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■解体理由はPCBの特別措置法
2023年6月7日(水)付けの北海道新聞によると、小樽市総合博物館に保存されている電気機関車ED75形501号機とED76形509号機が解体されると報じられています。
解体される理由は「PCBを含有している」から。PCB(Poly Chlorinated Biphenyl=ポリ塩化ビフェニル)は人工的に製造された、主に油状の化学物質です。水に溶けにくくて沸点が高く、熱で分解しにくいほか、不燃性、電気絶縁性が高いという特徴があります。
しかし、吹出物や色素沈着、目やに、全身倦怠感、しびれ感、食欲不振など、人体に影響を与える毒性が明らかになったため、1972年にPCBの製造・輸入が禁止されました。
鉄道車両のPCB使用例として代表的なのは、主変圧器の冷却油。主変圧器は交流車両・交直流車両に必ず搭載されている機器で、架線から集電した交流電流をモーターの制御に適した電圧に降圧するために使用します。ED75 501、ED76 501はいずれも交流電気機関車で、車内には主変圧器を搭載しています。
ED75 501は1966年、ED76 509は1968年に製造された機関車で、新造時にPCBを使用した主変圧器が搭載されました。PCB製造禁止以降、主変圧器の冷却油にはシリコンを使用するようになり、PCB使用車両についても順次シリコン油に交換しました。
しかし、シリコンに交換する前に廃車となった車両も多く、また、PCBのまま2000年代まで使用されていた機関車も存在しました。
現在、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適切な処理に関する特別措置法により、2027年3月までにPCB廃棄物を適切に処理することが義務づけられていますが、車体を解体せずに処理するのが難しいようですが、解体されるというのは非常に残念でなりません。
●北海道の電化に貢献した電気機関車
ED75 501は、函館本線・小樽〜旭川間の電化に備えて1966年に試作されました。標準仕様のED75形は、モーターの電圧制御にタップ切換器、交流を直流へ変換するのに磁気増幅器を使用していました。しかし、501号機は北海道特有のパウダースノーの進入による故障を未然に防ぐため、それら全てに半導体を使用した、完全非接触型の全サイリスタ制御としたのが大きな特徴でした。
試験の結果、サイリスタが発する高周波による誘導障害が大きかったため、全サイリスタ制御の量産化は見送られました。
ED76形500番代は北海道向け量産型電気機関車で1968〜1969年に22両が製造されました。ED76 509はこの22両のうちの1両です。
ED75 501の試験結果を反映させて、タップ切換器とサイリスタ位相制御を組み合わせて高周波を抑えました。形式がED75形からED76形に変わったのは、当時、北海道の客車が使用していた、蒸気暖房装置用の蒸気発生装置を搭載したため。同じく蒸気発生装置を搭載していた、九州向けの交流電気機関車ED76形に形式を合わせました。
量産はされませんでしたが、ED75 501は全サイリスタ制御の先駆けとなった機関車で、技術的には重要な存在であり、長らく保存されてきました。ED76形500番代は、小樽〜旭川間の客車列車・貨物列車の牽引で活躍。JR北海道に承継された後も旅客列車の牽引に使用されていましたが、ローカル列車の電車化と夜行急行の気動車化により活躍の場を失いました。
●現金輸送車も保存されている小樽市総合博物館
残念なニュースが報じられた小樽市総合博物館ですが、実はけっこう貴重な車両が保存されています。
小樽市総合博物館は、北海道の鉄道発祥の地である手宮にあり、旧手宮機関庫は国の重要文化財となっています。また、北海道最初のSLのうちの1両であるしづか号や、現存する最古の国産SLである大勝号を始め、北海道で活躍した貴重な車両が多数保存されています。
変わったところでは、現金輸送車のマニ30形が保存されています。現金輸送車はセキュリティの観点から、現役時代は存在が秘匿されていた幻の車両。
ただし、一部の文献で触れられていることがあり、秘匿は完全ではなかった模様。保存されているマニ30 2012は二世代目の車両で、1978〜1979年に製造された6両(マニ30 2007〜2012)のうちの1両です。
鉄道での現金輸送は2003年に廃止され、マニ30 2007〜2012は2004年までに廃車されました。マニ30 2012は2004年から小樽市総合博物館で保存されていて、車内も公開されています。
このほか、ローテーションで希少な自動車も保存されています。ED75形、ED76形の解体は8月までに実施されるとのこと。この機会に、小樽市総合博物館に足を運んでみるのはいかがでしょう。
(ぬまっち)