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■足の長いBEVをセダンで作る意義とは
東京ビッグサイトにて開催されているジャパンモビリティショー2023にて、レクサスが次世代BEVコンセプトカー「LF-ZC」を世界初公開しました。
Cd値0.2以下を目指すというスタイリングは、基本的にセダン型といえるものになっています。ちなみに、Cd値は係数ですから、車体としての空気抵抗はCd値と前面投影面積をかけることで導き出すことができます。
BEV(電気自動車)にとって重要とされる航続距離を伸ばすには、バッテリー搭載量を増やしたり、電気駆動系の効率を上げることも大事ですが、車体の走行抵抗を減らすことも欠かせません。流行のSUVスタイルではなく、あえてセダン型としているのは、前面投影面積を小さくして、一充電航続距離を伸ばすためといえます。
なにしろ、LF-ZCは一回の充電で1000kmを走ることを目標としているのです。これだけ走ることができれば、ストレスなく乗用車として使うことができるでしょう。むしろ、一気に1000kmを走るようなユーザーは超少数派でしょうから、1000kmという数字は安心感を生むためのスペック、と理解すべきかもしれません。
●セダン型BEVとは思えないパッケージ
公表されているボディサイズは、全長4750mm、全幅1880mm、全高1390mm、ホイールベース2890mmというもの。1400mm以下の全高というのは、かなり低いもので、床下にバッテリーを搭載するBEVであることを考えると、キャビンはタイトになっていると想像してしまいますが、さにあらず。
バッテリーセルを超薄型に新設計するほか、前後を駆動するeアクスルもコンパクトにすることで、キャビンは広々としているというのが、レクサスの考える次世代BEVアーキテクチャーのパッケージです。
さらに、エアコンユニットまで小型化してダッシュボードを低くすることにより、視界の広さも確保しているといいます。キャビンも視界も広ければ、あえてSUVを選ぶインセンティブもわかなくなるでしょう。LF-ZCが市販されると、空気抵抗の小さなセダンが再評価されるきっかけになりそうです。
しかしながら、レクサスの次世代BEVにおいて注目すべきは、新しいソフトウェアプラットフォーム「Arene OS」を搭載していること、といえます。
●ドライバーの好みに合わせた走り味にカスタマイズできる
この「Arene OS」を使えば、ドライバーの好みに合わせた走り味をAIが判断して作り込むことができるからです。
レクサスの基本となるブランドイメージは「おもてなし」というものですが、一台ごとに専用のメカニックが乗っていて、ステアリングやアクセルペダルの操作フィーリング、はたまたサスペンションのセッティングを個々人の好みに合わせてくれるということが「Arene OS」では可能になるといいます。
電子制御領域でのセッティング変更となりますので、親子で一台のレクサスを共用するようなケースでも、親の好みに合ったセッティングと、子どもの好きなセッティングを、瞬時に切り替えることが可能となります。
そうした個人の好みをAIで分析するために、各種データをレクサスのサーバーにアップしなければなりません。つまり、レクサスオーナー各人の「好きなセッティング」データが、レクサスのサーバーに蓄積されるというわけです。
将来的には、レクサスからレクサスに乗り換えたときに、まったく違う車種であっても、データを活かしてユーザーの好みに合わせたセッティングにして納車することも可能となるでしょうし、ドライバー側の進化に合わせてセッティングを日々変化させるということも期待できます。
逆にいうと、「Arene OS」を積んだレクサス車で、自分好みの味付けを作り上げたドライバーは、他ブランドの車に乗り換えると、そのデータを利用できないことになります。結果として、レクサス以外に乗ると満足できない体になってしまうかもしれません。
レクサスのオーナー囲い込み戦略にもつながる「Arene OS」、末恐ろしいソフトウェアプラットフォームです。