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■レーシングカー譲りのエアロダイナミクスを備える
2022年8月18日、ポルシェジャパンは、新型「911GT3 RS」の予約受注を開始しました。新型「911GT3 RS」は、モータースポーツ由来の最先端技術とコンセプトを受け継ぐハイパフォーマンスモデル。
この公道走行可能な高性能スポーツカーは、最高出力386kW(525PS)に達します。
モータースポーツ由来の技術の中でも冷却システムとエアロダイナミクスは、競技専用車両である「911 GT3 R」と直接的に結びついている超本格派です。
そのハイパフォーマンスの鍵を握るのがアクティブエアロダイナミクスで、大パフォーマンス向上の基盤を担うのが、センターラジエータコンセプト。
このアイデアは、ル・マンでクラス優勝を飾った「911 RSR」に最初に使われ、その後「911 GT3 R」にも採用されました。
今回、受注がスタートした新型「911 GT3 RS」は、以前のモデルに見られた3つのラジエータレイアウトとは異なり、フロントノーズの中に配置された傾斜した大型センターラジエーターが使われます。これにより、両サイドに確保できたスペースを使い、アクティブエアロダイナミクスエレメントを統合することが可能になったそう。
フロントの無段階調節式ウイングエレメントと2分割リヤウイングは、ほかの多数の空力対策との組み合わせで、200km/h走行時に合計409kgものダウンフォースが得られます。
新型「911 GT3 RS」が発生するダウンフォースは、先代の991.2世代の2倍、現行の「911 GT3」の3倍に達し、285km/h走行時のダウンフォースは計860kgに達します。
さらに、ポルシェの市販車で初となる「ドラッグリダクションシステム(DRS)」の採用もトピックス。「DRS」は、サーキットのストレートで空気抵抗を抑えて高速を得るために、特定の作動範囲内においてスイッチを押すだけでウイングをフラットにすることができる機能。
エアブレーキ機能は、高速走行中の緊急ブレーキ時に作動。フロントとリヤのウイングエレメントが最大に設定され、空力による減速効果を生み出してホイールブレーキを強力にサポート。
●ボディからシャーシまで空力性能を徹底追求
新型「911 GT3 RS」のエクステリアで目を惹くのは、多くの機能的な空力パーツです。最大の特徴は、サイズが大幅に拡大されたリヤウイング。このリヤウイングは、固定式メインウイングと、油圧調節式アッパーウイングエレメントからなります。
ポルシェの市販車で初めて、リヤウイングの上端が車両ルーフよりも高く設定されています。さらに、フロントエンドからフロントスポイラーが廃止される代わりに、空気の流れを上下に分割するフロントスプリッターを備えることで、サイドブレードは空気を精確に外側に向けます。また、フロントホイールアーチのベンチレーションは、フロントフェンダーのルーバー開口部から供給されます。
ル・マン覇者の「911 GT1」のスタイルを踏襲したというフロントホイール後方のインレットは、ホイールアーチの動圧を低減させます。
インテーク後方のサイドブレードは、空気を車両サイドに流します。中央に配置されたラジエーターからの空気はフロントリッドの大開口部から放出されます。さらに、ルーフのフィンが空気を外側に向けて、リヤの吸気温度を下げます。
新型「911 GT3 RS」のリヤサイドパネルの開口部は、エアロダイナミクスを改善するためだけに使われます。リヤホイールアーチには、空気の流れを最適化するためのインテークとサイドブレードも装備されています。サスペンションも空力性能を重視。
新型「911 GT3 RS」のホイールアーチは、強力な空気の流れにさらされるため、フロントのダブルウィッシュボーンサスペンションは、ティアドロップ形のプロファイルで設計されています。
ハイエンドのモータースポーツでのみ使用されているこれらの空力効率に優れたサスペンションリンクは、最高速度でのフロントアクスルのダウンフォースを約40kg増やせるそう。また、ワイドトレッド(911 GT3よりも29mmワイド)により、フロントリンクも長くなっています。
さらに、フロントロアアームのボールジョイントは、フロントアクスルの低位置に設置され、リヤのマルチリンクサスペンションも調整され、スプリングレートが変更されています。
走行モードは、「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3つを備えています。「トラック」モードでは、基本設定を個別に調節することが可能で、とくに前後のリバウンドダンピングとコンプレッションダンピングは、それぞれを複数の段階で調節することができます。
