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■広告は時代を写す鏡・カークーラー/カーエアコンの広告から時代の違いを見てみる
昔のクルマはヒーターしかなく、クーラーまたはエアコンは、一部の高級車以外は後付けでした。
純正オプション品のほか、昔は社外品もあり、日本電装(現・デンソー)、東芝、ナショナル(現・パナソニック)など、クルマのクーラー、エアコン市場に参入する会社はたくさんありました。
後付けしたといっても選ぶひとは少なく、それだけにクーラー付き車には、リヤガラスの下に「冷房車」などというシールを貼って暑さ知らずの車内であることをアピールし、後ろのドライバーをうらやましがらせるクルマもあったのも懐かしいですね。
エアコン関連の記事が続いてきましたが、最後にクーラーまたはエアコンが憧れだった時代からあたり前になった時代までの広告を集めてみました。
●1950年代後半~80年代後半までのクーラーorエアコン広告
別に今回のクーラーないしエアコン広告に限らないのですが、昔の広告は「見せる」のではなく、「読ませる」広告が多いように思います。「イメージで見せる」手法まみれの広告ばかりになっているいまの目で見ると、粋なフレーズにほほえましいシーンを思わせるコピーなどがあり、なかなか「読ませ」ます。
1950年代後半~80年代後半までの弊社「モーターファン」に掲載されていたもののうち、「おっ!」と目についたもの15点をお見せしましょう。
●1950年代
1.「自動車にも冷房時代 車の中もすずしいサロン・東芝のカークーラー」(東芝・1958(昭和32)年4月)
後席の後ろにエバポレーターとファンを置き、後ろから冷気を流すタイプ。透視図から、今も昔も、クルマ用クーラーの基本構造が同じであることがわかります。
「ガス洩れのうれいがありません」という表現がたまらない。いまどきこんな書き方はしませんよね。
2.「自動車にも冷房時代・デンソーのカークーラー」(日本電装(現・デンソー)/トヨタ自動車販売(現・トヨタ自動車)・1958(昭和33)年4月)
メーカーは違うのに、東芝と同じフレーズ。
冷媒として冷却効果の大きいフレオン(F-12)を使用し、無臭無害、且つ爆発の恐れなく安心してご使用願えます
「ご使用願えます」というところに、日本語の奥ゆかしさと品位が感じられます。
「今後のエアコンガス価格は15倍」の記事で、「90年代初頭まではフロン12aが主流」と書いてきましたが、この広告の「フレオン(F-12)」は、フロン12aのことです。
実はこのガスを開発したのはアメリカのデュポン社というメーカーで、「フレオン」とは実はデュポン社の商品名なのです。フレオンガスは、クーラー冷媒のほか、精密電子部品の洗浄剤にも使われていました。
昔のトヨタは、クルマを造る「トヨタ自動車工業株式会社」と、クルマを売る「トヨタ自動車販売株式会社」とに分かれていました。「工販合併」で両社が統合したのが1982(昭和57)年。それが今の「トヨタ自動車株式会社」です。
この広告で参考に載せているのは初代クラウン。メーカーは違いますが、吹出口はさきの東芝広告の絵と同じく、写真の女性の後ろにあります。外観写真で、後席後ろのトレイ上に、透明な筒の吹出口があるのがわかるでしょうか?
●1960年代
3.「涼しさが走る・・・・・・ ’60デンソーカークーラー」(日本電装・1960(昭和35)年5月)
「’60デンソーカークーラー」…今のクルマみたいに、当時の日本電装(現・デンソー)は、「カークーラー」にもイヤーモデル制を採っていたのでしょうか。
写真で使っているクルマは1958年版と同じくクラウンですが、計器盤下に吊り下げるものに変わっています。広告のフレーズほど「・・・こじんまり・・・」しているようには見えませんが、メカの設置性も含めて考えれば、後席に備えるよりはこちらのほうがスマートです。
4.「酷暑を断つ!この小さな英雄 ミツバカーファン」(三ツ葉電気製作所・1965(昭和40)年6月)
こちらはクーラーではなく、扇風機ですが、おもしろいので載せてみました。今でもカー用品店で、この種の扇風機を見かけますね。
「・・・”高原の涼しさ”・・・」は、人工的に作られた冷たい風ではなく、たしかに常温の空気を動かして得る涼感なのかもしれません。
●1970年代
5.「スイッチON!・・・最初から冷風が吹出す・マジック冷房 ナショナルカークーラー」(松下電器(現・パナソニック)・1973(昭和48)年5月)
外形デザインが、だいぶ自動車電装品らしくなってきました。
臭気の原因である、「クーラーに付着したゴミ」(たぶんエバポレーターに付着のことだと思う)を洗い落とす新機構をアピール。実家にあるリビングのエアコンはパナソニック製で、フィルターを自分で掃除する機構がついていますが、そのアイデアはこの時代のクルマ用クーラーから始まっていたのでしょうか。
温度調整は本体側で行うものの、風量調整スイッチは自在の場所に設置できるセパレート式! 後付け品なのに、加速時に「冷房を一時カットする」ボタンを設けたのは親切です。加速時のコンプレッサーカットを、今はクルマが行ってくれていることは、前の記事で述べました。
6.「いつでも どこでも さわやかドライブ」(日本電装、トヨタ自動車販売・1973(昭和48)年6月)
「いい表現だな」と思ったのが「第5の季節をつくる」のタイトル。1年を通じて四季の寒暖差など無縁である車内空間をひと言で表したフレーズが粋です。
この頃にはそろそろ「カークーラー」だけではなく、「カーエアコン」の姿が見え始めています。
