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■コーナリング時の接地性を重視した結果の「ハの字」だった
D1車両って、前輪が「ハの字」の車が多いなぁと思っている人もいるのではないでしょうか?
「ハの字」というのは、車を前から見たときに、タイヤが垂直ではなく、下が広がって取り付けられていることをいいます。
クルマを前から見たときのタイヤの傾きのことを「キャンバー」と呼びますが、「ハの字」というのは強いネガティブキャンバー(ネガキャン)がつけられた状態と言うこともできます。
この「ハの字」は、昔から改造車によく採用される要素のひとつで、この角度が大きいことを指す「鬼キャン」などという言葉もあります。
見た目だけでやっている人もいますが、もともとはハコ車のレーシングカーから始まっているので、性能面でも意味がある場合があります。もちろんD1マシンは競技車両なので、性能面での理由があってやっているわけです。
では、D1車両はどうしてこんなに「ハの字」になっているのでしょうか? それは、コーナリング時のタイヤの接地性を重視した結果とのことでした。今回はシルビア、86、マークIIと、ドリフト界、D1界を代表する3車種のドライバーに詳しく聞いてみました。
●シルビアは「ハの字」にしないとフロントが逃げちゃう
最初に話を聞いたのは、ドリフト界最大勢力といってもいいシルビアに乗る田中省己選手。
フロントタイヤに強めのネガキャンをつけている理由は「コーナリング中の接地のためです。つけないとタイヤの角がすぐに減ってなくなっちゃうんです」ということです。
シルビアのサスペンションの構造上、ドリフト時にタイヤが切れた状態では、アウト側のタイヤはどんどんポジティブ方向(下すぼまりの方向)にキャンバーがついていってしまうのです。そうすると、タイヤのトレッド面を十分に使って接地できなくなり、角ばかり減ってしまうというわけです。
「(ネガキャンを)つけないと、フロントが逃げちゃうんです」と田中選手はいいます。ちなみに、田中選手のネガキャンは5〜6度。これ以上つけてもあまり特性は変わらないので、つけないそうです。
一方で、フロントが巻き込んでオーバーステアが強すぎると感じたときには、起こす方向に調整することもあるそうです。
なお、田中選手の場合は、延長ロアアームを使ってネガキャンをつけています。ただ延長ロアアームだけだと角度がつきすぎるので、アッパーマウントは外にずらすことで起こす方向に調整しているそうです。
余談ですが、純正の長さのロアアームを使う場合には、ピロアッパーマウントでキャンバー角を調整したり、サスペンションのブラケットのボルト穴を長穴にして調整するなどしてネガキャンを強めるという手法が主流です。
この強めのネガキャンは、上級ドライバーに限らず「初級ドリフトドライバーもつけたほうが走りやすい」と田中選手はいいますが、自走でサーキットに行くような車両の場合、ネガキャンを強めるとタイヤの内減りがひどくなってしまうので、移動時は安い移動用タイヤを使って慎重に走って行ったりすることが多いようです。
ちなみに、リヤタイヤのネガキャンは0.5〜1度程度とのこと。リヤの場合はつけすぎるとトラクションがかからなくなり、足りないと横方向にスッポ抜けたりするので、このくらいが乗りやすいのだそうです。
●86は、横に向けたときのフィーリングで「八の字」に
次に話を聞いたのは、シリーズチャンピオンを獲得した藤野秀之選手。D1GPでも一大勢力となってきた86の代表として聞いてみました。
ネガキャンをつける理由はシルビアと同じ。「(フロントサスペンションが)ストラットタイプの車は、カウンターステアをあてたときに、タイヤの下側が閉じていく方向に動くので、ドリフトをするとタイヤの角が接地するようになっちゃうんです。角じゃなくてフラットに接地させたほうがタイヤが転がるので、そういうキャンバー角にしています。ただ、タイヤの角を使いたい人もいると思うので、そういう人は好みのキャンバー角が変わってくると思いますけどね」とのこと。
