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■固定概念を外して14年ぶりの進化に注目する
2023年2月24日に発表、3月2日から発売されたルノー新型カングー。すでに多くの媒体などで紹介され、とくにスタイリングについてはさまざまな感想が聞かれます。
そこで、ルノー自身が「ひと目でカングーと分かるデザイン」と謳うエクステリアデザインについて、いま一度じっくり検証してみたいと思います。
●コンパクトさを維持した最小限の大型化
まずボディ全体では、210mm長く、30mm広くと拡大されたサイズがトピックですが、15mm増に止まったホイールベースと合わせて過度な大きさは感じられません。たとえば、トヨタのノアとの比較では200mm以上短く、85mmも低いなど、一回り小さく収まっています。
また、より傾けたAピラーを筆頭に「箱感」はなく、圧迫感も強くありません。このあたり、ノアや日産のセレナなど容積満杯のミニバンというより、ひとつ下のシエンタに近いイメージのようです。
フロントフェイスは、たとえばアルカナやキャプチャーと同じ方向性ながら、ランプ外形を明確な角型とし、グリルを大きくしました。これは、働くクルマとして機能性を前面に出した表情。「顔がイカつくなった」という声を多く聞きますが、それこそノアやセレナなどと比べれば至極真っ当と言えます。
ただ、バンパー両端のエアディフレクターの形状は少々、流行に乗りすぎた感があります。最近はシンプルなデザインに回帰するメーカーが増えていますが、たとえばマツダなど、ロアバンパーをスッキリ整理している例を見ると、とくにそう思わせます。
●走りのよさを感じさせる重心の低さ
サイド面では、B、Cピラーがブラックアウトされた、前後に長いグラフィックが大きな特徴です。まさにノアやセレナのようにイマドキな表現で、のんびりと素朴な雰囲気を醸し出していた、先代までの「丸い窓」は姿を消しました。
さらに、ドアパネル上辺を含めたルーフが厚く、その分サイドガラスの上下幅が薄くスリムに。加えて、リアクオーター部でキックアップさせることで軽快さが生まれ、新型が「乗用車」的なモデルチェンジであることに気が付きます。
もうひとつ、ボディサイドではドアハンドルの高さに引かれたショルダーラインも特徴。ルノーはこれでボディに力強さが出たと謳っていますが、ボディをグッと押し下げる効果も大きいようです。この重心の低さは、やはり低くなったリアランプへつながることで一層強調されています。
一方、リアビューではお約束のダブルバックドアがウリですが、デザイン的にはとくに2分割としての表現はありません。それよりも、リアパネル全体の豊かな張りが、サイド面の抑揚と相まって高い質感を表現。また、横長のガーニッシュもさりげなく低重心ぶりを助けているようです。
●デザインの進化を正面から見つめるべき
最後に、日本市場専用とされるブラックバンパー仕様ですが、これについては少々懐疑的です。フランス本国のバンタイプをうまく使ったようですが、そこまでして従前のイメージを踏襲するのは、少なくともデザイン的な視点では思考停止に近いと言えます。
どうせ日本仕様を設けるのであれば、あくまでもボディ色バンパーを基本とし、そこにブラックのサイドプロテクターを付けた方が面白かったと思います。それがいいアクセントとなり、たとえばシトロエンのベルランゴや、それこそシエンタのように適度な道具感を出せたのではないでしょうか?