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■トライアルバイクで乗って楽しいEV開発を狙う
カーボンニュートラルの実現に向けた「電動化」の潮流は、クルマだけでなく、バイクの世界でも徐々に進んでいます。そんな中、ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は、新型の電動トライアルバイク「TY-E2.0」を発表しました。
2022年FIM(国際モーターサイクリズム連盟)トライアル世界選手権にスポット参戦することを明らかにすると共に、バイクの一大祭典「第49回 東京モーターサイクルショー」(3月25日〜3月27日・東京ビッグサイト)にも展示されました。
ヤマハが電動のトライアルバイクを世界最高峰の大会に出場させる目的とは一体なんなのでしょうか? ショーで実際にマシンも見てきましたので、その概要と一緒に紹介します。
●先代モデルは世界大会でランキング2位
まずは、マシンについて。TY-E2.0は、ヤマハが2018年に発表した初代モデル「TY-E」をベースに、各部をアップデートした最新のトライアルマシンです。
ちなみにトライアルとは、山間部などの高低差や傾斜が複雑に設定されたセクションと呼ばれるコースを、いかにバイクに乗ったまま足を付かずに走り抜けるかを競う競技です。
なお、先代のTY-Eは、ヤマハワークスに所属し開発ライダーも兼ねる黒山健一選手が、2018年と2019年に電動バイクの世界大会「FIMトライアルE-カップ」へ参戦。いずれも年間ランキング2位を獲得するといった好成績を残しています。
●大幅な低重心化を達成
新型となるTY-E2.0では、CFRP製コンポジット(積層材)モノコックフレームを新設計。一般的な金属製フレームと比べ、軽量化や剛性の最適化に貢献します。また、パワーユニットやバッテリーのレイアウトを見直すことで、前モデルとの比較で大幅な低重心化も達成しています。
さらにバッテリーは、新開発の軽量タイプを採用。前モデル比で約2.5倍の容量を実現しながらも、重量は約20%増に抑えています。
加えて、先代モデルをベースにクラッチやフライホイールなどのメカニズムと、微妙なグリップの変化を読み取る電動モーター制御の組み合わせを行うことで、さらなるトラクション性能の向上も実現。より戦闘力をアップした仕様となっています。
なお、車体サイズは全長2003mm×全幅830mm×全高1130mm、ホイールベース1310mm。車両重量は70kg以上です。
ヤマハでは、このマシンで世界最高峰のトライアル世界選手権2022年シーズンにスポット参戦する予定。ライダーはやはり黒山選手です。
ちなみに2022年シーズンからは、FIMトライアルE-カップが発展的消滅をして、トライアル世界選手権のなかで、エンジン車と混走するレギュレーションに変更されたそうです。
ヤマハと黒山選手は、電動バイクが持つポテンシャルを最大限に活かすことで、内燃機関マシンを打ち破るべく奮闘する予定です。
●新たな小型モビリティ開発が目的
そんなTY-E2.0ですが、ヤマハはなぜ電動トライアルバイクの開発を行っているのでしょうか?
それはまず、カーボンニュートラルの実現に向けた、新たな小型モビリティなどを開発するため。バイクはもちろん、小型4輪車や電動アシスト自転車など、さまざまな小型でエコな電動車を作ることを目指しているのです。
具体的には、2021年にヤマハは2018年に策定した「環境計画2050」を見直し、2050年までに事業活動を含む製品ライフサイクル全体のカーボンニュートラルを目指す目標を新たに設定しています。
TY-E2.0は、そういった同社のカーボンニュートラル実現へのアプローチの一環として取り組むプロジェクトなのだそうです。
特にこのバイクでは、「FUN×EV」という開発コンセプトを掲げ、CO2を排出せず、しかも乗って楽しい新しいモデルを創出することを目的にしています。
ちなみに、なぜトライアルマシンなのか? ヤマハによれば、トライアルは「比較的長い航続距離は不要」なことで、バッテリーで走る電動バイクには最適なのだとか。
しかも、電動モーター特有の力強い低速トルクや加速性能などは、ガソリンエンジンなどの内燃機関と同等か、それ以上の魅力があるそうです。
実は、筆者は先代モデルのTY-Eを黒山選手が操るシーンを間近で見た経験があります。それは、2021年12月に東京都の東京国際フォーラムで開催された「EVバイクコレクションin TOKYO 2021」というイベントでのこと。
イベントのアトラクションとして、室内ステージ上で黒山選手がTY-Eを駆り、障害物を乗り越えたり、ウイリーなどを披露したショーでのことです。ちなみに、排気ガスが出ない電動バイクですから、こうしたインドアのショーも可能なんですね。
そして、その軽快な走りと黒山選手のテクニックに、筆者も含めた大勢の観客たちは拍手喝采! そのポテンシャルの高さに驚いたものです。
TY-E2.0は、筆者が見たTY-Eと比べ、さらに性能が向上しているとのことですから、2022年の世界戦にもかなり期待が持てそうですね。
(文:平塚 直樹/写真:平塚 直樹、ヤマハ発動機)