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■銚子電気の中古車の導入は30年振り
「ぬれせんべい」で有名な千葉県の銚子電気鉄道は、2015年8月17日付のプレスリリースにおいて南海電気鉄道(大阪府・和歌山県)の2200系(モハ2202+モハ2252)を8月15日に譲受したと発表しました。
銚子電鉄は7月5日に開催した「銚電まつり」の会場で、2023年度中に新車両を導入することを発表。この時、竹本社長は現在運行している2000形・3000形のような中古の中古車(両形式とも京王→伊予鉄道→銚子電鉄への譲渡の推移)ではないが、中古車であると発言しています。
このため、ネットでは静岡鉄道1000形ではないかという憶測の声が強かったのですが、南海2200系と発表されたことで、ネットでは驚きの声が多く聞かれました。
なお、2200系の導入に伴い、現在運行している2000形デハ2001+クハ2501は2023年度中に退役することも発表されました。
2000形はもともと1962年に製造された京王電鉄2010系・2500系。1984・1985年に伊予鉄道に譲渡されて800系として使用された後、中古の中古車として銚子電鉄に譲渡されました。2000形は製造61年を経過しています。
一方新たに導入される2200系モハ2202+モハ2252は1969年に22000系として新造された車両で、高野線で活躍した後、ワンマン化改造されて形式を変更しました。こちらも製造されてから54年を経過した結構なベテラン車両です。
南海2200系の譲受について銚子電鉄と南海電鉄が検討した結果、「南海2200系であれば改造することにより銚子電鉄での運行が可能である」という結論に達したそうです。
2200系は今後、銚子電鉄での走行に必要な改造を施した後に運行を開始しますが、今のところ運行開始時期は未定だそうです。なお、銚子電鉄が中古の中古車ではない、中古車を導入するのはデハ1000形(元地下鉄銀座線2000形)以来約30年振りです。
●ここ十数年の地方鉄道新車・中古車事情
銚子電鉄に限らず、1960年代に製造された新車・中古車の老朽化が進んでいる地方私鉄が各地にあります。ここでは2010〜2023年に地方私鉄が導入した新車・中古車(観光車両等を除きます)を見てみましょう。
近年の傾向は、省エネルギー・省メンテナンス性に優れたVVVFインバータ車が歓迎されていることです。一方で、地方私鉄の多くが欲しがっている18m級中型車体の中古車が少なくなっていて、需要と供給のバランスが崩れています。
この期間に自社発注の新車を導入した地方私鉄は、静岡鉄道(静岡県)と一畑電車(島根県)の2社だけです。静岡鉄道は2016年からA3000形を順次導入しています。置き換え対象となっている1000形も自社発注車で、これは地方私鉄としては珍しい事例です。
一畑電車は2014〜2015年度に東急電鉄1000系3編成を譲受しました(後述)。しかし、1000系の引き合いが多くて必要数を確保できなかったため、不足分を新車で賄うこととして、2016〜2017年度に7000系4両を新造しています。なお一畑電車が新車を導入したのは86年振りです。
上毛電気鉄道(群馬県)は新車の導入を計画しましたが、受注メーカーの折り合いがつかずに断念し、2023年度以降に東京メトロの中古車を譲受する計画に変更しました。どの車両を譲受するかはまだ未定のようです。
近年中古車として一番多く譲渡されたのは東急電鉄の1000系です。福島交通(福島県)に14両、上田電鉄(長野県)に10両、伊賀鉄道(三重県)に10両、一畑電車に6両の合計40両が譲渡されました。
1000系は18m級の中型ステンレス車体のVVVFインバータ車で、1988〜1992年に113両が製造されました。地方私鉄にとっては理想的な車両なのですが、東急も池上線や東急多摩川線でまだ使っているので、前述した一畑電車のように必要数を調達できず、新車で補完した例もあります。
