トラッドサニー、Y30セド/グロ…80年代パキパキデザインの日産車5台を振り返る【クルマはデザインだ】

■車好きが大好きなハズの80年代のパキパキボディ日産車

先日発表されたトヨタのランドクルーザー250は、車好きの琴線に触れる80年代的カクカク、パキパキボディに話題沸騰中です。たしかに当時は四角いボディがよく見られましたが、その中でも強く記憶に残るのは一連の日産車ではないでしょうか?

ということで、今回はそんな中から悲喜こもごもの5台のデザインを振り返ってみます。

●作りのよさでヒットを獲得した超パキパキボディ

80年代半ばの日産のパキパキデザインには「時代遅れ」的なネガティブイメージがありましたが、もちろんユーザーの心を掴んだヒット作もあります。その筆頭が1985年登場の6代目「トラッドサニー」(B12型)です。

触ると手を切りそうな直線ボディの6代目「トラッドサニー」。面の張りなどは感じられないが、作りそのもの質感を上げたことでヒットにつながった
触ると手を切りそうな直線ボディの6代目「トラッドサニー」。面の張りなどは感じられないものの、作りそのもの質感を上げたことでヒットにつながった

FF化した先代は欧州車風の先進的なフォルムでしたが、とくに初期タイプは仕上げがイマイチ。その反省から「ジャストクオリティセダン」をテーマとした6代目は品質を劇的に向上させます。ホイール以外すべて直線と揶揄されるほどのパキパキぶりは驚きでしたが、そこを質感の高さで補ったのです。

メインのセダンに加え、リアランプに斜めのストライプ模様を施したハッチバックも、明るいボディカラーとともに若いユーザーの獲得に成功。パキパキながらまとまり感は高かったのです。

まあ、その勢いに乗って追加したクーペのRZ-1はいささかやり過ぎでしたが……。

●迫力のボディでライバルに挑戦した高級セダン

サニーの2年前、すでに圧巻の直線ボディで話題を集めていたのが6代目のセドリック、グロリアです(Y30型。グロリアは7代目)。先代の430型も直線基調でしたが、エンジン、プラットホームとも刷新したボディは、さらにパキパキ度をアップして登場しました。

先代の直線基調を徹底してレベルアップしたボディの6代目セドリック。顔の威圧感だけでなく、ボディ全体が壁のように感じられる
先代の直線基調を徹底してレベルアップした6代目セドリック。顔の威圧感だけでなく、ボディ全体が壁のように感じられた

とりわけマイナーチェンジ後のハードトップは、縦桟のグリルと上下2段構造のランプに大型バンパーが加わり、まるで神殿のように荘厳なフロントに。高級車然とした太いプロテクトモールが走るサイド面も、硬い鉄板感が全開でした。

6代目は、顔付きなどにどこかトヨタのクラウンを後追いした形跡があります。ところが、同じ年にモデルチェンジしたライバルは、お洒落なクリスタルピラーで一歩も二歩も先を行っており、販売的にはまったく歯がたたなかったのです。

●バリバリのアメリカンスタイルでライバルを追う

さて、セドリックの翌年、1984年にはさらなるパキパキボディの5代目ローレル(C32型)が登場します。サニー同様、先代は欧州車風の空力ボディでしたが、販売的に苦戦したこともあり、一転アメリカンな直線ボディに大変身。

軽快な筈の4ドア・ハードトップながら、重厚感が勝った5代目ローレル。仏壇に例えられるグリルが圧巻
軽快なはずの4ドアハードトップながら、重厚感が勝った5代目ローレル。仏壇に例えられるグリルが圧巻

キャッチコピーも「ビバリーヒルズの共感ローレル」とド直球。フロントは長方形のランプと12個の格子状グリルという、四角四面の組み合わせがまるで仏壇のよう。サイド面も四角いドアハンドルに加え、ショルダーラインの「段付き」が余計に仏壇感を盛り上げました。

4ドアハードトップの設定は、もちろんトヨタのマークⅡ3兄弟を意識したものですが、セドリック同様、ブラックアウトしたリアピラーをはじめとしたお洒落なライバルに対し、どうにもこうにも古さは否定できなかったのです。

●パキパキ軍団に埋没してしまった薄幸のセダン

次は、1986年発売の3代目スタンザ(T12型)です。先代のスタンザFX(オースターJX、バイオレットリベルタと3兄弟)は、ローレル同様先進的な空力ボディがウケず、マイナーチェンジで「四角い顔」に大手術を敢行。その流れのままに登場したのがこの3代目です。

先代の欧州車的先進感がウソのような直線ボディの3代目スタンザ。どの車にも見える没個性ぶりが逆にスゴイ
先代の欧州車的先進感がウソのような直線ボディの3代目スタンザ。どの車にも見える没個性ぶりが逆にスゴイ?

同時期の7代目(U11型)ブルーバードと基本構造を共有する同車は「高い品位とセンスの良さを訴えるエレガントなスタイル」をテーマに。ただ、逆スラントのノーズこそ特徴的ながら、ブルーバードはもちろん、サニーやローレルなど、この時期の日産車のどれにも見えるという超没個性ぶりだったのです。

テーマのとおり、美しいショルダーラインなど高級車を狙った努力は垣間見えるのですが、何しろ影が薄い。当然、スタンザの名前はここで絶え、実質的な後継のプリメーラに席を譲ったのです。

●時代に翻弄された伝統のスポーティセダン

最後のパキパキボディは、1985年登場の7代目スカイライン(R31型)です。

基本は人気だった先代のスタイルを継承しましたが、折からのハイソカーブームに乗って高級路線に舵を切ったボディが特徴。「パサージュ」の設定などは完全にトヨタのマークⅡを意識したものでした。

セブンススカイラインの愛称でよくも悪くも話題になった7代目スカイライン。「都市工学」というコピーも話題に
「セブンススカイライン」の愛称でよくも悪くも話題になった7代目スカイライン。「都市工学」というコピーも話題に

直線基調のパキパキ具合は他車と一緒ですが、それでもスポーティカーとしてわずかにウエッジしたスタンスと、ショルダー面を削いで出した軽快さが特徴。ただ、長いオーバーハングや絶壁形のインテリアなどは、お世辞にもスポーティとは言えないものでした。

往年のファンからソッポを向かれた「セブンス」ですが、スポーティ度を高めるため追加された「GTS-R」などの限定車は、いまになって相当な高値が付いているというから皮肉なものです。

さて、今回は80年代半ばのパキパキ日産車5台を振り返りました。

当時はライバルに遅れたスタイリングに地団駄を踏んだ日産ファンも多かったようですが、いまやネオ・クラシックカーブームの主役級に。やっぱり、車好きは四角いボディに弱いのでしょうか?

(すぎもと たかよし)

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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