ホンダ新型「N-BOX」公道試乗。軽自動車のベンチマークが期待以上にレベルアップ【週刊クルマのミライ】

■N-BOXは軽自動車のベンチマーク

新型N-BOXファッションスタイルのメーカー希望小売価格は、FFで174万7900円。
新型N-BOXファッションスタイルのメーカー希望小売価格は、FFで174万7900円。

「日本一売れている車」という枕詞がおなじみになっている車といえば、ホンダの軽自動車「N-BOX」でしょう。まさに軽自動車のベンチマーク(基準)といえるN-BOXが、3代目へとフルモデルチェンジを果たしています。

今回、横浜の市街地を中心にしたルートで新型N-BOXに公道試乗することができましたので、第一印象をお伝えしたいと思います。

熱心なファンの方ならご存知のように、新型N-BOXは基本となるハードウェアは2代目からキャリーオーバーとなっています。つまり、機械的にはブラッシュアップした内容といえます。

エクステリアについてもキープコンセプトと感じているユーザーが多いようですが、筆者としてはN-BOXらしさを新解釈したスタイリングだと考えています。とくに標準系は、従来よりも日常生活に溶け込む道具感を増しつつ、個性をアピールするバランスのとれたエクステリアになっていると感じます。

2代目よりもスタンスが効いたシルエットは、走りのレベルアップも予感させるものですが、実際の初ドライブでは期待以上の仕上がりをみせてくれました。

●新型は静粛性が大幅に向上した

VTECエンジンは回転を上げていくとホンダらしいエンジンサウンドを味わえる。
VTECエンジンは回転を上げていくとホンダらしいエンジンサウンドを味わえる。

新型N-BOXでは標準系グレードはNAエンジンだけの設定となっています。トランスミッションはCVTで、これらパワートレインのハードウェアとしては大きく変更はありません。主に、制御系によって洗練したというのが進化内容といえます。

基本的なプラットフォームはキャリーオーバーですが、新しい法規制である32km/hのポール側突試験をクリアする強靭なボディとなっています。さらに、フロアやルーフの防音性能・遮音性能を高めているのも、ボディ関係での進化ポイントです。

その成果は、エンジンをかけた瞬間に感じることができます。これまでの軽自動車のレベルを大きく引き上げるといえるレベルで、車内は静かで、エンジンの振動も感じません。信号待ちをしているときに目をつぶれば、外からのノイズ侵入も少なく、車内に響くのはウインカーの音だけ。自分が軽自動車の中に座っているとは思えないほどの静粛性です。

新型N-BOX ファッションスタイル(オータムイエロー・パール)
新型N-BOX ファッションスタイル(オータムイエロー・パール)

その印象は、市街地走行でも変わりません。NAエンジンの軽自動車というと、常にエンジンが唸りをあげているというイメージを持っている人もいるかもしれませんが、新型N-BOXのNAエンジンは、発進時に2500rpmくらいまで回転が上がることはありますが、走り出してしまえば1500~2000rpmの領域で走行しています。ほとんどエンジンのノイズは耳に届かないのです。

ただし、急な坂道で加速するようなシチュエーションでは、さすがに5000rpm近くまでエンジン回転は上昇します。しかしながら、N-BOXのNAエンジンは従来モデル同様に、VTEC技術が採用されています。4500rpmを超えたあたりでVTECがハイカムに切り替わり、かつてのホンダらしいエンジンサウンドが味わえるのは、ホンダファンへのサプライズ的演出といえるかもしれません。

●期待以上の燃費性能を見せる

NAエンジン・FF車のWLTCモード燃費は21.6km/L。初試乗では市街地モードと同値となる18.8km/Lで走ることができた。
NAエンジン・FF車のWLTCモード燃費は21.6km/L。初試乗では市街地モードと同値となる18.8km/Lで走ることができた。

NAエンジンのスペックは、最高出力43kW/7300rpm・最大トルク65Nm/4800rpm、そしてWLTCモード燃費は21.6km/Lです。WLTCモード燃費を、より細かく見ていくと、市街地モード:18.8km/L、郊外モード:23.4km/L、高速道路モード:21.8km/Lとなっています。

はたして、横浜みなとみらいエリアでの公道初試乗での燃費データは、メーター表示で18.8km/Lというものでした。1名乗車でエアコンはオン、街乗り+首都高速を1区間だけ走った結果がWLTCモードの市街地燃費と同じ数字になったというのは、偶然なのかもしれませんが、十分にカタログスペックの燃費で走れる性能を持っているという風に捉えることができます。

