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■石田純一さん、横山剣さんも一緒に楽しんだクラシックカーラリーに初参戦!
●壊れずに無事にたどり着けるのか? アトラクション的なドキドキもあり!?
車の楽しみ方っていろいろありますが、私の場合は公道を走らせるのが楽しいって思います。
しかし、現在の車両で現在の道を走らせても、普通に目的地に着いちゃいます。けれど、少し古い車で出発すれば、たどり着けるかさえも危うくなることも。そうやって、車をもっと楽しめるように盛り上げてくれるのが、クラシックカーラリーです。
今回、クラシックカーラリーに参加させていただきましたので、その楽しさをレポートいたします。
●1970年式「じゃないほう」のハコスカ・スカイラインで参戦
今回参戦させていただいたのは、アジア自動車ラリー。トレンディドラマ俳優の石田純一さん、クレイジーケンバンドの横山剣さんなども参加する、超ゴージャスイベントです。
参戦するのは、1913年から1993年までに製造されたとっても古い車から、ちょっと前のそろそろ懐かしいと呼べる車たちです。
今回、お借りした車両で出場させていただいたのですが、その車がこちら!
1970年式のスカイライン、そう、いわゆるハコスカですが、箱のカタチがちょっと違います。セダンでも2ドアでもありません。
なんと、バン! 4ナンバーの商用車です。
当時の国産車の多くは、同じプラットフォームに、セダン、2ドアに加え、バンをラインアップする車種が多く見られました。ベースを同じにして、台数を稼ぐのが目的だったのでしょう。
スカイラインと言えば、日本グランプリなど様々なレースで活躍したり、走りの良さがクローズアップされてきましたが、商用車も長らくラインアップされていました。3代目スカイラインとなるハコスカにもバン/ステーションワゴンが存在したのです。
そんなスカイラインバンのキーを受け取り、運転席へと乗り込みます。1970年式と言えば、50年以上前の車です。当時の新車の状態ですらチョークを引く、引かないとか、外気温や冷間時、温間時でのエンジン始動にちょっとしたコツが必要だったり。旧車の場合、掛かりにくいとプラグを被らせたり、何度もセルを回してバッテリーを弱めたりという可能性もあり、エンジンスタートは緊張の一瞬です。
ところがどっこい、このスカイライン・バンは、イグニッションキーをひねると同時といっていいくらい、セルモーターが1回転もしないような感覚でエンジンがあっけなく始動しました。これは驚きです。フルレストアを行ったWalter Wolf Racingの仕上げの素晴らしさでしょう。始動後も回転の安定感など、おそらく新車時よりも調子がいいんじゃないかと思ってしまうほどです。
●なかなかに奥の深い「PC競技」「PM競技」とは?
そんなスカイライン・バンで出場させていただくラリーは、競技形式になっていますが、いわゆるスピードを競うような危険を伴うものではありません(もちろん、一般道を普通に車を走らせる時と同じリスクはあります)。
では、スピード、速さを競うのでなければ何で順位を決めるのか? それが、基準タイムとの差がいかに小さいかです。
その基準との違いを競う方法のひとつが、PC競技。「PC」とは「Prove Cronometrate」の略で、クローズドのコースにホースのようなタイム計測のセンサーを数本踏みながら、各区間を指定の秒数に近い時間で駆け抜けることができるかを競います。ホース状の線を踏んでいくことから、通称「線踏み」と呼ばれます。
今回、スタート地点のPCだけは1本のみのチャレンジでしたが、他のステージでは1ヵ所に付き数本の「線」を連続して踏んでいくことになりますが、その間の距離や基準タイムは様々で、加減速が必要となるわけです。
その線踏みは、たとえば10mの区間を10秒で走り切る基準タイムであれば、1mを1秒で走ればいいということになりますが、心のなかで数えて、目分量でその距離を測っていては勝ち目はありません。最低限でも、区間数以上を計測できるストップウォッチ(またはタイマー)が必要となるのです。
言葉で説明すると非常に難しいですが、イメージするなら100分の1秒単位くらいのストップウォッチでやる10秒ゲームに近いかも。表示を見ずに自分の中のメトロノームを動かして、10秒経ったと思ったらストップボタンを押す。誰もがチャレンジしたことあるんじゃないでしょうか?
