■カーボンニュートラルへ向けた取り組み
JR東海は2023年11月15日のプレスリリースで、水素ハイブリッドシステムに燃料電池および水素エンジンの活用を検討していることを明らかにしました。
これは、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みの一環。現在はディーゼル車両から排出されるCO2を実質ゼロにする手段として、次世代バイオディーゼル燃料の試験を行っていますが、併せて水素を燃料とした水素動力車両の開発を目指しています。
JR東海が試験を行う水素ハイブリッドシステムは、燃料電池と水素エンジンの2種類。
燃料電池は水素と酸素を化学反応させて発電する装置であるのに対して、水素エンジンはその名の通り、水素と酸素を燃焼させて動力に変換するもので、高出力が得られるとされています。JR東海の水素エンジンハイブリッドシステムは、水素エンジンで発電機を駆動して発電するものです。
JR東海は、水素動力ハイブリッドシステムの車両を日本車輌製造と共同で、制御装置は東芝インフラシステムズと共同で開発。燃料電池装置にはトヨタの燃料電池モジュールを使用します。
一方、水素エンジンはJR東海とi Laboが共同で開発します。i Laboは半世紀にわたる水素エンジン研究の実績を基に水素エンジンの開発を行っています。
i Laboのホームパージによれば、水素エンジンは大出力を必要とする用途に最適で、エネルギー密度が高い水素による長距離走行が可能。i Laboが開発した水素エンジンを搭載したトラックの実証試験走行を、2023年11月11日から実施しています。
燃料電池ハイブリッドシステムは、小牧研究施設での模擬走行試験を行ってデータを収集。2023年11月から燃料電池ハイブリッドシステム、続いて2024年度以降に水素エンジンハイブリッドシステムの模擬走行試験を実施する計画です。
模擬走行試験は、小牧研究施設にある車両走行試験装置を使用するもので、レールを模した軌条輪の上で台車を走行させることで、勾配などの実際の走行条件を模擬し、実車試験よりも更に充実したデータを効率的に取得、分析することができます。
鉄道車両の水素エンジンは国内外でも例はありませんが、自動車ではトヨタが水素エンジンを搭載したGRカローラのレース仕様をスーパー耐久で走らせています。当初は燃料電池と同様、気体の水素を使用していましたが、最近は液体水素を使用するなど、レースを通じて様々な可能性を模索しています。
JR東海のプレスリリースによると、燃料電池と水素エンジンは、それぞれ出力やエネルギー効率の特性が異なるとのこと。そこで、模擬走行試験を通じて鉄道車両の走行性能や、山間部が多く長距離となる路線への適合可能性などを検証するそうです。
現在、鉄道車両用水素ハイブリッド車の走行試験を行っているのは、JR東日本と鉄道総研(鉄道総合技術研究所)。どちらも発電に燃料電池を使用しています。
JR東日本は、2006年に鉄道車両としては世界初の燃料電池ハイブリッドシステムを、E995系NEトレインに搭載して走行試験を実施しましたが、当時はまだ解決すべき課題がありました。
その後JR東日本は、トヨタの燃料電池の技術供与を受けてFV-E991系HYBARIを試作。現在は鶴見線・南武支線で試験走行を行っています。
FV-E991系HYBARIはジャパンモビリティショー2023でも展示され、水素社会の未来を見せてくれました。
鉄道総研は、2001年から燃料電池車の開発に着手。2006年度には、鉄道総研の敷地内で燃料電池試験車の走行試験を行いました。なお、この試験車はハイブリッドではありません。2019年には試験車を燃料電池ハイブリッド車に改造し、試験を開始しています。
今回、JR東海も開発に着手する水素ハイブリッドシステム。自動車やバスでは街でもよく見かけるようになった水素エネルギー車ですが、実は鉄道車両の場合、ガス事業法では工場と同じに分類されるため、水素タンクの防護対策に大きな壁があるのだそうです。
現在営業線で試験走行を行っているJR東日本FV-E991系HYBARIは、ガス事業法の特認を得て走っている状況。今後は、法律の改正も含めた総合的な取り組みが必要となるようです。
(ぬまっち)