り。電制シフトを「B」にしても回生減速が足りないような下り勾配では、大きな減速力をアクセルを離すだけで発してくれるので、このようなときは初めからONにしておくといいでしょう。どうにも好みが分かれそうなデバイスなので、シチュエーションに応じて使い分けするのがいいと思われます。
ところで。
このエクストレイルで感心したのは、走っている間じゅうボディの剛性が高く感じられたことでした。1990年代半ばあたりから衝突試験が年々厳しくなるにおよび、ある時期までは「ボディがしっかりしているな」と新型車に乗るたびに感じ取った(つもり)ものですが、それがいつしか当たり前になり、昨今あまり意識しなくなっていました。
この「当たり前」に慣れきっているにもかかわらず、あらためて剛性感を意識させられたということは、このクルマの場合は剛性感が他よりも1ステップも2ステップも上にシフトしているといっていいのではないか。
剛性と強度は別ものですが、強度があれば剛性は概して高い傾向にあるとはいえます。
エクストレイルのボディがどれほどのものなのか、積極的にぶつけて確かめてみたい・・・そんな悪い冗談がいいたくなるほどしっかりしたボディでした。
今回はここまで。
次回は運転支援機能を採りあげます。
(文:山口尚志 モデル:星沢しおり 写真:山口尚志/日産自動車)
【試乗車主要諸元】
■日産エクストレイル G e-4ORCE アクセサリー装着車〔6AA-SNT33型・2022(令和4)年7月型・4WD・ステルスグレー&スーパーブラック2トーン/ブラック内装〕
★メーカーオプション(税込み)
・アダプティブLEDヘッドライトシステム(オートレベライザー付):3万3000円
・クリアビューパッケージ(リヤLEDフォグランプ):2万7500円
・BOSE Premium Sound System(9スピーカー):13万2000円
・ステルスグレー/スーパーブラック 特別塗装色:7万7000円
・ルーフレール+パノラミックガラスルーフ(電動チルト&スライド、電動格納式シェード付):18万1500円
★販社オプション(税込み)
・グリルイルミネーション(インテリジェント アラウンドビューモニター付車用):6万3840円
・日産オリジナルドライブレコーダー(フロント+リヤ):8万6302円
・ウインドウ撥水 12ヶ月(フロントガラス+フロントドアガラス撥水処理):1万1935円
・ラゲッジトレイ:1万7800円
・デュアルカーペット:3万9800円
・滑り防止マット:1980円
・アドベンチャーズパッケージ(リモコンオートバックドア・インテリジェント アラウンドビューモニター付車用):16万3118円(セット内容:フロントアンダーカバー、リヤアンダーカバー、フロントバンパーフィニッシャー(ブラック))
・フードディフレクター:2万9800円
●全長×全幅×全高:4660×1840×1720mm ●ホイールベース:2705mm ●トレッド 前/後:1585/1590mm ●最低地上高:185mm ●車両重量:1880kg ●乗車定員:5名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ:235/60R18 ●エンジン:KR15DDT型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:1497cc ●圧縮比:8.0-14.0 ●最高出力:144ps/2400-4000rpm ●最大トルク:25.5kgm/2400~4000rpm ●燃料供給装置:ニッサンDi ●燃料タンク容量:55L(無鉛レギュラー) ●モーター型式(フロント):BM46 ●種類:交流同期電動機 ●最高出力:204ps/4501-7422rpm ●最大トルク:33.7kgm/0-3505rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池(-/-) ●モーター型式(リヤ):MM48 ●種類:交流同期電動機 ●最高出力:136ps/4897-9504rpm ●最大トルク:19.9kgm/0-4897rpm ●動力用電池(個数/容量):リチウムイオン電池(-/-) ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):18.3/16.1/19.9/18.4km/L ●JC08燃料消費率:-km/L ●サスペンション 前/後:ストラット式/マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク ●車両本体価格:478万8700円(消費税込み・除くメーカーオプション)