PC競技は、走るだけなら決められた距離を決められた時間で通り抜けることをやるだけですので、実際には難しいことはありません。けれど、基準タイムに近づけるには、それなりの経験や練習が必要なようで、「誰でも参加できながら勝つためには奥が深い」という、ゲームの面白さの基本のように感じられます。
そして、もうひとつがPM競技。こちらはクローズドコースではなく、一般公道のとある区間、一定速度を保ちながら走ることを目的に競い合います。指定された区間内の一部(距離は事前には分かりません)内で速度を保ちつつ走るわけです。
こちらもルールとやるべきことは非常に単純です。けれど、「ハイ、ここからスタート」「OK、ここまでで終了です」という部分が分からず、しばらくの間、右足に意識を集中させて、アップダウンのある山岳路を走らせるのは容易ではありません。しかし、繰り返しになりますが、PC競技同様に、こういった単純なルールなものほどオモシロくてハマってしまいそうです。
さて、それらの競技が指定された部分に向けて、ラリーは「コマ図(またはコマ地図)」に従って進行します。「コマ図」とは、スタート地点からゴールまで、次に曲がる角の略図と、そこまでの距離が書かれた「コマ」を頼りに走っていくわけです。
たとえば、もしも「曲がらなければならない指定の交差点を直進してしまった!」といったときには、次のポイントが指定の距離通りに現れないので、間違いに気付く(かも知れないし、気付かずにしばらく走っちゃうかも知れない)のです。その時は、確実にコマ図通りに進んだポイントまで引き返して再スタートするか、まあ、同じ出場車を見つけたらその車両に付いていくというコバンザメ走法もアリかと思います。
●前夜祭はレイザーラモンHGさんと「フォー!」
さて、説明が長くなってしまいましたが、イベントは、前夜祭のパーティから盛り上がります。
ご挨拶とか説明などを聞きながらの食事会かな、と思ったら然に非ず(さにあらず)。ここからすでに、ゲストが登場します。
現れたのは、レーザーラモンさん。レイザーラモンHGさんは、例によって「フォー!」の掛け声で両腕を広げ足を組んで「フォー!」の掛け声で皆さんと写真を撮りながら盛り上がっていました。
ここで感じたのは、とても和やかでアットホームな雰囲気。クラシックカーを所有し、こういったイベントに参加できるというと相当に裕福で、我々庶民とはかけ離れた、ちょっと悪く言えば感じ悪い人が多いんじゃないか?ってビビってたんですが、この前夜祭でそんなことがないのがよくわかりました。
まあ、皆さん、それなりにお金持ちだったり資産家だったりするんじゃないかって気はしますが、実際、多くの方とお話できましたが、オラオラな感じの人はひとりも見当たらず、皆さんとても優しく気遣いしてくださる方ばかりという印象でした。
まあ、それも主催である「一般社団法人アジア自動車ラリー」の代表理事 福田愼次郎さんのお人柄に集まっていらっしゃるからだと思われます。
●いよいよDAY1のスタート! 観光名所を横目に、筑波山や飛行場も走れちゃう
さてさて、前夜祭の翌朝、いよいよスタートです。スタートポイントは、茨城県水戸市の三の丸庁舎。ここは、昭和5年に建造された旧茨城県庁舎で、近世ゴシック建築様式の外観と、内装は大理石を使用した階段や、石張りの床など、昭和初期の歴史ある建物の記憶を留めていてくれます。こうした公共施設を車を走らせるイベントにフルに使用させていただくことができるのも、主催者側の大変なご尽力だと思います。
スタートの前に競技の説明、安全祈願などがあり、1分置きに各車スタートします。
そして、スタートからいきなり、1本目のPC競技です。
ここは小手試しとばかりに、直線1本30mを6秒で走ります。前輪がセンサーを踏んだと思った瞬間にコ・ドラ(コ・ドライバー:助手席のパートナー)がストップウォッチをスタート。秒数をカウントしてもらい、6秒丁度で次のセンサーを踏むように調整します。単純計算の平均速度は18km/hですが、スタートからすぐに1本目のセンサーを踏むので、うまく18km/hに持っていけるかが勝負です。
うーん、難しい! なんとなく行き過ぎては行けないような気がして、6秒以上で走ってしまいました。しかし、この時の結果が実は大きな結果を生み出していたとは、もちろんこの時点では知るよしもありませんでした。
気を取り直し、いよいよ公道ラリースタート。ここからは、コマ図に従ってコドラが「●m先の交差点信号、左折」などと読み上げてもらいます。ドライバーはその交差点でトリップメーターを0に戻すなどして、次のポイントまでの距離に備えます。
ところが、スカイライン・バンの場合、トリップメーターを0に戻すのに、プッシュボタンワンタッチではなく、つまみを回してトリップメーターを一周させることでリセットするタイプだったため、走りながらの操作は大変なため断念。暗算で次までの距離を現在の距離に足すことで対処しました。ボケ防止になりそうです。
