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■国交省・道・JR北海道・JR貨物が合意
2030年度末に開業予定の、北海道新幹線の並行在来線のうち、函館本線・函館〜長万部間の貨物鉄道輸送を維持する事に、国土交通省と北海道、JR北海道、JR貨物の4社が合意したと報道されました。
並行在来線とは、整備新幹線と並行するJR在来線のことです。
整備新幹線は、全国新幹線整備法第7条に基づいて、政府が1973年11月13日に整備計画を決定した新幹線。北海道新幹線・東北新幹線・盛岡〜新青森間、・北陸新幹線、九州新幹線、西九州新幹線(路線名・駅名は開業後のもの)の5路線が整備新幹線となっています。
JR各社は整備新幹線が開業した際に、沿線自治体の同意が得られれば、並行在来線を経営分離して第三セクターへの転換や、廃止することができます。
もちろん、JR在来線として引き続き運行することもできますが、この判断が地域によって様々なのが興味深いところです。ここでは各地の並行在来線について見てみたいと思います。
北海道新幹線は2016年3月16日に新青森〜新函館北斗間が開業。2030年度末の新函館北斗〜札幌間開業により全線が開業する予定です。
北海道新幹線の並行在来線は、江差線・五稜郭〜木古内間と、函館本線・函館〜札幌間。青函トンネル区間で北海道新幹線と線路を共用する海峡線と、本州で北海道新幹線と並行しているJR東日本津軽線は、並行在来線とは見做されていません。
江差線は、第三セクター道南いさりび鉄道に経営分離されました。
北海道新幹線・新函館北斗〜札幌間の並行在来線については、地域で意見が大きく分かれました。北海道新幹線アクセス列車、「はこだてライナー」を運行している函館〜新函館北斗間については、第三セクターとして経営分離する見通しとなっています。
大泉潤 函館市長(俳優の大泉洋の兄)は、函館〜新函館北斗間に北海道新幹線を直通させるための調査を2023年度に実施して、2024年3月末に調査結果を公表する予定です。
一方、新函館北斗〜長万部間は、沿線自治体が第三セクターによる旅客営業は困難との判断を示しています。
しかし、この区間は本州と北海道の物流の大動脈です。JR貨物は、この区間の貨物輸送が分断された場合、全てのコンテナ輸送量の1/4に当たる、年間約413万tが消失すると主張しています。
とは言え、JR貨物が単独で路線を維持するのは困難。
そこで斎藤鉄夫国土交通大臣は、2022年9月に国土交通省、北海道、JR北海道、JR貨物の4社で協議することを発表。11月から協議を行い、貨物輸送を維持した場合と、船舶で代替輸送した場合のメリットと課題を協議した結果、貨物路線としての維持の合意に至りました。
今後は、線路など施設維持管理費の負担のあり方や、人員確保などの課題を解決するため、年内に有識者会議を立ち上げるそうです。
その一方で、長万部〜札幌間の貨物列車は、平坦区間の室蘭本線・千歳線経由で運行していて、山岳路線の函館本線を通過していません。そのため、特に利用客が少ない長万部〜小樽間については、2022年に沿線自治体がバス転換することで合意しました。
小樽〜札幌間は札幌の通勤圏内にあることから経営分離されず、JR北海道が引き続き運行します。
このように、北海道新幹線並行在来線は、第三セクター経営分離、貨物線化、廃止、JR路線として維持という形に分かれることになりそうです。
●東北新幹線は完全経営分離
そのほかの新幹線も見てみましょう。
東北新幹線は、東京〜盛岡間が既設新幹線、盛岡〜新青森間が整備新幹線と性格が分かれていて、並行在来線は東北本線盛岡〜青森間が該当します。
整備新幹線区間のうち、盛岡〜八戸間は2002年12月1日に開業。並行在来線のうち、岩手県側の盛岡〜目時間がIGRいわて銀河鉄道、青森県側の目時〜八戸間が青い森鉄道として経営分離されました。2010年12月4日の東北新幹線・八戸〜新青森間の開業で、東北本線・八戸〜青森間も青い森鉄道に経営分離されています。
鉄道は県境で分離していますが、列車は両社を直通していて利便性は保たれています。なお、青い森鉄道は列車を運行する第三種鉄道事業者で、線路設備は青森県が第二種鉄道事業者として保有する上下分離方式を、第三セクター鉄道で初めて採用しました。
