懐かしい「西武山口線」車両がナローゲージの保存鉄道「KATO Railway Park・関水本線」に集結する

■鉄道模型メーカー関水金属の新工場に軽便鉄道を敷設

かつて埼玉県所沢市の西武鉄道山口線で運行していた、線路幅762mmのナローゲージ路線のSL5形532号機をはじめとした車両が、各地から埼玉県鶴ヶ島市に再集結します!

西武山口線で活躍したSL、5形532号機が埼玉県に帰ってきます
西武山口線で活躍したSL、5形532号機と客車が埼玉県鶴ヶ島市に帰ってきます

西武山口線の車両が再集結するのは、「KATO」 ブランドの鉄道模型メーカー「関水金属」が埼玉県鶴ヶ島市鶴ヶ丘に建設している鶴ヶ丘新工場(KATO WORKS)の敷地内に2024年度に誕生する、ナローゲージの保

存鉄道KATO Railway Park・関水本線です。

関水本線には周回線と機関庫・駅・ナロー展示室を設置
関水本線には周回線と機関庫・駅・ナロー展示室を設置

関水本線は、鶴ヶ丘工場に隣接した鶴ヶ丘児童公園と一体的に、イングリッシュ・ナチュラル・ガーデンとして整備。ガーデンには一周620mのエンドレス線(周回線)が敷かれ、機関庫を併設した駅とナローゲージ展示室が設置されます。

関水本線の線路は線路幅762mmと610mmの両方に対応して、レール3本を敷いた3線軌条となっています。

関水本線は線路幅762mmと610mmの3線軌条となります
関水本線は線路幅762mmと610mmの3線軌条となります

関水本線のホームページに載っている、元西武山口線の車両は4両です。この車両の紹介の前に、西武山口線について簡単に説明しましょう。

西武山口線は、現在も多摩湖〜西武球場間を結ぶ新交通システムとして存在していますが、1984年までは遊園地前〜ユネスコ村間を結ぶ、線路幅762mmの軽便鉄道でした。

西武山口線で活躍していたB11形蓄電池機関車と客車
西武山口線で活躍していたB11形蓄電池機関車と客車

前身は、1950年に西武園遊園地の遊戯施設として運行を開始したおとぎ電車。1972年に地方鉄道に昇格して西武山口線となりました。開業以来、蓄電池機関車と客車が活躍し、1972年からはSL列車も運行していました。

関水本線に集められる西武山口線の車両は、B11形B13号蓄電池機関車と、21形客車22号車、SL5形532号機と、31形客車33号車の4両です。B13号機と22号車はおとぎ電車で使用していた車両。引退後、大井川鐵道を経て、静岡県浜松市の協会で保存されていました。

B11形B13号蓄電池機関車(関水本線ホームページより)
B11形B13号蓄電池機関車(関水本線ホームページより)
22号客車(関水本線ホームページより)
22号客車(関水本線ホームページより)

浜松市での保存時に、車体カラーがオリジナルでなくなっていますが、今後復元されるのか興味深いところ。なお、B13号機は動態保存される予定です。

丸瀬布いこいの森に保存されていた頃の532号機
丸瀬布いこいの森に保存されていた頃の532号機

5形532号機と31形33号車は、SL列車用だった車両。532号機は1928年にコッペル社(ドイツ)で製造されたSLです。台湾糖業公司(台糖)で働いていました。

西武山口線では1977〜1984年に活躍。引退後はユネスコ村駅跡で保存された後、1993年から北海道遠軽町(当時は丸瀬布町)の丸瀬布いこいの森で保存されていました。

33号車(関水本線ホームページより)
33号車(関水本線ホームページより)

33号車は元井笠鉄道(岡山県)ホハ10で、1972年に西武山口線入りしました。引退後はユネスコ村駅跡での保存を経て、西武園ゆうえんち内「レストランぽっぽ」で利用された後、千葉県成田ゆめ牧場内にある羅須地人鉄道協会に譲られていました。

西武山口線で活躍していた当時を知る40代後半以上の人にとっては、懐かしい車両たちが帰ってきます。

●イギリスをイメージした関水本線

動態保存されるSL「オリバー号」(関水本線ホームページより)
動態保存されるSL「オリバー号」(関水本線ホームページより)

西武山口線の車両の他にも、保存鉄道を運行するための車両が各地から集められます。目玉のひとつとなるのが、SL「オリバー(OLIVER)号」で、762mm軌間を走行します。

このSLの原型は、1948年にベルギーのアングロフランコベルジ社で製造され、台糖で使用されていた362号機です。362号機は、1986年に長野県の野辺山SLランドが購入し、1988〜2018年まで動態保存されていました。野辺山SLランドの閉園後、関水金属が購入。富山県の三越(さんえつ)でイギリス風のSLに改造し、「オリバー号」と名付けられました。

「オリバー号」が牽引する客車も野辺山SLランドから購入。関水本線らしいデザインの客車「ブルーノ(BRUNO)」「ニール(NELL)」に生まれ変わります。

野辺山SLランドで使用されていた客車(関水本線のホームページより)
野辺山SLランドで使用されていた客車(関水本線のホームページより)

この機関車は、関水本線で「ビリー(BILLY)号」として動態保存される予定です。

関水本線用に610mm軌間のSL「オスカー(OSCAR)も新造します。羅須地人鉄道協会が制作していて、2024年に完成を予定しています。2023年8月に開催した鉄道模型コンテストの会場で、その姿を披露しました。

鉄道模型コンテストの会場に展示された「オスカー」
鉄道模型コンテストの会場に展示された「オスカー」

ホームページでは、この他にも機関車、客車、貨車を保有する予定です。現在、鶴ヶ島市役所で保管されているSL363号機も、そのうちの1両だと思われます。

鶴ヶ島市役所で保管されているSL363号機
鶴ヶ島市役所で保管されているSL363号機

363号機は「オリバー号」の前身となる362号機と同じく、台糖公司で活躍したSLです。1980年代に千葉県の個人が購入。その後、野辺山SLランドで静態保存していました。野辺山SLランドの閉園後は、362号機とともに関水金属が購入しました。

関水本線には、ガーデンのメンテナンス用に使用する車両などもあるとの事。西武山口線を懐かしむも良し、イギリスの保存鉄道気分を味わうも良し、軽便鉄道の魅力を堪能するのも良いかもしれません。

KATO Railway Park・関水本線の完成は、2024年度を予定しています。一般公開と走行は、関水金属と鶴ヶ島市が連携して行うそうです。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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