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■内燃機関仕様の最上級SUVメルセデス・ベンツGLSとサイズを比較
メルセデス・ベンツのEQS SUVは、バッテリーEV(BEV)シリーズである「EQ」の最上級モデルであり、BEVのSUVで頂点に君臨するモデルでもあります。車名から見ればEVのSクラスであり、そのSUV版ということになります。
とはいえSクラスとEQSではデザインも走りも当然異なり、EQS SUVは「EVA2」というEV専用プラットフォームが採用されています。EQS SUVのリチウムイオン電池は107.8kWhという大容量で、航続距離は589km〜593km。
日常使いはもちろん、ロングドライブまで航続距離が気になってしまうというレベルではなく、十分に実用的といえるでしょう。
充電は6.0kWまでの普通充電と、150kWまでの急速充電(CHAdeMO規格)に対応。バッテリーの保証は、「EQケア」により10年もしくは25万kmの性能(残容量70%)まで保証されます。
セダンのEQSも同じ電池容量で、航続距離は700kmに到達しています。
EQS SUVは2880kgという重量で、EQSセダンは、後輪駆動モデルが2530kg、4WDモデルが2670kgで、最大で350kg(4WD同士の比較だと210kg)という差があります。
なお、EQSセダンの4WDは601km。4WDのみとなるEQS SUVの589km~593kmという航続距離は、重量による差と考えてよさそうです。また、メルセデス・ベンツには、内燃機関仕様(ICE)として、最上級SUVに位置づけられるGLSもあります。そこでまずは、EQS SUVとGLSを比べてみます。
●EQS SUVとGLS比較 ボディサイズ/ホイールベース/最小回転半径
EQS SUV:全長5130×全幅2035×全高1725mm/3210mm/5.1m
GLS:全長5120×全幅1995×全高1825mm/3135mm/5.8m
全長はほぼ同じくらいで、全幅はEQS SUVの方が40mmワイド。全高は100mmもGLSの方が高くなっています。Aピラーは緩やかに傾斜し、流れるようなルーフラインを経て、リヤピラーから急降下するイメージ。
一方のGLSは、背の高さに加えて、キャビンの長さを予感させる直線基調のルーフラインが目を惹くほか、フロントグリルも直立していて、押し出しが効いています。
EQSはクーペのようなシルエットが特徴で、EQS SUVもそうした流れを抱かせます。とはいえ、EQSの「ぬめっ」とした未来感あふれるエクステリアなのに対し、EQS SUVはそこまで極端な曲線や曲面で構成されていない印象を受けます。
両車は全長がほぼ同じで、全幅は40mmも広いEQS SUVの方が、最小回転半径が圧倒的に小さくなっています。
これは、EQS SUVに標準のリヤアクスルステアリングのおかげ。後輪が最大で10度切れることで、驚くほど小回りが利きます。5.1mはコンパクトハッチ並で、コンパクトSUVのヤリスクロスが5.3mですから、サイズよりも取り回しがしやすく感じられるのは当然かもしれません。
試乗会の起点となった六本木からお台場までの往復では、首都高速道路の入り口や駐車場の出入り口でもほとんど苦労することなくクリア。狭い住宅街や駐車場などでは、その巨体は持て余すことはあるでしょう。それでも、GLS級のフルサイズSUVと比べても取り回ししやすいのは確かです。
●バッテリーやパワートレーンはEQSセダンと同じ、EQS SUVは4WDモデルのみ
EQS SUVのパワートレーンは、EQSセダンの4WDモデルと同様に、前後アクスルに永久磁石同期モーターが配されています。試乗したのは「EQS 450 4MATIC SUV」で、最高出力265kW(360PS)・最大トルク800Nm。なお、「EQS 580 4MATIC SUV Sports」は、最高出力は 400kW(544PS)・最大トルクは858Nmに達します。
動力性能は「EQS 450 4MATIC SUV」でも何ら不満はないのは当然で、2.9t級の超重量級ボディを余力ある加速で速度を乗せていきます。
さすがに軽々と…という表現はできないのは、あえてそうした穏やかなセッティングにしているからと思われます。この重さで急加速するとドライバーも乗員もかなり酔いそう。
なお「S」モードにすると、豪快と表現できる加速感が得られ、首都高速の流れを容易にリードできました。
また、回生ブレーキから最後にメカブレーキを踏んだ際に、その重さを最も実感させます。乗り心地は、良好な路面であれば重厚感のあるテイストで、好感が持てる一方で、少し道路が荒れてくると、その重さによる振動や揺り戻しを吸収しきれないような、ドタバタとした振る舞いも多少感じられます。
BEV専用プラットフォームを使っているEQS SUV。パッケージングや居住性も気になります。1列目から3列目まで床下にバッテリーを積んでいることを実感させる床面の高さで、「上げ底」感は否めません。
運転席の美点は、左足まわりも広くてペダルレイアウトも適正である点。GLKのように、ひと昔前まで内燃機関仕様で4WDの右ハンドル化に時間がかかり、右ハンドル化されてもトランスファーなどの張り出しなどもあってか、左足が押されるように狭く感じられましたが、EQS SUVはその巨体に加えて、BEV化の恩恵も抱かせます。
特等席は2列目で、スライドを最後端にすると、足をゆったり伸ばせるほどの空間が広がります。なお、3列目に座る乗員のために2列目を前寄りにしても、1列目座面下に足がすっぽりと入るのも長所です。
その3列目は、開口部が狭く、足の置き場に困ることもあり、かなり窮屈な乗降姿勢になります。それも考えると非常用の域を出ませんが、収まってしまえば、それなりに座れる設計になっています。
ただし、先述したように、高い床に加えて座面のヒール段差もかなり低いため、膝を抱えるような姿勢になります。身長171cmの筆者で頭上には手の平2枚ほどの余裕が残り、2列目下にも足が入りました。
3列目にお年寄りが座るのは、乗降性からすると非現実的ではあるものの、子どもや小柄な人であれば、緊急用としては十分に役割を担ってくれそうです。
やや高床であることは否めませんが、パッケージングとしては十分に成立しているEQS SUV。3列シートSUVでBEVとなると、選択肢はこのEQS SUVと、同じくメルセデスのEQBやテスラのモデルX、モデルY(日本は2列5人乗りのみ)くらいしか現在はありません。
電動化でもICEモデルと同じようなラインナップを構築しつつあるメルセデスの底力を感じさせます。
●EQS SUV価格
「EQS 450 4MATIC SUV」:1542万円
「EQS 580 4MATIC SUV Sports」:1999万円
(文:塚田 勝弘/写真:塚田 勝弘、メルセデス・ベンツ)