7.「にくいボウズめ! トヨタ純正デンソーカーエアコン/カークーラー」(日本電装・1973(昭和48)年7月)
「パパ、こんどの車は冷房つきだね」
「そうさ、気に入ったかい」
「ウン。でも、半分だけだょ」
「どうしてだい。冷房のほかに暖房もできるし、しめり気やほこりだってとれるんだよ」
「それでも半分だけだい」
「どうしてだよ」
「ママも言ってたぞ。パパは家庭サービスが悪いって」
「パパを強迫する気かい」
「パパわかってるゥ」
こんな会話を交わす、麦わら帽子にランニングシャツ姿の父子の姿が、昭和時代の70~80年代は想像できましたが(本当にいたから)、ひるがえって令和時代の2021年にはイメージできません…。
8.「スーツケースひとつ余分に乗せるときエンジンへの影響をお考えになりますか。 トヨタ純正デンソーカーエアコン」(日本電装、トヨタ自動車販売・1975(昭和50)年5月)
同じ日本電装でも、エアコン主体の広告。トヨタグループの会社だけに、トヨタ車専用設計であることを声高にアピール。ましてや低クラスの1200cc級にまで「エアコンライフ」を広げたことを誇っています。
広告キャラクターは、当時人気の林寛子さんでした。
9.「今年の夏は、日々是好。 パームエアー カーエアコン・カークーラー」(中央自動車工業・(1975(昭和50)年5月)
今はボディコート剤やエンジン添加剤などが主力の中央自動車工業は、かつて自動車用クーラー事業も展開していました。
前席の他、後席向けにも風を送るサイドルーバー(後ろまで風がちゃんと届いたのか?)を設け、オーバーヒート対策の自動リレーを組み込んだ高級版「スプリーム」、普及版の「エクセル」のほか、トラック専用の「カスタム240」を揃えていたとは、自動車メーカー系列でもないのにラインナップに抜かりないのが頼もしい!
10.「’75サンデンロータリーカークーラー 超特価サービス販売中!」(スピードショップ東京堂・1975(昭和50)年5月)
これはサンデンの広告ではなく、「キヤノンのカメラが安い!」と広告する家電販売店のチラシのようなもので、サンデンのクーラー超特価を謳う東京堂の広告。
「サンデン」よりも「サンデンカーエアコン」とまでいった方が耳にしっくりくるサンデンも、かつては汎用クーラーorエアコンを販売していました。一時は、ピンクレディ解散後のMIEさんを起用していたことも。今は個人向けの販売は行っていません。
11.「よろしく安全運転、この看板がお手つだい。」(松下電器(当時)・1975(昭和50)年7月)
クーラーというよりも、カーステレオ、バッテリーなど、当時のナショナル自動車機器全体の広告。ここにある「ナショナルカーステレオ」は現在のパナソニックナビゲーション「ストラーダ」に、「ナショナルバッテリー」は「caos」の起源にあたるわけです。
それらに加えて今は、サンヨーから受け継いだポータブルナビゲーション「Gorilla」、自動車用汎用カメラ、ETC機器などいろいろと展開しています。
●1980年代
12.クラリオン・カーエアコン
写真は、「わが社(当時の三栄書房)の社用車・1978年式カペラにはエアコンもクーラーもなく、晴天や雨の日には暑くてどうしようもないからクラリオン製のエアコンをつけた」という愚痴から始まるレポート記事の最初のページ。
そう、自動車用ラジオ/ステレオの老舗、クラリオン(現・フォルシアクラリオン)は、同社webサイトの「沿革」にも出ていませんが、実はエアコンも作っていたのです。
社外品の後付け品にもかかわらず、カペラにある既存のヒーターと一体化させ、「クーラー」ではなく、「エアコン」に仕立ててしまう製品だったのが優れた点。冷やすコントロールは、暖めるヒーターの操作パネルをそのまま使って行うことができます。
13.「ここは、爽風圏。日産純正カーエアコン」(日産自動車・1984(昭和59)年5月)
最後は日産3部作です。
クーラーはなりを潜め、エアコンの広告に特化していますが、その割に本体の写真は一切ない、完全なイメージ広告になっています。80年代後半という時代らしく、見えるのは女性の水着姿のみ。カラーであることも相まって、さわやかさが出ています。麦わら帽子のランニングシャツ父子とはえらい違いです。
14.「ここは、爽風圏。日産純正カーエアコン」(日産自動車・1984(昭和59)年7月)
さきと同じフレーズ広告の別バージョン。全体の色調を水色にし、(たぶん海岸を)翔けたり、(たぶん海の)水をバシャつかせてはしゃぐ水着女性で、「夏の涼しさをクルマにも」という演出をしています。
15.「いつだって、キミはやさしい。 日産純正オートエアコン」(日産自動車・1988(昭和63)年4月)
同じ水着女性でも前の2作とは少し違ってきて、フレーズも何だか詩的になってきました。左上の「NISSAN」のロゴと左下の黒文字を取っ払い、この女性に持つものを持たせたら、そのまま生ビールの広告ポスターに仲間入りできそうな気配です。
ときは1988(昭和63)年。時代が豊かになってきたからでしょう、宣伝商品は「日産純正エアコン」から「日産純正オートエアコン」に昇格。「コンピュータが、つねに車内を設定された快適温度に保ちます。」と、ハイテク感も忘れていません。
いかがでしたでしょうか。
クーラーorエアコンの広告ひとつとっても、その内容、表現の時代による違いを楽しんでいただけたと思います。
夏も終わりですが、「残暑」という暑い日がまだ続きます。エアコン(もどき)を上手に使って快適な運転を!
(文・山口 尚志)