●JR東日本は細切れ、JR西日本は完全分離の北陸新幹線
北陸新幹線は、1997年10月1日に高崎〜長野間、2015年3月14日に長野〜金沢間が開業しました。2023年度末には、金沢〜敦賀間が開業する予定です。残る敦賀〜新大阪間については、2016年にJR西日本が小浜・京都ルートを採用。現時点では、2046年度の開業を想定しています。
北陸新幹線・高崎〜敦賀間の並行在来線は、JR東日本信越本線・高崎〜直江津間と、JR西日本北陸本線・直江津〜敦賀間です。なお、敦賀〜新大阪間については、JR西日本湖西線が並行在来線となる見込みです。
JR東日本管内では、信越本線・高崎〜横川間を経営分離していません。一方、碓氷峠で有名な横川〜軽井沢間は廃止して、JRバスに転換。これが、並行在来線で廃止された最初の例となりました。
高崎〜横川間は、横川〜軽井沢間が廃止されたことで盲腸線となり、北陸新幹線と連絡する駅もないので、経営分離されなかったのは妥当だと言えます。
信越本線の長野県側のうち、軽井沢〜篠ノ井間、長野〜妙高高原間は、第三セクターのしなの鉄道に経営分離しました。しかし、篠ノ井〜長野間は経営分離せずに、引き続き信越本線として運行しています。
長野には、JR東日本の工場と、車両基地である長野総合車両センターがあり、JR東日本は経営分離しない方が得策だと考えたと思われます。
信越本線の新潟側となる妙高高原〜直江津間は、えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインに経営分離しました。
えちごトキめき鉄道妙高はねうまラインと、しなの鉄道は、列車も分離していますが、イベント列車などで直通運転する事があります。
北陸本線・金沢〜直江津間のうち、石川県内の金沢〜倶利伽羅間はIRいしかわ鉄道、富山県内の倶利伽羅〜市振間はあいの風とやま鉄道、新潟県内の市振〜直江津間はえちごトキめき鉄道日本海ひすいラインにそれぞれ経営分離しています。
石川県・富山県間については、IRいしかわ鉄道と、あいの風とやま鉄道が互いに直通運転をしています。一方、富山県・新潟県間については、あいの風とやま鉄道は泊駅折り返しを基本として、一部がえちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの糸魚川駅まで直通。えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインは、あいの風とやま鉄道泊駅まで直通しています。
2023年度末に経営分離される敦賀〜金沢間については、福井県内の敦賀〜大聖寺間がハピラインふくいに、石川県内の大聖寺〜金沢間は、IRいしかわ鉄道に経営分離されることになっています。
●実はあまり経理分離していないJR九州
九州新幹線は、2004年3月13日に新八代〜鹿児島中央間が開業。2011年3月12日に博多〜新八代間が開業して全通しました。並行在来線となる鹿児島本線・博多〜鹿児島中央間のうち、経営分離したのは肥薩おれんじ鉄道八代〜川内間だけです。
肥薩おれんじ鉄道は、熊本県・鹿児島県が出資していて、県境に関係なく運行しています。
一方、特急街道である博多〜鳥栖間、および福岡、熊本、鹿児島の通勤圏内は、JR路線として維持しています。
2022年9月23日に武雄温泉〜長崎間が開業した西九州新幹線の並行在来線は、長崎本線・江北〜長崎間です。
このうち江北〜諫早間は、線路設備を佐賀県・長崎県が第三種鉄道事業者として保有して、JR九州が第二種鉄道事業者として運行する、上下分離方式を導入しました。そのため、利用者にとってはJR九州の路線のままとなっています。この上下分離は2045年度まで維持する予定です。
諫早〜長崎間は経営分離・上下分離をしていません。また、新大村〜諫早間で並行する大村線は並行在来線となっていません。
同じ並行在来線でも、新幹線開業後の処遇がいろいろあることが分かったと思います。
現在、整備新幹線で未着工なのは、北陸新幹線・敦賀〜新大阪間と、西九州新幹線・新鳥栖〜武雄温泉間だけとなりました、今後、これらの並行在来線がどうなるのかにも注目です。
(ぬまっち)