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■GR-DATは初心者の味方&壊してナンボの強さを得てGRヤリスが進化
2024年1月12日に東京オートサロン2024会場で発表された、GRヤリスの進化型。ちなみに、『フルモデルチェンジ』とか『マイナーチェンジ』という言葉は一切出ない『進化型』なんですと。
今回、この進化型GRヤリスにクリッカーでもすっかりお馴染み、元F1レーサーでもある井出有治さんが試乗。その進化具合を体感してもらいました。
●サーキットレースで、ラリーで。GRヤリスはモータースポーツ参戦から得られたデータ盛りモリ!
2020年に初めてヤリスに「GR」の冠が付いたモデルが登場してから4年。その後は皆さまご存じのように、スーパー耐久レースや全日本ラリー選手権、またTGRラリーで日々、プロドライバーにより鍛えられてきたGRヤリス。
今回の進化型での目立つ大きなポイントは、GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission/ガズーレーシング・ダイレクト オートマチック トランスミッション)が、RZ“Hight performance”グレードに設定されたこと。
8速ATのそれは、これと言ってウデにドライビングスキルの覚えがないという方でもスポーツ走行を楽しめる、マニュアルと同等の速さを手に入れモータースポーツの裾野を広げたい…、そんな想いから開発が進められてきたもの。
そのほかにも、パワーが30psアップされていたり、リヤウイング形状やバンパー類も進化していたり、着座位置が25mm低くなっていたり、コクピットの様子がガラッと変わっていたり。
●旧GRヤリスとスペック的にはさほど変わらないけど、実は…!
まずは、主なスペックから分かる変更点がこちら。
【GRヤリスRZ“Hight performance” SPECIFICATIONS比較】
進化型/(現行型 ※カッコ内)
全長/全幅/全高(mm):3995/1805/1455/(同)
ホイールベース(mm):2560/(同)
トレッド F/R(mm):1535/1565/(同)
乗車定員(名):4/(同)
車両重量(kg):1280/(同)
エンジン:直列3気筒インタークーラーターボ/(同)
エンジン型式:G16E-GTS/(同)
内径×行程(mm):87.5×89.7/(同)
総排気量(cc):1618/(同)
最高出力(kW(ps)/rpm):224(304)/6500/(200(272)/6500)
最大トルク(N・m(kgf・m)rpm):400N(40.8)/3250~4600/(370(37.7)/3000~4600)
トランスミッション:iMT(6速MT)/GR-DAT8速AT/(同/設定なし)
駆動方式:スポーツ4WDシステム“GR-FOUR”電子制御多板クラッチ式(3モード選択式)/(同)
変速比(MT 1/2/3/4/5/6/後退):3.538/2.238/1.535/1.162/1.081/0.902/3.831/(同)
変速機(AT 1/2/3/4/5/6/7/8/後退):4.435/2.809/1.933/1.497/1.266/1.000/0.793/0.650/3.590/(設定なし)
減速比(1~4/5~6/後退):MT 3.941/3.350・AT 3.329/(MT 同・AT 設定無し)
差動装置:トルセン®LSD/(同)
サスペンション(F/R):マクファーソンストラット式/ダブルウィッシュボーン式/(同)
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク 18インチアルミ対向4ポットキャリパー/16インチアルミ対向2ポッドキャリパー/(同)
タイヤ(F/R共):225/40R18 ミシュランPilot Sport 4S/(同)
ホイール(F/R共):BBS製8J鍛造アルミホイール/(同)
燃料タンク容量(L):50/(同)
数値的に表れる変更点は、30psほどのパワーアップと30N・mのトルクアップを除いては、ほぼ変更がないように思えます。
しかし! スーパー耐久レースや全日本などのラリー競技参戦から得られた、プロのドライバーからアドバイスされた数々の『進化』は、超プロレーサーの井出有治さん(GT500やスーパーフォーミュラ、また2006年にはF1参戦経験あり!)が試乗しても「へぇ~、凄いしありがたい進化!」な箇所が多々盛り込まれているのです。
