「水素カローラ」がスーパー耐久2023の公式テストで液体水素を導入【スーパー耐久2023】

■液体水素はピットで水素補給ができる!

2023年2月23日(木)に富士スピードウェイで開催された、ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 Powered by Hankook 富士スピードウェイ公式テスト。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept
ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept

「水素カローラ」として話題のORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが、この富士公式テストで使用燃料を液体水素にチェンジして走行を行いました。

高圧気体水素供給設備と水素カローラ
高圧気体水素供給設備と水素カローラ

これまでは、気体水素を高圧で圧縮したものを使用してきました。

高圧気体水素は常温で供給できるというメリットがありますが、貯蔵がかなり大掛かりになる、クルマに積載する量が少なくなってしまうなどのデメリットがあります。

2022年シーズンの水素カローラは、それまでより航続距離が伸びてきたとはいえ、鈴鹿サーキットを5~7周すると水素を補給しなくてはいけませんでした。

液体水素輸送トラックと供給設備
液体水素輸送トラックと供給設備

それに比べて液体水素では1台の水素輸送車でレース7回分の水素を運ぶことができ、また、高圧充填をする必要が無いため昇圧装置を必要としません。この結果、供給設備がかなり小型化されています。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット

この設備の小型化により、参戦3シーズン目にして念願のピット内水素補給が可能となりました。

冒頭の写真をご覧いただくとわかりますが、2022年までは設備が大きすぎてピットとは別の場所で水素を補給しなくてはならず、その作業だけでも1分から2分のロスとなっていました。レースとして考えれば致命的なことです。

液体水素用タンクのカーボン製カバー
液体水素用タンクのカーボン製カバー

また、液体水素は高圧充填をする必要が無いため、タンクのサイズや形状を自由に設定することができます。その反面、温度管理には注意を要するため、現状のタンクはかなり大掛かりなつくりとなっています。

●課題の一つは、-253度をどうやって保つか?

液体水素を表すLIQUID H2表記
液体水素を表すLIQUID H2表記

液体水素は非常に大きなエネルギー密度を持っているために、輸送や貯蔵などを小型化でき、高圧で管理する必要も無く供給装置も簡略化できる、ということは説明しましたが、課題もあります。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット

その中でも大きなものの一つが、その温度管理です。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット
ORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptのピット

液体水素輸送車から水素カローラの燃料タンクまで、液体水素の温度を-253度という、とてつもない低温にしなくてはならないということ。

配管の継ぎ目や圧送装置のポンプまでの全てで、この低温を保つために様々な技術が用いられています。

液体水素輸送トラックと供給設備
液体水素輸送トラックと供給設備

その一つが、全ての装置を通る配管を魔法瓶構造として外気温を遮断するというもの。真空パイプの中に、液体水素の圧送管が入っているというイメージです。この魔法瓶構造を保つために、水素カローラへの水素供給では、リアハッチを開けてタンクに直接配管をつなぐという方法がとられています。

ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept
ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept

燃料電池車を含めて、液体水素を使ったクルマがサーキットを走ること自体、このORC ROOKIE GR Corolla H2 conceptが世界で初めてとなり、先駆者としての産みの苦しみはかなりのものではないかと推測できます。

しかし、内燃機関でのカーボンニュートラルも選択肢に入れようというトヨタの試みは、この液体水素のスーパー耐久導入により、新しいステージに入ったと言ってもいいのではないでしょうか。

(写真・文:松永 和浩

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この記事の著者

松永 和浩 近影

松永 和浩

1966年丙午生まれ。東京都出身。大学では教育学部なのに電機関連会社で電気工事の現場監督や電気自動車用充電インフラの開発などを担当する会社員から紆余曲折を経て、自動車メディアでライターやフォトグラファーとして活動することになって現在に至ります。
3年に2台のペースで中古車を買い替える中古車マニア。中古車をいかに安く手に入れ、手間をかけずに長く乗るかということばかり考えています。
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