多様化する電動モビリティ時代にはトヨタ製の原付が生まれるかもしれない【バイクのコラム】

■トヨタ「C+walk」は歩道用モビリティ

筆者のようなメタボオヤジが乗ってもしっかり加速。ハンドリングも安定しており、気持ちよく小回りを味わえる。
筆者のようなメタボオヤジが乗ってもしっかり加速。ハンドリングも安定しており、気持ちよく小回りを味わえる

2023年、バイク業界の重大ニュースのひとつは「特定小型原動機付自転車」という新カテゴリーが生まれたことでしょう。

特定小型原付と呼ばれることの多い、この新しい車両規格を簡単にまとめると「16歳以上であれば運転免許不要で乗れ、車道を最高20km/hで走行できる電動モビリティ」といえます。

さらに、6km/hの速度リミッターを作動させると”特例”特定小型原付となり、その状態であれば自転車走行可となっている歩道であれば、合法的に走ることができます。

この特例モードになっていることを示すためには、緑色の速度灯を点滅させる必要があるのですが、実は速度灯を持たないのに歩道を走ることのできる「移動用小型車」という新カテゴリーも、2023年の道路交通法改正により誕生しています。

たとえば、トヨタ「C+walk T」は、そうした歩道走行のできる電動モビリティのひとつです。見た目は立ち乗りで電動キックボード的ですが、特定小型原付とは異なりナンバーは不要で、カテゴリーとしては電動車椅子に近い乗りものといえます。

このような立ち乗り系歩道用モビリティの存在は知りつつも、これまで残念ながら乗ったことはありませんでした。

そんな折、一般向け体験会を実施しているところに出くわしました。試乗してみたところ、歩道用モビリティとは思えないほど好印象でしたので、筆者の感じたトヨタC+walkのいいところを共有したいと思います。

●最高速度6km/hとは思えないしっかり感

ボディサイドのステッカーが、歩道走行可モビリティの証。
ボディサイドのステッカーが、歩道走行可モビリティの証

まずはC+walk Tのスペックを簡単に紹介しましょう。

全長:700mm
全幅:450mm
全高:1190mm
車両重量:29kg
連続走行距離:約16km

車体としてはフロント1輪(10インチ)・リヤ2輪(6インチ)の3輪車で、駆動輪はフロント。モーター出力は350Wとなっています。上級機種ではフロントのセンサーにより人や物を検知すると2km/hまで自動減速するセーフティ機構を備えているのも、自動車メーカー製の低速モビリティらしいところでしょう。

歩道を走れる移動用小型車ということで、最高速は6km/h上限で制限されますが、地下街の広場で試乗してみたところ、加速も期待以上にリニア感があり、とにかくストレスのない低速モビリティという印象でした。

●特定小型原付バージョンを期待したい

メーカー希望小売価格は36万3000円~37万6200円。個人所有するには高価だ。
メーカー希望小売価格は36万3000円~37万6200円。個人所有するには高価だ

さらに自動車メーカー製らしいと感じたのが、シャシー(フレーム)のしっかり感です。

アクセル操作は手でレバーを握るというものですが、そうしてハンドルごと握った状態で曲がろうとしたときの安心感がハンパないのです。この種の低速電動モビリティでは、ハンドル操作をすると、車体が歪んでいるかのような悪レスポンスであることも珍しくないのですが、C+walk Tは安心感を損なわない範囲でリニアに反応します。

自動車インプレッション用語的に表現すると「シャシー剛性がしっかりしている」というのが第一印象です。

今回は4km/h程度で走っただけなので、スピードを上げたときに同様の印象を残すのかは不明ですし、タイヤについてもノーパンクタイプを使っているため、荒れた路面などの外乱に対してどういう挙動を示すのかはわかりませんが、このアーキテクチャーには非常に高いポテンシャルを感じました。

「このサイズのモビリティにおいて、これだけ高い次元でまとめることができるのならば、トヨタ製の特定小型原付を見てみたい」というのが、C+walkを初体験した筆者の偽らざる思いです。

もっとも、C+walk Tの価格は36万円以上もします。仮に、最高速20km/hの特定小型原付を作ったとしたら、保安部品も付けないといけませんし、各部を強化することも必要でしょう。もし特定小型原付バージョンが登場したとしても、個人所有が難しいくらい非現実的な価格になってしまうでしょうけれども…。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
続きを見る
閉じる