●「ドライバーファースト」っていっても、上の方たちが体感しないと進化しない
上の方たち=『開発現場の技術者の、決定権のある上のほうの役職の方たち』を指しているのですが、その方たち(もちろん、モリゾウさん他たくさん)が自ら競技に参戦し、競技という過酷な状況を体感しているからこそ、今回の『進化』が実現されています。
まず、コクピットの風景が違います。センタークラスターの上端を50mm下げたり、インナーミラー(バックミラー)取り付け位置をフロントガラス上部に移動させたり、各種スイッチ類の位置を変えたり。
「普通、サーキットでのスポーツ走行だと4点式以上のシートベルトをしてガッチガチに身体を固定する場合が多いじゃないですか。すると、ちょっと離れたスイッチ類を押したくても手が届かない。普通の3点式シートベルトでも肩をシートから離して、腕をかなり伸ばしてスイッチを押す…そんな動作が必要になるときってあるじゃない。でも、この進化したGRヤリスは、シートに座ったそのままの姿勢で、普通に各種スイッチに手が届くんです」(井出)。
なんか80スープラの、あのドライバーを包み込むようなコクピット感に似てる?と思ったら、トヨタの方曰く「実は80スープラを開発された方にも、肩からの距離感とか視界など、いろいろ話を聞きました」とのこと。操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置したのは、競技参戦で得られたこと以外に、スポーツカーの伝統みたいなこともあったんですね。
「あと、ハザードスイッチの位置。運転中でも視野に入る位置にハザードスイッチがあるんです。乗り慣れていない車ってハザードスイッチの位置を探しちゃうけど、でも赤いスイッチが視界に入っているから、パッと見ただけで『あ、ここだ!』って探さずに押せる。また、メーター内に表示されるハザードマークも、ステアリングに隠れていたら覗き込まなくちゃいけないのが、ステアリングの邪魔になっていないんですよね」(井出)。
その辺もトヨタでは、「レース中でも『サンキューハザード』が出来たりするように、ハザードスイッチの位置もドライバーファーストなんですよ」とのこと。レース中というか、スポーツ走行中にラインを譲ってくれたりしたら、サンキューハザードすること、あったりしますものね。
「運転中に唯一見えないのは、スタートボタン。だけど、走っているときには押さないし、押したらヤバいw。見える必要もないからわざと逃がしているのかな?と思いましたね」(井出)。
これについても、「スタートボタンの位置もまさに絶妙な場所にしてあって、間違えて押さないようにしているんです」とのこと。
そして、今回の進化ポイントのひとつ、着座位置。座面の高さを25mm下げ、より低い位置に変更されました。
「普通、ボクが運転するときって座面をめいっぱい下げるんですけど、シート調整レバーを探そうとする気にならないくらい、違和感なく座れるんです。ステアリングの位置も調整してあって、現行型は身体を支えるのにステアリングを握っている感じだったけど、進化型は座ってステアリングに手を置いてシフト入れてすぐに走れる、そんな感じ。止まっていると違いは分からないんだけど、走るとすぐ分かりました」(井出)。
これは、シートレールを変えた…とかではなく、ボディ自体を変更して位置を調整したとのこと。「GRヤリスは小さい車なので、旧型でも下げられるところまではやっているんですけど…それ以上下げられなかったんですよね。シート本体は進化型も旧型も同じ。同じシートとは思えないくらいでしょ?」と、座面の高さはトヨタでも開発ドライバーから散々言われていたのだそうです。
●壊れてもサッと交換できる外装部品や、アフターパーツ交換も考慮したリヤウイング
レースやラリー、サーキットでのスポーツ走行をやっていると、とかくバンパーなんかは壊れるもの。外れかけてたらガムテープで補強したりして…。バンパー丸ごと交換なんてことになったら、ランニングコストも…キツイ。
そんなことから、バンパーは壊れたところだけを交換できる3分割にし、また冷却効率アップのためにあるロアグリルも、壊れやすい樹脂から強度と軽量化を両立する金属製スチールメッシュに変更。
また、目を引くでっかいリヤウイングは、旧型はハイマウントストップランプが合体していましたが、進化型では合体を廃止。「アフターパーツに交換しがちなリヤウイングなので、バラしました!」と、カスタマイズのことまで考慮されているなんて、なんだかニヤついてしまいます。
●井出有治、実走!