この数値の背景についてエンジニア氏に伺ったところ、「(モード燃費とは関係なく)実燃費を上げるために、エアコン使用時にアクセルオフした際の燃料カット領域を、従来モデルより大幅に拡大しているのが効いているのかもしれません」という回答を得ることができました。

外観はキープコンセプトだが、シンプルになったインテリアは雰囲気を一新している。
外観はキープコンセプトだが、シンプルになったインテリアは雰囲気を一新している。

市街地走行において、もうひとつポジティブな印象を受けたのは運転のしやすさ、です。

従来モデルではダッシュボード上にメーターを置いていましたが、新型ではオーソドックスな位置にクリアで見やすい7インチフル液晶メーターを置いています。そのため、ダッシュボードがフラットになり、これまでも定評のあった視界の良さがさらに向上しています。

遠くまで余裕をもって見渡せるため、信号の変わるタイミングなどを先読みした運転もしやすくなっています。このあたりも、自然と省燃費運転につながるポイントなのかもしれません。

いずれにしても、電動化技術をまったく採用していないスーパーハイトワゴンの軽自動車が、18.8km/Lという燃費で走ることができたのは事実。ガソリン価格が高騰している昨今ですが、経済性も十分に軽自動車に期待するレベルを満たしているといえそうです。

●高速道路の運転支援もレベルアップ

新型N-BOXカスタムターボのメーカー希望小売価格は、FFで204万9300円。撮影車のボディカラーはプレミアムサンライトホワイト・パール(5万5000円高)。
新型N-BOXカスタムターボのメーカー希望小売価格は、FFで204万9300円。撮影車のボディカラーはプレミアムサンライトホワイト・パール(5万5000円高)。

新型N-BOXにはターボエンジンも用意されていますが、ターボを選ぶことができるのはカスタムだけとなっています。

そのN-BOXカスタムでは、メッキパーツの使用を抑え、スーパーハイトワゴンのカスタム系における新しい表現を目指したといいますが、たしかに、スッキリとした顔つきになっているように感じます。もっとメッキパーツを多用してギラギラとしたフロントマスクを望むという声もあるかもしれませんが、そうしたニーズには純正アクセサリーで応えるという構えになっています。

N-BOXカスタムのターボエンジンの良さが光るのは、高速走行でした。

今回のフルモデルチェンジでは、ホンダの先進運転支援技術「ホンダセンシング」のセンサーを、新世代の広角カメラだけとして、画像情報によってACC(追従クルーズコントロール)やLKAS(車線中央維持アシスト)を制御するという仕組みになっています。

純正アクセサリーとして用意されているフロントグリルなどを装着したN-BOXカスタム。
純正アクセサリーとして用意されているフロントグリルなどを装着したN-BOXカスタム。

高速道路においてホンダセンシングをフルに活用してみたところ、とくにLKASの進化を実感することができました。

従来のN-BOXにもACCやLKASは備わっていましたが、LKASについては細かく修正するタイプのため、使用しているとかえって落ち着かないという声もありました。しかし新型N-BOXカスタムでは、15インチタイヤとの相性も良いのでしょう、LKASがビシッと落ち着いた挙動となっています。

ACCについても、2000rpm程度からブーストが十分にかかる制御となっているターボエンジンが持つ余裕を活かして、先行車両に速度を合わせるときのストレスもありません。高速道路を走る機会が多いというユーザーであれば、ターボエンジンで15インチタイヤを履く、新しいN-BOXカスタムはピッタリでしょう。従来型からのLKASの進化幅が大きいことを考えると、乗り換えすることも含めておすすめしたいと思います。

標準系N-BOXの市街地走行で感じることのできた静粛性の高さは、高速走行でさらに実感することもできたのも好印象でした。ハイウェイドライブをしながら同乗者との会話を楽しみたいというニーズにおいても、期待以上の出来栄えといえるのではないでしょうか。

もはや、軽自動車という先入観で評価すべき車ではなくなったといえる新型N-BOX。軽自動車のベンチマークとしての基準線を大きく上げたことで、軽自動車全体のレベルアップも期待できそうです。ますます「軽自動車で十分」というユーザーが増え、「軽自動車がいい」と考える人が日本の自動車市場において主流派になっていくかもしれません。

自動車コラムニスト・山本 晋也

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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