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■縁石乗り上げやクルマとの衝突時の被害を検証
街などの気軽な移動手段として人気の、電動キックボード。
2023年7月1日からは、改正道路交通法が施行されたことで、新しく「特定小型原動機付自転車(以下、特定小型原付)」という車両区分が追加。一定の条件を満たしたモデルについては、16歳以上であれば運転免許が不用になったり、ヘルメットの着用が任意(努力義務)となることで話題となっています。
特定小型原付に対応しているモデルであれば、より手軽に乗れるようになったワケですが、一方で事故の増加なども懸念されています。
特にヘルメットが任意である点については「走行中に被らない人も多い」ことが予想され、万が一の際に重大な事態を招く危険性があることも指摘されています。
そんな中、ロードサービスを手掛けるJAF(日本自動車連盟)では、ダミー人形と特定小型原付の電動キックボードを使い、衝突した際の頭部にかかる衝撃について実験を実施。
その結果、ヘルメットなしの場合は頭部のダメージが約6.3倍になるケースもあることが判明しました。
●縁石に乗り上げて転倒した際の危険性
実験ではまず、ダミー人形を乗せた電動キックボードをレールに乗せ、特定小型原付の最高速度である20km/hでけん引。高さ10cmの縁石に衝突させ転倒した際のHIC値(頭部損傷値)を計測しています。
HIC値とは、JAFによれば「Head Injury Criterion」の略で、衝突や落下などの衝撃による、脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値のこと。
交通事故におけるケガのリスクに詳しい名古屋大学・水野教授によると「HIC1000を超えると脳傷害の可能性があり、HIC3000を超えると非常に高い確率で重篤な傷害が発生する」といいます。
実験では、ヘルメット着用時とヘルメット非着用時の両方を実施。いずれの場合も電動キックボードが縁石に衝突し乗り上げた後、運転者(ダミー人形)は前方へ転倒。頭部を地面に叩きつけられています。そして、その際のHIC値は以下の通りです。
ヘルメット着用のHIC値:1231.8
ヘルメット非着用のHIC値:7766.2
結果をみると、ヘルメットを着用している場合でもHIC値が1000を超えており、頭蓋骨骨折のリスクがあるほどの衝撃だったことが分かります。
一方、ヘルメット非着用の場合、HIC値は7766.2となり、ヘルメット着用時の約6.3倍に。重篤な頭部損傷になるリスクや死亡するリスクがより高い結果となっています。
●自動車に衝突した際の危険性
次に実験では、ダミー人形を乗せた電動キックボードを20km/hでけん引し、静止しているクルマに衝突させた場合の危険性を検証しています。
このケースでも、ヘルメット着用時とヘルメット非着用時の両方を実施。いずれの場合も電動キックボードの運転者(ダミー人形)がクルマに衝突した際(一次衝突)と、転倒して頭部を地面に叩きつけられた際(二次衝突)のHIC値を計測しており、以下のような数値が出ています。
ヘルメット着用のHIC値:一次衝突19.7/二次衝突147.9
ヘルメット非着用のHIC値:一次衝突12.8/二次衝突6346.3
一次衝突(クルマとの衝突)時では、電動キックボードのメインフレームや人(ダミー人形)の腕が先にクルマとぶつかったことで、HIC値は低い結果になったそうです。そして、これはヘルメット着用と非着用ではあまり差がなかったようです。
ところが、運転者(ダミー人形)が転倒し地面に頭部をぶつけた二次衝突では、ヘルメット着用と非着用では明らかに数値が違い、ヘルメット非着用時では6346.3ものHIC値に。非常に高い数値となったことで頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクも高いことが予想されます。
ちなみに今回の実験では、電動キックボードやダミー人形の腕が先にぶつかっていましたが、運転者の頭部が直接クルマへ衝突することも想定できます。
そのため、JAFでは、フロントガラスにダミー人形の頭部(4.5kg)を高さ1.6mの位置から落とし、20km/hでフロントガラスに直接頭部をぶつけた場合の衝撃を再現しています。
結果は、フロントガラスがクモの巣状にヒビが広がって割れるほどに。この場合も、電動キックボードの運転者が頭部に受ける衝撃は強く、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高いことが予想されるといいます。
●歩行者との衝突では自分より相手に被害が大きい結果に
以上の結果から、JAFでは「走行中に転倒して地面に頭を打ち付けた場合、重篤な頭部傷害や死亡事故につながるため、頭部を保護するヘルメットはとても重要な役割がある」と結論付けています。確かに、これら実験を見ればヘルメットを被る必要性を十分感じられますよね。
なお、今回JAFではほかにも、電動キックボードと歩行者が衝突した際に、運転者と歩行者それぞれの頭部へのダメージなどについても実験を実施。
このケースでは、衝突後に運転者のダミー人形が前方へ倒れ頭部前方を、押された歩行者のダミー人形は後方へ倒れ後頭部を、それぞれ地面に打ち付けています。
特にダメージが大きかったのが歩行者のダミー人形。HIC値は基準の約4〜7倍の数値となり、頭蓋骨骨折や脳損傷、死亡のリスクが高い結果となっています。
特に、今回の法改正では電動キックボードの最高速度をモーターの制御などで6km/h以下に制限すれば、同じく新規導入された「特例特定小型原付(正式には特例特定小型原動機付自転車)」にクラスチェンジでき、その場合は歩道や路側帯を走行することもできます(自転車走行可の道路に限る)。
そう考えると、電動キックボードを運転する際は、ヘルメット着用はもちろんですが、ひとりひとりが交通ルールやマナーを守り、歩行者などにも注意し、思いやりの心をもった運転を心がけることも重要だといえますね。
今回の実験は、JAFの公式YouTubeチャンネル「JAF Channel」などでも観ることができます。
(文:平塚直樹)
●電動キックボードの衝突実験【JAFユーザーテスト】
【関連リンク】
JAF Channel(JAF公式YouTubeチャンネル)
https://www.youtube.com/channel/UClAnCtIhb0jI8ZfnOoINHaA