まずは、マニュアル。四駆モードは進化型のグラベルモードが楽しい♪ 前53:後47固定は、自分で車をコントロールできるからね。
トラックモードは走りのGを見ながら60:40から30:70までバリアブルに変化するから、ソレに任せて走るならいいけど、自分でコントロールして限界で攻めようとすると、それがボクにはちょっと邪魔。フロントを多くしたくない時に効いちゃうとアンダーになるし、ギクシャクする。
そういう意味で、グラベルで固定にしたほうが自分で姿勢をコントロールしたりヨーコントロールもできるから、向きを変えたりライントレースもしやすいです。
自分で姿勢変化を上手く出来ない人は、制御に任せたほうが運転もしやすく、速いラップが刻めるでしょうね。
進化型では、ボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に強化されているんだけど、舵に対してのストロークが分かりやすいです。1点だと変化しちゃうんだけど、3本になったことで、よりコントロールがしやすくなっていますね。
そのおかげなのか、タイヤの状態にもよるのか(※タイヤは進化型、旧型共にミシュラン・パイロットスポーツ4S)、コーナーで荷重がかかってタイヤがグ~ッとショルダーにかかっているくらいのところにいったときに、旧型はゴロゴロっとパターンノイズみたいな、タイヤから伝わってくる振動が車内に響いてきていて、ちょっとガタが出る感じ?みたいな、ガコっと変なニュートラルなところが出て、なんか緩んでるのかな?って思うくらい、ステアリングのダイレクトさがないんです。
でも、進化型はそれが一切なかった。コーナー突っ込み過ぎてちょっとカウンターを当てるときに、ガタッと手応え的にあったんですけど、それは、進化型はボディの減衰感が良くなったことで、ボディが上手く吸収しているところもあるのか?とのこと。ダンパーの付け根の補強、高荷重に対応させるための剛性アップは効いていますよね!
●GR-DATは…もうちょっと詰めが欲しいカモ?
GR-DATは、ウ~ン…。パドルレバーを引いてギヤチェンジすると、ちょっと間があるような、反応が悪い感じ。でも、つながった後の変速ショックは少ないですね。抜けそうな感じも無いし。なんかF1のシームレスミッションに乗ったような感じ。
MTとGR-DATと比べちゃうと、やはりATは立ち上がりで踏み込んだ時に遅れちゃう。アンチラグの問題ではないけど、どうしてもATレスポンスの反応の悪さがちょっともどかしいんです。峠などでちょっとスポーティな走りをするときは応えてくれる感じだけど、本格的にサーキットでタイムアタックをするようなときは、やはりMTのほうがタイムは詰められると思いますね。
8速まであるGR-DATだけど、ココでは5速くらいまでかな? メーター見てないけどw。
よくATでありがちな、ちょっと攻めて走ったときに、ブレーキ踏んで過給がスーッと下がって、エンブレ効かないからそのせいで車が安定しない。そういうATのイヤなところはほとんどこのGR-DATには無くて、ある程度回転が下がってきたときにもエンブレが効くから、車はスタビリティがあって安定している。
ボクが感じた、この立ち上がりのほんのちょっとしたレスポンスの悪さ、これは開発時でも感じられていたようで、データには表れないけど、何かを感じる…。
もちろん、機械的につながるMTとは違うし、ターボラグとも違う。ターボラグであれば、後でドンとパワーがくるので急にタイヤがかいたりするんだけど、それはないし。あとでトヨタの方に聞いたら、クラッチでつなぐところではなくて、滑らせながらつなぐのをトルコンでロックアップにつないでいくので、若干のラグは出ているかも?とのこと。
進化型のMTとGR-DATの両車とも、ボディ剛性とダンパーのマウントがしっかりしているから、サスペンションのストロークの感じとタイヤのたわみが分かりやすいのは物凄くいい。タイヤをもっとハイグリップなものに交換したとしても、そのグリップに合わせてタイムは上がっていく感じ。
普通の市販車だと、ハイグリップを履かせてタイヤの表面がグリップしても、車がよれたり動いたりしてコントロールが難しくなるんだけど、GRヤリスはパワー感的に、伸びしろがあって余裕がある感じ。
欲を言えば、もっといいサウンドがいいなぁ。規制的にだけど、排気音が静か。もうちょっとヤンチャ感というかスポーツ感を体感できれば、“昭和の人”には音が欲しいw。
ってトヨタの方に言ったら、「実は今…サウンド、作っている最中!」だって。市販バージョンが楽しみ♪
実は、袖ケ浦フォレストレースウェイの本コースだけではなく、砂利のダートでも走ってみたのですが、ソレは別記事で紹介しますね!『井出有治(ほぼ)初めてのダート走行』…ちょっと面白いですよ~!!
(試乗インプレッション:井出 有治/写真:井上 誠/文:永光 やすの)