伊賀鉄道は近鉄(近畿日本鉄道)から分離した鉄道会社で、当初近鉄からの譲渡車を使用していましたが、現在は元東急1000系の200系に置き換えました。
伊賀鉄道と同じく近鉄から分離した養老鉄道(三重県・岐阜県)も元近鉄車両の一部を置き換えるために東急7700系15両を譲受して、2019〜2020年に順次運行を開始しました。
7700系は1960年代に製造された7000系の一部を1987〜1991年にVVVFインバータ制御に改造した車両。車体の経年はすでに50年を経過していますが、腐食しにくいステンレス製です。また、機器類は新しいことから譲受後30年程度使用される予定です。
東急の車両は20m級大型ステンレス車の譲渡も行っています。2010年以降では2010・2013年に8090系を秩父鉄道(埼玉県)に譲渡したほか、8590系を2013・2019年に富山地方鉄道(富山県)に譲渡しています。
東京メトロは1983〜1997年に製造した銀座線用01系と1988〜1994年に製造した日比谷線用03系を地方私鉄に譲渡しています。両形式ともアルミ合金車体を採用。01系は16m級小型車、03系は18m級中型車です。
01系は4両が熊本電気鉄道(熊本県)に譲渡され、01形となりました。
日比谷線用03系は長野電鉄(長野県)に15両、北陸鉄道浅野川線(石川県)に10両(順次譲渡中)、熊本電気鉄道に6両が譲渡されました。
前述した通り、上毛電気鉄道も東京メトロの車両の譲受を検討しています。
長野県のアルピコ交通は東武鉄道から20000系を譲受。20100形として2022〜2025年に順次導入中です。
東武20000系は地下鉄日比谷線乗り入れ用の中型車として1988〜1997年に192両が製造されました。日比谷線乗り入れ運転終了後、88両が東武日光線・宇都宮線・鬼怒川線用に改造されています。
地方私鉄の中にはJRから車両を譲受した例もあります。上信電鉄(群馬県)はJR東日本107系を譲受して2019〜2020年に700形として導入しました。107系はJR時代も高崎エリアで運用していました。
JR東日本の205系通勤形電車は2012〜2019年に3両編成7本21両と部品取り車2両を富士山麓電氣鐵道(山梨県・当時は富士急行)に譲渡。6000系として運行しています。
伊豆急行(静岡県)は房総エリアで使用されていたJR東日本209系4両編成2本を譲受して、3000系として2022年から運用しています。
千葉県の小湊鐵道は老朽化した自社発注車両キハ200形の初期車を置き換えるためにJR東日本からキハ40形を5両譲受して、2021年から順次運用に入りました。
●銚子電鉄以外にもある中古の中古車を導入した私鉄
以前の銚子電鉄のように、中古の中古車を最近導入したのは岳南電車と大井川鐵道。いずれも静岡県の私鉄です。
岳南電車は2018年に9000形を導入しました。この車両は京王5000系→富士急行(現・富士山麓電氣鐵道)1200形を譲受した中古の中古車です。
9000形導入以前から活躍している元京王3000系の中古車、7000形・8000形も引き続き運行しています。
大井川鐵道が2015年から運行している7200系は、東急7200系→十和田観光電鉄(2012年廃止)7200系を譲受した車両です。十和田観光電鉄譲渡の際に両運転台形に改造されています。
大井川鐵道には近鉄や南海の中古車も活躍しています。両社に共通しているのは、車両の購入コストを極力抑える必要があったことです。このような台所事情は多くの地方私鉄が抱えている問題で、欲しい車両をいかにリーズナブルに手に入れることができるかが課題となっています。
今回紹介した以外にもいろいろな中古車を走らせている鉄道会社がありますが、自動車と違って鉄道車両の中古車はただ買えば良いというわけではありません。車両価格はもちろんのこと、使用環境に合わせて改造するコストもかかりますし、輸送費もかかります。
地方私鉄各社は、これらの導入コストを色々検討した上でどんな中古車を選ぶのかを決めています。そういったことを考えると、今回銚子電鉄が南海2200系を譲受するまでにも色々なドラマがあったのだと思われます。
(ぬまっち)