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■クラスを超越した車のデザインに必要なモノとは?
2023年11月に発表されたレクサスの新型「LBX」。サイズのヒエラルキーを超えた次世代レクサス車として話題ですが、そのデザインにはどんな特徴や工夫が込められたのか? さっそく担当デザイナーのお二人に話を聞いてみました。
●仕切り直しでたどり着いた新しいプロポーション
── では最初に。デザインコンセプトの「Premium Casual」は、ある意味相反する言葉の組み合わせですが、これに至った経緯を教えてください。
「キッカケとなったのは、豊田章男会長からの『休日にリラックスして乗れる小さな高級車を作ってはどうか?』という提案ですね。確かに相反する要素ですが、そこはレクサスが当初から掲げている『二律双生』でもあります。たとえば高級ブランドのスニーカーのような、上質さと日常性の融合ですね」
── LBXは「コンパクトクロス」と位置づけられていますが、なぜ一般的なハッチバックとしなかったのでしょう?
「ハッチバックなのかクロスオーバーなのかは結構な議論がありました。その中で、小さいけれど存在感を高めるためには、大径タイヤやリフトアップといった要素が必要だろうと。SUVとハッチバックの中間というか、若干ハッチバック寄りな存在ですね。必要以上にSUVっぽくない、低重心な佇まいです」
── サイズを見ると、ベースとなったヤリスクロスより60mm幅広い一方、高さは50mm近く低いのが特徴です。
「1825mmの全幅は、やはり18インチという大径タイヤを使うための適正値で、スタンスのよさにも通じています。実は、当初ヤリスクロスっぽい提案をしたところ会長から却下されまして(笑)、仕切り直しによる提案がこのサイズ感だったんですね。また、国内仕様ではタワーパーキング対応のため、シャークフィンアンテナを外した分低くなっているんです」
── パッケージとしては、Aピラーを後ろに引いたことによるコンパクトキャビンに目が行きます。
「そこは最初からのこだわりで、ひとつにはノーズを長く見せるFR的なプロポーションでスポーティさを打ち出すため。もうひとつは、Aピラーを前に出し過ぎると、室内から見たときに必要以上の空間を感じてしまうのを避けたかったためですね」
●スピンドルグリルの原点に戻る?
── フロントの特徴である「ユニファイドスピンドル」は、2003年発表のLF-Sで提示された「レゾリュートルック」に回帰したとされていますね。
「レゾリュートルックは『毅然とした表情』という意味ですが、鼻先に対して目の位置を高くすることでより象徴的に見せ、それをスピンドルシェイプで下支えする構造を指します。LF-Sの見た目そのものに戻るということでなく、あくまで造形の考え方です」
── ボディサイドは強い抑揚が特徴ですが、ここはどのような面造形を狙ったのでしょう?
「小さいけれど存在感を出すためにはどうすればいいかを考え、とにかくしっかりした下半身を作りたかった。通常では張らせるドア面に強い“くびれ“を作り、抑揚を感じさせるハイライトで“走り“のよさを感じさせる。同時に、タイヤをリッチに見せる手法です」
── その張り出したリアフェンダーには、テールランプからキャラクターラインが走っていますが、その意図は?
「フェンダーの張り出しはフロントクォーターからのシルエットを意識したものですが、単に張り出しているだけではボリューム感がタイヤに勝ってしまうんです。そこを引き締めるためにラインを入れた。これは初期スケッチから提案されていたもので、デザイナーの知見による提案です」
●小さな高級車は見た目だけではダメ
── リアピラーはブラックアウトしてリアへ抜いていますが、凝縮感を強めるにはボディ色の方がいいのでは?
「開発途中のスケッチではボディ色のピラーの案もあったのですが、ふつうのハッチバックと異なる世界観を持たせるためにブラックアウトさせた。キャビンを引き締め、しっかりしたアンダーボディとのコントラストが見所ですね。また、RZなどレクサスシリーズ共通の表現という意図もあります」
── ボディカラーでは比較的有彩色の設定が多いですね。
「やはり、鮮やかな色は大きな車よりコンパクトカーとの相性がいいですね。とくに『レッドスピネル』『ディープアズールマイカメタリック』『パッショネイトイエロー』の赤、青、黄3色はコンパクトだからこその設定です。また、一見ソリッドに見えるメタリックが最近のトレンドですが、その点『アストログレーメタリック』もコンパクトカーによく似合うと思います」
── オーダーメイドシステムの「Bespoke Build」はなぜLBXで実施されたのでしょう?
「ヒエラルキーを超える車という観点もありますし、特にコンパクトカーはパーソナルユースが多く、自分だけの車として愛着を持つ存在といった背景もあります。もちろん、ユーザーさんからも一定数のニーズがありました」
── では最後に。今回はヒエラルキーを超えることがテーマでしたが、実際に手掛けてみて、そのためには何が必要だと感じましたか?
「NGとなった当初案は、コンパクトカーとして成立していればいいという次元だったのですが、仕切り直しで大きく舵を切ることができました。例えば、普通なら開発当初に固めるヒール、ヒップポイントも、今回は後半で変えているんですね。
つまり、小さな高級車を作るためには見た目の豪華さだけではダメで、本質的にクラスを超えないと完成しない。今回はチョット遠回りでしたが(笑)、コンパクトカーの可能性を再認識することができたと思います」
── そこが「小さな高級車」の難しいところですね。本日はありがとうございました。
(インタビュー・すぎもと たかよし)