最初のチェックポイントである護国神社へ、水戸偕楽園の脇を通り、向かいます。各チェックポイントでは、通過した証拠としてのスタンプと、各地の観光協会などのパンフやお水、グッズなどをいただいていきます。参加車のほとんどがエアコンのないクラシックカー。水の差し入れはとってもありがたいです。
そうして、コマ図通りにスカイライン・バンを進めると、その道中は走りやすく、大型車両など少ない道を選んで導いてくれているのに気付きます。水戸市内から決して最短距離ではなく、「走りたくなる道」を辿っていくと、太平洋が見えてきました。大洗海岸に到着です。
さてここで、本日2ヵ所目のPCポイントです。海沿いの広いスペースにPCコースが設置されています。今度は短い直線1本のみでなく、数mから数十m、コーナーを含んだ部分もあり、9本の連続したPCがあります。
つまり、最初に40mを7秒(平均20.6km/h)、そのゴールがスタートで次の40mを6秒(平均24km/h)、そしてまた次が40mを7秒…といった具合に連続してスタート、ゴールスタート、ゴールスタート…と続けなければならないのです。
これはかなり難しいです。
いや、繰り返しになりますが、やることはなんてこと無い、普通に車を走らせるだけです。けれども、自分の心のなかでカウントしながら、目標となる線を思ったタイミングで踏むのが、これほどできないもんだ、というのがわかります。しかも、次のゾーンには連続して入るので、ゴールイコールスタートとなります。なので「アー失敗しちゃった。よーし次こそは…」なんて一喜一憂しているヒマなんかまったくありません。手足も頭の中もとても忙しいのです。
さて、PC競技が終わればランチとなります。
大洗港に水揚げされたシーフードをふんだんに使ったと思われるイタリアンでした。地域の食材をその場でいただくのも、自動車ラリーならではの楽しみですね。
午後のスタートから、茨木空港を目指します。コマ図に従って進む道中はやはり、走りやすく、交通量も少ない道をセレクトしてくださっているのがわかります。
CPの茨木空港でスタンプとお土産を受け取り、また走り出します。
次のCPはいばらきフラワーパーク。季節の花々が我々を迎えてくれます。イングリッシュガーデンと古い英国車、似合いますね〜。
次に目指すは筑波山。かつては走り屋さんたちが集まって峠コースで腕を磨いていた歴史もあったほどの山です。現在の車両なら何事もなく走れてしまうワインディングも、旧車にとっては適度な速度で楽しめるスポットです。
この筑波山のどこかで、今度はPM競技が行われます。ある数kmのPMゾーン内に計測区間が設けられ、その間を決められた速度で走らなければなりません。PMゾーンの始まりと終わりは明確に表示されていますが、計測区間はまったく分かりません。ですので、PMゾーンでは基準速度をキープして走る必要があります。最終的に平均速度が基準速度にどれだけ近いかを競います。
こちらも意外に難しい。本気でやるなら、速度計のメーターエラーを予めチェックしておいて、表示速度を何km/hにして走るべきか検討するとか、より正確なスピードメーターを装着するかしなければなりません。いずれにしても、アップダウンとコーナーが続くワインディングを一定速度で走るのは困難です。微妙なアクセルワークのレッスンにはもってこいですね。
さて、PM競技区間を終え、一同は竜ヶ崎飛行場を目指します。途中の高速でも、スカイライン・バンは快調そのもの。90km/hくらいが丁度いい速度域です。強いて言えば、もう1速上のギア、つまり前進4段変速ミッションがあったらいいですね。
初日の最長区間を終え、龍ヶ崎飛行場へ到着しました。
ここではなんと! 滑走路がPCスポットになっていました。
滑走路で車を走らせるって、リムジンバスの運転手さんとか、トーイングトラクターのオペレーターでもない限り、そうそうないことです。せっかくならその長い直線で最高速度を試したいところですが、距離とタイムが決められた範囲で楽しみます。
それでも参加者さんたちも、それなりの経験をお持ちの方が多かったようですが、さすがに滑走路を走ったことのある人は殆どいなかったのではないでしょうか? 皆さん大きな笑顔でPCに挑んでました。
初日最後のPC競技を終え、竜ヶ崎飛行場を後にしたラリーストたちは、その日のゴールであるヒルトン成田へ向かいました。
ゴールのヒルトン成田は、言わずと知れた世界的にも有名な高級ホテル。こちらのバンケットルームで豪華なパーティが開かれます。
酷暑の中、エアコンなしの車両で走り続けたドライバーとコ・ドライバーは、やっとのことでビールやドリンクにありつけます。
そしてまたもや、豪華なゲストが登場したり、チャリティオークションが行われたりしながら、参加者の懇親を深めつつ、英気を養って翌日に備えます。
●DAY2~表彰式。なんと、ワタシが松田次生賞!
