世界で最もパワフルな乗用車用燃料電池システムを搭載した「BMW iX5 Hydrogen」の公道実証実験を日本でも開始

■0-100km/h加速は6秒以下、一充電あたり約500kmの走行が可能

2023年7月25日、BMWは日本で燃料電池車の実証実験を開始すると発表しました。BMWとトヨタは、2013年に燃料電池(FC)システムの共同開発、スポーツカーの共同開発、軽量化技術の共同研究開発で協業に関する正式契約を締結しています。

BMWグループ水素燃料電池車テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏とBMW iX5 Hydrogen・プロダクトマネージャーのロバート・ハラス氏
BMWグループ水素燃料電池車テクノロジー・プロジェクト本部長のユルゲン・グルドナー氏(右奥)とBMW iX5 Hydrogen・プロダクトマネージャーのロバート・ハラス氏

それ以降、BMWは個々の燃料電池をトヨタから調達しつつ、燃料電池車駆動システムを共同開発しています。なお、スポーツカーの共同開発では、BMW Z4/トヨタ・スープラで実を結んでいるのはご存じのとおり。BMWとトヨタは、10年にわたって協力関係にあり、トヨタはすでに2代目になったMIRAIを世に送り出しています。

「BMW iX5 Hydrogen」のエクステリア
「BMW iX5 Hydrogen」のエクステリア

燃料電池車(FCV/FCEV)というと、日本では水素インフラの整備が想定よりも進まず、普及を妨げているという指摘があります。

確かに、ガソリンスタンドやEVの充電器などと比べると、圧倒的に見かける機会が少なく、しかも大都市に集中しています。

FCCJ(燃料電池実用化推進協議会)のホームページによると、北東北や山陰、四国、九州の一部地域は、水素ステーションがまったくない空白地帯になっていて、すでに開設されている県でも1〜2ヵ所のみというケースも少なくありません。

「BMW iX5 Hydrogen」のリヤビュー
「BMW iX5 Hydrogen」のリヤビュー

一方のヨーロッパはどうでしょうか。EVの充電スタンドの例からも分かるように、EUはインフラ整備に着手すると一気呵成に進んでいく印象があります。

BMWの資料によると、EUは2030年末までにすべての都市ノート(結節点)に、200km間隔で水素ステーションを建設するそうで、これには乗用車用の700bar(70MPa)も含まれていて、合計600ヵ所以上の水素ステーション整備が見込まれているとのこと。

燃料電池車は、大型トラックなどの大型商用車に向いているため、トヨタなど各メーカーも注力しています。乗用の燃料電池車は、MIRAIなどモデル数も少なく、先述したように水素ステーションの整備が追いついていないことなどもあり、想定よりも普及していません。

しかし、日産がリーフを擁してEVで先行するも、テスラや中国勢に追い抜かれた例も考えると、乗用の燃料電池車は普及しない、と断言するのは早計かもしれません。BMWが量産化を見据えているように、FCEVの乗用車も新たな選択肢(現実的に)になるかもしれません。

「BMW iX5 Hydrogen」の水素充電口
「BMW iX5 Hydrogen」の水素充電口

BMWはトヨタとの共同開発もあり、2006年の「BMW Hydrogen7」以降、2013年のBMW初のFCEVや2015年の「BMW 5シリーズGT」、そして今回、日本で披露された「BMW iX5 Hydrogen」と、着実に量産化に向けて歩みを進めています。

「BMW iX5 Hydrogen」はBMW X5がベースで、2019年のIAAショーでコンセプトカーとして初公開されました。BMWは、将来、ローカルでのゼロエミッションとして個人向けの新たな選択肢として、水素燃料電池技術の開発を計画的に推進していると表明済み。

「BMW iX5 Hydrogen」の燃料電池
「BMW iX5 Hydrogen」の燃料電池

BMWは、パイロット車両用の高効率燃料電池システムを、ミュンヘンにある自社水素コンピテンスセンターで製造しています。同技術は、「BMW iX5 Hydrogen」の中核要素のひとつで、125kW (170hp) という高い連続出力を発生。燃料電池の内部では、タンクから出る気体水素と、空気中の酸素が化学反応を起こします。

この2つの元素を、燃料電池の膜に安定して供給することが、駆動システムの効率維持においてとても重要だそうです。チャージエアクーラー、エアフィルター、コントロールユニット、センサーなど、内燃機関にみられるものと同等技術を備え、新しい燃料電池システム用に特別な水素コンポーネントを開発。タービン付き高速コンプレッサーや高圧クーラントポンプなどがその一例です。

燃料電池システム
燃料電池システム

また、リヤアクセルに搭載された第5世代の「BMW eDrive テクノロジー(電気モーター、トランスミッション、パワーエレクトロニクスをコンパクトなハウジングにまとめたもの)」が採用された高集積ドライブユニット、特別開発されたリチウムイオンバッテリーを組み合わせにより、最高出力295kW (401hp) を実現しています。

もちろん、コースティングやブレーキング時には、モーターが発電機として機能し、回生されたエネルギーはパワーバッテリーに供給されます。

4年間の大規模テストを終えている
4年間の大規模テストを終えている

「BMW iX5 Hydrogen」は、すでに4年間の大規模なテストを終了させ、日本でも公道での実証実験を行うことで、生産車への開発に反映させたいとしています。

なお、「BMW iX5 Hydrogen」は、空の状態から約3分程度の水素の充填で、約500kmの走行が可能になるそう。先述したように、水素ステーションを着実に整備する予定のEUであれば、実用的な選択肢になりえそう。なお、トヨタMIRAIの一充電走行距離(日本仕様の参考値)は、約750〜850km。

「BMW iX5 Hydrogen」は、電力燃料電池が125kW(170hp)、駆動システム全体の合計出力295kWは(401hp)、水素タンク容量約6kg、最高速約185km/h、0-100km/h加速は6秒以下というスペックが明らかにされています。車両重量は同等のPHEVとほぼ同じであり、BEV(バッテリーEV)より軽いとのこと。動力性能からも分かるように、かなりの俊足ぶりであることがうかがえます。

「BMW iX5 Hydrogen」のインパネ
「BMW iX5 Hydrogen」のインパネ

また、パッケージは、ラゲッジスペースもキャビンもほとんど犠牲になっていない印象で、前後席ともに車外から見ると、床が持ち上がっているように感じられましたが、前後席に座ってみると十分なヒール段差が確保されていました。また、荷室下にもサブトランクが備わっています。

日本での公道を使った実証実験は、同日から日本各地で2023年年末まで行われます。

様々なデータを取得するとともに、官公庁や行政機関、大学を訪問し、各方面の専門家の視点から製品に対するフィードバックを得て、それらすべてをドイツにあるBMWグループ本社に送り、製品開発に役立てる構えです。

「BMW iX5 Hydrogen」の後席
「BMW iX5 Hydrogen」の後席

(文・写真:塚田 勝弘)

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塚田勝弘

1997年3月 ステーションワゴン誌『アクティブビークル』、ミニバン専門誌『ミニバンFREX』の各編集部で編集に携わる。主にワゴン、ミニバン、SUVなどの新車記事を担当。2003年1月『ゲットナビ』編集部の乗り物記事担当。
車、カー用品、自転車などを担当。2005年4月独立し、フリーライター、エディターとして活動中。一般誌、自動車誌、WEB媒体などでミニバン、SUVの新車記事、ミニバンやSUVを使った「楽しみ方の提案」などの取材、執筆、編集を行っている。
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