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■軽EVが1年間で5万台も生産される市場の未来
先日、「『日産サクラ』と『eK クロス EV』、生産累計5万台を達成」という発表がありました。2022年にスマッシュヒットを放った軽EVは確実に売れ続けています。
現時点では補助金頼りという印象もあるかもしれませんが、EVの量産については三菱や日産といった国産メーカーが先行していながら、市場はEVを受け入れないというムードだった日本において、まさにEV新時代が始まったといえそうです。
もっとも日本市場でEVが嫌われていたのは、EVで先行しすぎたゆえかもしれません。
初期の三菱アイミーブや日産リーフといったモデルについては、バッテリーの劣化が進むこと、それが完全には視覚化されないことで耐久性を心配する声を生んでいた面があります。
結果として、必要以上にEVのリセールバリューが悪くなり、高価なEVはそうそうに価値がなくなるという悪いイメージが広まっていったきらいもあります。
●中古EVのリセールバリュー最大のネガはバッテリー
たしかにメーカー直系のディーラーにいけば、EVの駆動用リチウムイオンバッテリーのコンディションを計測することは可能です。
しかし、すべての買取業者が計測できるかといえば、そうではありません。EVを下取りに出して、他ブランドの新車を買う際にも、自社で扱っていないEVのバッテリーコンディションを正確に把握して下取り価格を判断することは難しい状況にあります。
バッテリーの残存性能について疑心暗鬼とならざる得ない状況により、EVのリセールバリューは低空飛行を続けているともいえます。
前述したように軽EVが年間1万台のペースで売れていくとなると、数年後には万単位の中古EVが流通することになります。その際に、相変わらずバッテリーの状態を見ることができず、内外装のやれ具合やメーター表示を元にコンディションを判断しているようではEVのリセールバリューが上がっていくことはないでしょう。
そこで重要なのが、誰もが使えて正確にバッテリーのコンディションを計測できる機器です。
先日、パシフィコ横浜にて開催された「人とくるまのテクノロジー展 YOKOHAMA」(主催:公益社団法人 自動車技術会)では、そうしたシチュエーションで役立つツールを見つけることができました。
明電舎と日置電機が共同開発しているEVバッテリーテスターは、急速充電口につないでバッテリーの物理特性を簡単に計測できるというもの。
ハンディタイプとなっているのは、整備シーンのほか中古車オークション会場などでも使いやすいサイズを意識しているため。現時点ではプロトタイプで、EVごとの性能劣化を判断するには情報が足りない部分もありますが、中古車の流通にかかわるシーンを考えたテスターというのはEVのリセールバリューをフェアに判断できる環境を生み出しそうです。
●すべての査定士が診断システムを持てば解決するかも
さらにコンパクトに仕上がっていたのが、HKSと東洋システムが共同開発している「EVバッテリー残存性能診断システム」です。
こちらはHKSが従来から用意しているOB-LINK(OBD2コネクタにつないで車両情報を吸い出す装置)と専用アプリをインストールしたスマートフォンやタブレットを使うというシステム。バッテリーを急速充電する必要はありますが、わずか30秒でバッテリーのコンディションがアプリ上で確認できるというものです。
写真でもわかるように残存容量率が表示されますので、バッテリーの劣化具合を数値で判断することができます。
OB-LINKとスマートフォンがあれば成立しますので、ユーザーのところに赴いて中古車の査定をするような業務においても使いやすいのが、このシステムの特徴です。
EVのバッテリーというのは同じ車種で同じ走行距離であっても、急速充電を多用したのか、普通充電メインで使ってきたのかによって劣化が変わってくるといわれています。こうしてバッテリーの状態が数値として把握できるようになれば、コンディションのいいEVのリセールバリューが正しく判断される未来がやってくるかもしれません。
同時に、ユーザー側にもバッテリーの劣化を抑えるような使い方が求められる時代になるかもしれません。