■レース直前での欠場発表
2023年3月15日(水) 16時発行のTOYOTA GAZOO RACINGプレスリリースによると、2023年3月18日(土)~19日(日)に開催の「E N E O S スーパー耐久シリーズ2023 Powered by Hankook第1戦 SUZUKA S耐 5時間レース」に参戦を予定していた「32号車 ORC ROOKIE GR Corolla H2 Concept」(水素エンジンカローラ)の欠場を決定したとのことです。
原因は、3月8日(水)に富士スピードウェイで占有走行をした際に、エンジンルームの気体水素配管からの水素漏れによる車両火災が発生。その結果、車両の復旧が間に合わないため、出場を断念したとのことです。
なお代替車両として「ORC ROOKIE GR Yaris」(ガソリン)での走行を予定しているとのことです。
ROOKIE RACINGのGRヤリスは2020年にデビューし、開幕の富士24時間レースでクラス優勝。
その後も勢いはとどまるところを知らず、2020年のST-2クラスチャンピオンとなったマシンで、MORIZOこと当時のトヨタ自動車社長、豊田章男氏がこのGRヤリスのドライバーの一人であったことで、自動車メーカーの社長という立場での日本初のチャンピオンとなったことはあまりにも有名です。
しかしながら、「ORC ROOKIE GR Yaris」が2023開幕戦鈴鹿では、ST-Qクラスで走るのか、ST-2クラスで走るのかの発表はなされていません。
●正常に働いた水素カローラの安全装置
プレスリリースには詳細なトラブルの様子も記載されており、それによると「車両振動による配管結合部の緩みが生じたため、水素が漏れたことが分かっております。配管結合部がエンジン近辺にあったため、漏れた水素が熱されることで、引火しました。
一方で、当初設定した狙い通りに、水素リークセンサーによるフェールセーフが正常に機能し、水素の供給が停止され、大幅な延焼は避けられました。その結果、キャビンは守られ、乗員の安全対策について確認する事が出来ました」となっており、最悪の場合でも必要な安全性は保たれられていることが分かります。
今シーズンから液体水素でのレースを行う予定の水素エンジンカローラでしたが、今回のトラブルは液体水素とは全く関係のない部分でのトラブルとのことです。
水素を燃料として使うということで、非常に小さい水素分子は通常のパッキンや配管の接手などとは違った技術を開発して使用しています。だからこそ想定外のトラブルも起こりうるわけで、GRヤリスがスーパー耐久に参戦した際の豊田章男氏の言葉「壊して鍛える」を、水素カローラでも実践していると思えば「壊れるのも開発のうち」と言えるかもしれません。
レーシングカーとして、目の前のレースで走っているのを見てしまっているので勘違いしがちですが、水素エンジンのカローラは水素燃焼制御という要素研究の技術開発を担っているので、「火災を起こすようなけしからんもの」という捉え方は間違っています。
トヨタとROOKIE RACINGが、水素エンジンという未知の技術を開発しているということは、いうなれば欧州原子核研究機構CERNの粒子加速器で、未知の素粒子を発見するようなものと同じです。要素研究が無ければ、その先の商用化はあり得ません。
水素エンジンのカローラは、あらゆる内燃機関でカーボンニュートラルを実現する可能性を秘めています。そんな夢のある研究は暖かく応援していきたいものです。
(写真・文:松永 和浩)
【関連記事】
「水素カローラ」がスーパー耐久2023の公式テストで液体水素を導入【スーパー耐久2023】
https://clicccar.com/2023/03/08/1266245/
【関連リンク】
TOYOTA GAZOO RACINGプレスリリース
水素エンジンカローラのスーパー耐久シリーズ鈴鹿大会欠場に関するお知らせ
https://toyotagazooracing.com/jp/pressrelease/2023/0315-01/