■ランフラットタイヤであることを忘れさせる乗り味
レクサスLSの特等席は主にVIPが収まるリヤシートで、その乗り心地がクルマの評価を大きく左右します。一方で、メルセデス・ベンツ SクラスやBMW 7シリーズなどと同様に、ドライバーズサルーンとして購入する層も多く、走りと乗り味の両立、それも高いレベルで実現することは容易ではないと想像できます。
現行LSは、サイドウォールの剛性を強化したランフラットタイヤを履くこともあり、乗り心地の改善が市場から要望されていたようです。
ケース剛性が高くなるランフラットタイヤは、BMWなどの欧州勢も長年の課題として抱えているはずで、メルセデス・ベンツが日本向けのCクラスで脱ランフラットタイヤを敢行したのも乗り心地を考慮したため。
2020年11月にマイナーチェンジを受けたLSは、さらに乗り心地の改善を実現するため、ランフラットタイヤの縦バネ剛性の最適化を図っています。
ブリヂストンによると、新車装着タイヤである「TURANZA T005A RFT」はサイド構造を最適化させることで、高い乗り心地性能を確保したとしています。
さらにLSは、スタビライザーバーのばね定数、バウンドストッパーの先端剛性の最適化が盛り込まれているほか、液封エンジンマウント内のオリフィスを変更することにより減衰特性の変更を行い、キャビンに伝わる振動や衝撃を低減したとしています。また、減衰力可変ダンパーである「AVS(Adaptive Variable Suspension system)」にも手が入れられ、新設計された油圧制御用ソレノイドのオイル流量制御バルブの流路を拡大。
これによって減衰力が低減され、上質な乗り心地が得られたそう。街中で乗った感じでは、減衰力が低くなってもボディが揺すぶられるようなシーンはほとんど感じられませんでした。加えて減衰力の可変幅拡大により、良好なハンドリングと操縦安定性にも貢献しています。
さらにFR仕様は、フロントサスペンションが高強度のアルミ鍛造アームに変更され、タイヤの質量低減によりばね下質量も約3.5kgの軽量化が図られるなど、入念な対策が施されています。
なお、LSは2019年10月の一部改良で、FR仕様のダンパーにAWDと同じく伸圧独立オリフィス(ダンパーの伸び/縮みでそれぞれに適したオイル流路(オリフィス)を設定するバルブ機構)が採用済みで、“F SPORT”にはランフラットタイヤの補強層構造の最適化、AVSやリヤサスペンションマウントのチューニングなどがすでに施されています。
2019年の一部改良後モデルでも乗り心地の改善が実感できたLS。今回試乗した2020年11月のビッグマイナーチェンジ後モデルでは、前後席共に、よりフラットライドな乗り味になっているのが確認できました。足まわりはソフト過ぎず硬すぎず、もちろん前席から後席に乗り替えても快適性や静粛性は変わらない印象。
こうした新型LSの凄みがもっとも伝わってきたのは、1855万7000円の値付けの「LS 500“version L”」のように感じられましたが、パワートレーンやグレードによるその差は小さく、どのグレードを選択しても極上の乗り心地、高い静粛性が享受できます。
(文:塚田 勝弘/写真:井上 誠)