リヤディファレンシャルは、モータースポーツ由来の操作、表示コンセプトであるステアリングホイールのロータリースイッチによって、スピーディかつ直感的に調整できます。
4つのロータリースイッチと「ドラッグリダクションシステム(DRS)」のスイッチがステアリングホイールに備わり、ロータリースイッチを調節すると、インパネにグラフィックで表示。新型「911 GT3 RS」には、911 GT3でおなじみのトラック画面も用意。スイッチを押すだけで、重要な情報のみを2つの7インチサイドデジタルディスプレイに縮小表示することができます。
●最高出力525PSの4.0L NAエンジンを搭載
搭載されるパワーユニットは、高回転型の4.0L NAエンジンで、911 GT3からさらに最適化されています。
パワーアップされた386kW(525PS)もの最高出力は、主に変更されたカムプロファイルを備えた新しいカムシャフトによって得られます。シングルスロットルインテークシステムとリジッドバルブドライブは、モータースポーツ由来。7速PDK(ポルシェドッペルクップルング)は、全体的なギヤ比が911 GT3よりも短くなっています。
このトランスミッションは、アンダーボディのエアインテークにより、サーキットで頻繁に使用される際など、極度の負荷に耐えることが可能。また、新型「911 GT3 RS」の0-100km/h加速は、3.2秒でクリアし、7速で296km/hの最高速度に達します。
ハイパワーに対応するブレーキは、フロントに対向6ピストン式アルミニウム製モノブロック固定キャリパーと直径408mmのブレーキディスクを用意。911 GT3よりもピストン径が30mmから32mmに拡大され、ディスクの厚さが34mmから36mmに増しています。
一方のリヤには、対向4ピストン式のユニットと直径380mmのブレーキディスクが引き続き使用されています。オプションの「ポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)」は、フロントに410mmディスク、リヤに390mmディスクが備わります。
新型「911 GT3 RS」には、センターロック式軽合金製鍛造ホイールが標準装備されます。タイヤは、フロントが275/35R20、リヤが335/30 R21となる、公道仕様スポーツタイヤで、ハイグリップを確保します。
●インテリアは、RSモデルならではの世界観
インテリアは、RSならではのスタイルが採用されています。ブラックレザー、Racetex、カーボン織り目仕上げが備わり、スポーティな雰囲気を醸し出しています。「911 GT3 RS」は、スチール製ロールオーバーバーやドライバー用6点式シートベルトが含まれる「クラブスポーツパッケージ(無料オプション)」を選択することができます。
加えて「ヴァイザッハパッケージ(有料オプション)」では、フロントリッド、ルーフ、リヤウイングのパーツ、エクステリアミラーのアッパーシェルがカーボン織り目仕上げになります。
フロントとリヤのスタビライザー、リヤカップリングロッド、リヤアクスルのシアーパネルはCFRP製で、ドライビングダイナミクスのさらなる向上に貢献します。初めてCFRPで製造されたロールオーバーバーは、スチールバージョンと比較して約6kg軽量化されています。
「ヴァイザッハパッケージ」のもうひとつの見どころは、モータースポーツ由来の磁気技術が採用されたPDKパドルシフト。より精確な圧力ポイントと明確に知覚できるクリックによって、シフトチェンジはさらにダイナミックになるそう。
「ヴァイザッハパッケージ」のオプションには、8kg軽量化されるマグネシウム鍛造ホイールも用意されています。ほかにも、空気の壁を突き進むエアロダイナミクスだけでなく、徹底した軽量設計も施されています。
「911 GT3 RS」の重量は、広い範囲にCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用するなど、多様な軽量設計の採用によって、多数の大型コンポーネントにもかかわらず、わずか1450kgの車両重量(DIN)に抑制されています。
ドア、フロントフェンダー、ルーフ、フロントリッドをはじめ、標準装備のフルバケットシートなどのインテリアにも軽量なCFRPが採用されています。公道を走れる最強マシンである「911 GT3 RS」。その真価は、公道だけでなくサーキットでも生半可な腕では味見さえできなそうです。
●価格:3134万円
(塚田勝弘)