■新型ノートの新スタイリングについて、チーフデザイナーにインタビュー
2020年11月24日、8年ぶりにフルモデルチェンジされた日産の新型「ノート」。新たなデザイン言語を投入した新型のスタイリングの見所はどこにあるのか。
チーフデザイナーの入江氏に話を聞いてみました。
── まず最初に、日産の新しいデザインテーマである「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」とはどんな内容なのでしょうか? また、なぜいま「日本」なのですか?
「日産は、以前からコンセプトカーなどで日本的な表現を模索していましたが、本格的な電動化時代を迎えるに当たってもう一度しっかり見直そうと考えました。造形としては普遍的な日本の美意識で、モダンでありシンプルなもの。そうしたクリーンなイメージがまさにEVの静粛性や上質な走りと重なり、いま日本を打ち出す意図でもあるわけですね」
── ホイールベースや室内長を短縮し、容積追求のパッケージングから一般的なハッチバックスタイルとしたのはなぜですか?
「ダウンサイジングです。先代は欧州市場などでミニバンっぽいといった声がありまして、あえてコンパクトカーらしいただずまいを目指しました。これは居住性に優れた「キックス」がラインナップに加わったことで、あらためてノートの立ち位置を明確にできたとも言えます」
── 細部の話に移ります。そのキックスが採用した「ダブルVモーション」と新型のグリルは形状が異なります。
「はい。新型ノートでは、フロント部分をワンモーション的な表現でランプとグリルをインテグレートしたかったのです。なので、キックスで言えば外側のラインのみを使った感じです。キックスはSUVらしいアクティブさを出すために内側にもラインを入れましたが、ノートでは要素を減らしヘッド部分の抑揚で見せたかったわけです」
── フロント下部のボディパネルを円弧形にカットしたのは珍しい表現ですね。
「そこは軽快感を出すのが目的です。弓なりの表現はキビキビとした走りのよさをイメージしました。その下のチンスポイラーなど、機能的な部分はブラックとして目立たなくしています」
── 左右のエアインテークを流行のL字形ではなく、スリット状にしたのはなぜですか?
「バンパーサイドに面を残したかったのです。その面を切り欠くことによって、シャープでキレのよさを出すことを狙っています。ここは初期スケッチの時点から提案されていたもので、モールなどの加飾もあえて加えていません。もちろん、エアインテークとして実際の機能面も考えられた形状です」
── 先のハッチバックスタイルにも通じますが、サイドウインドウはリアに向けて絞られ、ストレートなキャラクターラインには沿っていませんね。
「ミニマライズというか、キャビンはボリュームを絞り込んで凝縮感を出したかったのです。eーPOWERという新時代のパワートレーンを感じてもらうためです。キャビンを絞り込むことで逆にリアフェンダーの張り出しを強調でき、タイヤを四隅に置いた安定感も出せます。さらに、リアビューのボリューム感も減らせるんです。単にキャラクターラインに沿わせると退屈な表現になってしまうでしょうね」
── プレスリリースには「うつろいのあるドア面」とあります。これは他社でも似た表現がありますが、いまのデザイントレンドなのですか?
「いえ、とくにトレンドではないと思います。あくまでも4年前の開発当初から新しい時代を予測した結果であって、偶然かもしれません。実は、Cセグメントである「アリア」と同じテイストを5ナンバーサイズで再現させるのが今回最大の挑戦でした。そこで、ノートでは過度にインバース(凹面)を使わず、基本はアウト面で見せ、ボディが痩せてしまわないようギリギリの調整をしています」
── リアパネルは、とくにバンパー部など平面的な表情ですが、これはオーバーハングの短さの影響ですか?
「それもありますが、ここでも要素を減らしてグラフィカルな表情を意識しました。横一文字のランプはまさに「ド平面」ですが(笑)、それも平面のリアパネルが生きています。日本の文化にはグラフィックな見せ方があって、日産も伝統的にそうしたアイコニック的な表現を使ってきたんですね」
── 最後に。発表会などでは「徹底的に要素を減らす」といった言葉がありましたが、そこから見えてきたものはありましたか?
「ゴマカシがきかない! 面や線ひとつとっても、ある領域を超えたものでないとダメで、仕立てがよくないともたないんですね。デザイナーはすぐに線を引きたがるものですが(笑)、そこを抑え作り込みのこだわりに昇華させたい。そうしてジワジワと浸透するような、肌で感じるよさを追求する。非常に難しい作業でしたが、手応えはありましたね」
── この緊張感がノート以降のクルマにも続くといいですね。本日はありがとうございました。
(インタビュー・すぎもと たかよし)