■市場のニーズに応えてシリーズ初の2WD車を設定
2022年9月に世界初公開され、11月から予約開始されたコンパクトSUVのスバル・クロストレック。
これまで国内市場ではスバルXVというネーミングで販売されていましたが、3代目となる現行モデルからは、海外で使用されている「クロストレック」に統一され、イメージの強化を図りました。
車名のクロストレックは、「CROSSOVER+TREKKING」の意味で、カジュアルなトレッキングシューズのように「街中からアウトドアまでシーンを選ばず、どんな場所にもマッチし、アクティビティのパートナーとして、クルマと過ごす時間を愉しんでもらいたい」という開発陣の想いが込められています。
2012年に販売開始した初代XVのオーナーだった筆者にとって興味深いモデルである、進化した都市型SUVのクロストレックに公道で試乗することができましたので、インプレッションを紹介しましょう。
新型クロストレックの注目のポイントは、大きく3点あります。
まずは、2WD(前輪駆動)モデルを設定したこと。従来型のXVは4WDモデルのみでしたが、コンパクトSUVは2WD車の販売比率も高いということもあり追加されています。
続いては、新型ステレオカメラを採用した新世代アイサイトに加えて、スバルの国内販売車初となる広角単眼カメラを追加し、二輪車や歩行者を認識でき、プリクラッシュブレーキで対応できるシーンを拡大させて、これまで以上に高い安全性能を実現していること。
そして、新しい目的地設定の方式として、こちらもスバルの国内販売車初となる「what3word」を採用していたことが挙げられます。
試乗したのは、上級グレードのリミテッド4WD車で車両本体価格は332万2000円。
オプション装備としてダークグレー塗装のルーフレール(5万5000円)、ステアリングヒーター(1万6500円)、フロントシートヒーター(3万3000円)、ナビゲーション機能(8万8000円)、サンルーフ(電動チルト&スライド式)8万8000円。そして本革シート(11万円)を装着し、オプションの総額が39万500円。合計で371万2500円という仕様です。
クロストレックのボディサイズは、全長4,480mm×全幅1,800mm×全高1,580mmです。旧型XVは全長4,485mm×全幅1,800mm×全高1,550mmでしたので、全高が30mm高くなった以外はほとんど変わっていません。
ボディの骨格には旧型XVで採用された「スバルグローバルプラットフォーム」を進化させただけでなく、レヴォーグなどで採用されているフルインナーフレームの採用や構造用接着剤の拡大、サスペンション取付部の剛性向上などを実施し、高い動的質感を実現しています。
クロストレックの外観デザインのポイントは、クラッディングエリアを拡大し、タフさを強調していること。そしてインテリアのポイントは、11.6インチのセンターインフォメーションディスプレイを採用し先進性を強調しています。
もう1点、クロストレックのインテリアのポイントはシートです。仙骨を抑えて骨盤を支えるシート構造を採用しました。これにより、車体の揺れが頭部に伝わることを防ぎ、ステアリング操作に伴うロールや路面のうねりなどで乗員の体が大きく揺れたときでも優れた乗り心地を実現しています。
さらにシートと車体の固定構造を、従来のブラケットを介した方法からシートレールを直接車体動的質感に固定する構造に変更しています。この結果、取付部の剛性と振動収束性が向上し、シートそのものの揺れを抑えて、乗り心地の質を高めています。
クロストレックに搭載されているパワートレインは、e-BOXERと呼ばれる最高出力145ps・最大トルク188Nmを発生する2L水平対向4気筒自然吸気エンジンに、最高出力13.6ps・最大トルク65Nmを発生するモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドシステムの1種類です。
エンジンやモーターの数値は旧型XVから変更されていませんが、エンジン、モーター、バッテリーの制御を全面刷新しています。さらに、エンジンとトランスアクスルの結合部の曲げ剛性を向上させるなど、走りの質感を向上させています。
組み合わされるトランスミッションは、リニアトロニックと呼ばれるCVTで、駆動方式は従来の4WDに加えて2WD(FF)も設定されています。
安全装備では、画角を従来型の約2倍と大幅に拡大した新型ステレオカメラユニットを採用。さらに画像認識ソフトや制御ソフトを改良し、より広く遠い範囲まで認識できるようになりました。
そして、低速での走行時にステレオカメラよりも広角で二輪車や歩行者を認識できる単眼カメラを、スバル国内販売車として初採用。これにより、プリクラッシュブレーキで対応できるシチュエーションを拡大させています。
●初代XVと新型クロストレックの一番の違いは、マイルドHVのスムーズさ
それでは、クロストレックのインプレッションを紹介しましょう。
筆者は新型クロストレックのルーツとも言える初代XVハイブリッドを5年間所有していました。新型クロストレックに乗ってまず感じたのは、マイルドハイブリッドシステムがスムーズになったことです。
搭載されているe-BOXERと呼ばれるマイルドハイブリッドシステムは同じですが、初代XVハイブリッドの時は、モーターとエンジンの切り替えにギクシャク感がありましたし、エンジンが始動する際の振動もかなり大きかったです。
しかし、新型クロストレックはこういった点がすべて改善され、エンジンとモーターの切り替えが非常にスムーズですし、エンジンが始動していることがディスプレイを見ないとわからないほど振動が抑えられています。
燃費性能はカタログのWLTCモードで15.8km/L。実走行では14km/Lぐらいだと思うので、燃費性能があまり進化していないのが残念なところです。
新型クロストレックに試乗して素晴らしいと感じたのは、まずシートの座り心地、ホールド性の良さです。シートバックから座面にかけてセンターの部分が沈み込むことで、乗員の骨盤をしっかりと支えてくれます。
これにより、カーブの続くワインディングを走行しても、体が大きく揺さぶられることもなく頭がほとんど揺れません。これは疲れにくいだけでなく、正確な運転をすることができます。
また、同じスバルグローバルプラットフォームを採用した旧型XVでは、リアのサスペンションが硬めで、突き上げ感を感じましたが、新型クロストレックではこの点がしっかりと改善されており、SUVらしい大らかな乗り心地は非常に好感が持てます。
旧型XVから採用されたスバルグローバルプラットフォームですが、2世代目となる新型クロストレックで、より進化しフラットで疲れにくい乗り心地を実現しています。
国産車の中でも信頼性の高い運転支援システムであるアイサイトがさらに進化し、走行性能の質感を向上させているクロストレック。国産コンパクトSUVの中でも、高い実力を持つモデルと言えます。
一点、残念なのはスムーズさが向上したとはいえ、新しいパワートレインが投入されていないこと。マイルドハイブリッドではなく、フルハイブリッドやプラグインハイブリッドの導入を期待したいところです。
(文・写真:萩原 文博)