2日目、ヒルトンホテルを後にして、今回のラリーで最長区間を走ります。目指すは「Walter Wolf Racing」。アジア自動車ラリーの主催である一般社団法人アジア自動車ラリー代表理事の福田愼次郎さんが立ち上げた「自動車屋」です。1970年代後半、カナダの石油王「ウォルター・ウルフ」氏が、コンストラクターとしてF1レースにおいて、合計3度の世界チャンピオンという偉業を成し遂げました。そのウォルター・ウルフ氏が世界で唯一公認しているのが、日本国内における商標登録取得のウォルター・ウルフ・レーシングなのだそうです。
その木更津営業所には、きれいなレストア工場と、そのレストア車をテストするコース場が設けられています。ここで本日最初のPC競技となります。
ウォルター・ウルフでの素敵なデリバリーによるランチ以上にボリューム満点のおやつをいただき、稀少なレストア中の車両見学を終え、君津市民文化ホールへ向かいます。ここでもスタンプを受け取ってPC競技を行います。
その後、かずさアカデミアパークでランチを終え、房総スカイラインでPM競技を行います。これは前述した通り、ある区間を一定速度で走り切る競技です。
房総スカイラインも信号がほとんどなく、緩やかなワインディングが多い走りやすい道路です。PM競技がないとまさに暴走する人がいるかもしれません!? PM競技はその抑止力にもなっているかもですね。
山の駅養老渓谷喜楽里でスタンプをいただき、ラリーストたちは最終ポイントのイオンモール木更津へ向かいます。
最後のPC競技を、イオンモール木更津の駐車場で終えたところでゴール。汗だくになりながら走りきった喜びはヒトシオながら、競技は終了してさらに、表彰式のある龍宮城スパホテル三日月へと向かい、2日目の走行は終了。
東京湾を見渡せる展望露天風呂で汗を流した後は、いよいよパーティー会場で表彰式です。石田純一さんのスピーチ、スーパーGTでの大クラッシュから見事立ち直った松田次生選手も駆けつけてくれ、松田選手が乗る車両のゼッケン23号車にちなんで、23位が表彰されます。
なんとワタクシ小林は、最初の水戸三の丸庁舎でのPC競技で、見事23位をゲットしていたのでした! 参加39台中の23位という、成績としてはなんとも中途半端な結果ながら、ともかく、松田選手から日産・オーテックグッズなどをいただいちゃいました。我ながら、モッテルな〜、と感心しました。
●自動車文化を育てる、楽しむ! 特別な時間を堪能
さて、今回のラリーへの参加費は25万円で、これには全行程、競技の運営費はもちろん、2名分の朝食が1回、昼食が2回、夜のパーティーが2回、ヒルトン成田の宿泊費、各種副賞、記念品などを含んだ金額です。飛行場や普段走れない場所を貸し切ったり、芸能人と一緒に参加できたり、ゲストも登場するパーティーが2回あって、いいホテルに泊まって…と考えると、かなりオトクなのだと思いました。一泊二日の国内旅行でも、すぐこれくらいはいってしまうでしょう。それでいて周りの参加者も車両も、かなりのゴージャス感に囲まれて幸せな気分に浸れます。
主催代表の福田愼次郎さんによると、これまでにない車のイベント、誰もやらなかったクラシックカーの楽しみ方を今後も続けていきたい、とのこと。
今回の開催も、真夏という往年の名車たちにとってはオーバーヒートをはじめ、もっとも苦手な時期であり、参加者にとってもほとんどがエアコンのない車両(あったとしても効かないまたはトラブルの原因でもある)のため、人間にとって厳しい季節。けれど、だからこそ、クラシックカーのイベントは枯渇してしまうのだとか。
けれど、2日間走ってみて、楽ではないけど楽しめる、簡単ではないけど困難というほどではない、という面白さのツボの押し加減が絶妙に分かっての設定なんだとすごく合点がいきました。
本番2日間のスタート前日からゴール翌日に返却するまで、相棒になって走ってくれたスカイライン・バンも、返却時には、ややクラッチのミートポイントがほとんど床付近までとなってしまい、調整しなければそれ以上はクラッチが切れない状態になっていました。車としては致命的な故障ではないけれど、旧車あるあるで要調整のタイミングがちょうど訪れたタイミングとなりました。
4日間のその距離はおよそ650kmとなっていました。50年以上前の車両が、その距離をメンテナンスフリーで走れたことにも驚きでした。
旧車を分かっている福田さんだからこそのさじ加減が、そこからも垣間見ることができたと思います。
今回、アジア自動車ラリーに参加させていただき、自動車の文化はこうやって作り、育てていくもんなんだろうという片鱗が、自分の目に浮かび上がった気がしました。
(文:小林 和久/写真:前田 惠介)