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■フレームやモーターなどを改良し戦闘力アップ
カーボンニュートラル実現に向けて、クルマだけでなく、バイクについても電動車両の実用化が検討されており、各バイクメーカーでもさまざまなモデルを開発中です。
そんな中、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)が現在開発を進めているのが、100%モーターとバッテリーで走る電動トライアルバイクの「TY-E」。岩山や沢など自然の地形を活かし、障害物などが設けられたセクションを走破するオフロード競技用に開発されている電動バイクです。
2018年に発表され世界選手権なども闘ってきたこのモデルですが、2023年からは電動バイクでは史上初となる全日本トライアル選手権にフル参戦を実施。「ヤマハファクトリー・レーシングチーム」所属の黒山健一選手と共に、最高峰クラス「IAスーパー」で活躍中です。
ヤマハは、そんな電動トライアルバイクTY-Eについて、より進化させた最新型「TY-E2.2」を、全日本トライアル選手権の後半戦に実戦投入することを発表。
シリーズ第4戦では、電動バイク初の表彰台も獲得し、徐々に戦闘力を増してきているマシンだけに、どのようなアップデートが行われたのかが気になるところです。
●国内外のトライアル競技に参戦
ヤマハが「FUN×EV」というコンセプトのもと、CO2を排出しないことはもちろん、乗っても楽しい次世代のバイクを目指して開発しているのがTY-Eです。
これまでも、国内外のトライアル競技に参戦し、徐々に実力をアップさせてきたのがこのモデル。ライダーには、前述の日本人トップライダーでヤマハワークスの黒山選手を起用。2018年と2019年には電動バイクの世界大会「FIMトライアルE-カップ」へ参戦し、いずれも年間ランキング2位を獲得しました。
また、2022年には、世界最高峰の「FIMトライアル世界選手権」フランス大会にも、やはり黒山選手のライディングで挑戦。エンジン車と共に激しい戦いを披露しました。結果は、マシントラブルなどもあり残念ながら31位に終わっていますが、黒山選手いわく「ポテンシャルは十分にあった」といいます。
そして、2023年シーズンは、前述の通り全日本トライアル選手権IAスーパーの全8戦へ挑戦。同じくライダーは黒山選手で、2022年型をアップデートした「TY-E2.1」を擁し、6月25日に行われた第4戦 和歌山・湯浅大会では2位に入賞。全日本史上初となる、電動トライアルバイクでの表彰台を獲得しました。
さらに、5月に開催されたTrial2世界選手権・日本グランプリのDay2では、日本人最上位の4位に入る活躍も披露。TY-E2.1と黒山選手のコンビが、高いポテンシャルを持つことを見事に実証しました。
●車体サイズは変えず細部をアップデート
そんなTY-Eの最新型となるのがTY-E2.2で、全日本トライアル選手権の後半戦、7月16日開催の第5戦 北海道・和寒大会(わっさむサーキット)から実戦投入されます。
最新型の主な改良点は、まずフレーム。TY-Eは、従来からCFRP製のコンポジット(積層材)モノコックフレームを採用しており、軽さや高い強度には定評があります。
最新モデルでは、それをベースに、さらなる軽量化と剛性の最適化を進め熟成を図ったことがポイント。特に、EVの駆動特性に合わせてより高い運動特性を引き出すため、縦、曲げ、ねじり剛性を見直しているとのことです。また、バッテリー冷却用ブロアーをフレーム内部に搭載し、あらゆる環境下で安定した出力が得られる工夫も施されているといいます。
なお、TY-E2.2の車体サイズは、全長2003mm×全幅830mm×全高1130mm、ホイールベース1310mm。車両重量70kg以上。このスペックは、前モデルのTY-E2.1と同じですから、車体の大きさや重さなどはほぼ変えず、フレームの特性などをアップデートしているようです。
また、モーターも新設計。出力密度を高めるためにコイル径、ターン数、材質などの諸元を見直し、高効率化などを実施。低速での豊かなトルクに加え、中高回転域でもよりトルクを引き出すことに成功しています。
加えて、モーターコントローラー(MCU)も新開発。小型化したうえに、高効率化により発熱も低減。モーターとバッテリーの性能を最大限まで引き出し、出力特性のアップに貢献しているといいます。
さらに、制御ソフトも改良。ヤマハがこれまで開発した制御技術をベースに、ライダーの求める細かな要求に応えられるアップデート版を実装しています。
ライダーは、もちろんTY-Eのデビュー当時からライディングを担当してきた黒山選手。より戦闘力を増したTY-E2.2と黒山選手が、全日本トライアル選手権の後半戦でどんな活躍をみせてくれるのか期待したいですね。
(文:平塚 直樹)