一方で、ネガキャンをつけているほうが、ステアリングを切ったときの反応はにぶくなるし、ブレーキング時にもロックしやすいし、そもそもタイヤが内減りしやすい、というデメリットを挙げてくれました。
ちなみに、藤野選手は車を横に向けたときに好みのフィーリングになるようにキャンバー角を選んでいるのですが、ドリフトの角度が浅いと姿勢がビクビク動いちゃったりしてよくない面もあるので、やはりドリフトアングルとの兼ね合いもあるそうです。
なお、キャンバーがつきすぎると、ステアリングの切り始めはグンッと手応えがくるけれど、そこからアウト側のタイヤが平らに接地する前にフロントが逃げてしまうといったデメリットが起こるのだそうです。
リヤタイヤに関しては、かなり平らに接地してくれるので、ネガキャンはわずかで30分程度とのこと。コースによって多少は変わるそうですが、それくらいが一番タイヤをうまく均等に使えるのだそうです。
●ツアラーVはわりと起こしぎみ
そして、最後はいわゆるツアラーVといわれるドリフト界では定番のマークII/チェイサー/クレスタに長年乗り続ける北岡裕輔選手に聞いてみました。
「(ネガキャンをつけるのは)コーナリングの安定性のためですね。フロントが引っかからないように、空気圧などとあわせてセットアップします。キャンバー角が足りないと角度をつけたときに引っかかるようになったり、タイヤが外減りして真ん中だけ残ったりするようになります。逆につけすぎると曲がらなくなる」とのことです。
ちなみに、ツアラーVのフロントサスペンションは、シルビアや86とは異なってダブルウィッシュボーンということもあって、ネガキャンのキャンバー角はシルビアや86よりは小さめになります。
北岡選手は5度くらいだそうですが、このキャンバー角で、ドリフトアングルは浅い角度から深い角度まで全般的に対応できるそうです。
一方で「グリップで走ろうと思ったら、もう少し起こすと思います。もっと曲がるように」とのこと。TOKYO DRIFTでは加速区間に右コーナーがあるのですが、他の多くの車がここをグリップ走行で抜けるなか、北岡選手はドリフトで曲がります。それはグリップ走行だとそのコーナーはうまく曲がってくれないので、ドリフトのほうが速いからだそうです。
なお、ネガキャンをつけるための手法としては、ロアアームとアッパーアームを両方とも交換しているそうです。特にロアアーム交換はツアラーVオーナーなら定番メニューだとか。
ただシルビア、86よりはキャンバー角をつけないとはいっても、やはり街乗りすると内減りが激しいし、安定性にも欠けるので、自走は困難になるとか。
なお、北岡選手の車両にかぎらず、上野選手のレクサスRCや蕎麦切選手のインフィニティQ60など、フロントがダブルウィッシュボーンの車両はネガキャンも弱めになっています。
というわけで、D1車両のフロントタイヤが「ハの字」になっているのは、ドリフト時にタイヤをきれいに接地させるためでした。
●第9戦は藤野選手が優勝、第10戦は松山選手が優勝で、藤野選手がシリーズチャンピオン獲得!
さて、2023年11月11日に東京・お台場の特設会場で行われたグランツーリスモD1GPシリーズ第9戦は、石川選手が初の単走優勝。ラウンド優勝は藤野選手となりました。
第9戦で優勝し、ランキング首位の中村選手に3pts差まで追い上げた藤野選手は、第10戦で単走優勝をすると単走シリーズチャンピオンを獲得。そして、追走トーナメントのベスト16でシリーズチャンピオン獲得を決めると決勝まで勝ち上がりましたが、決勝では松山選手が勝利し、松山選手は通算2勝目を挙げました。
これで2023年のD1GPシリーズは終了。来シーズンは5月10〜12日に滋賀県の奥伊吹モーターパークで開幕です。
D1GPの情報は公式サイトをご覧ください。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス、まめ蔵)
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