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■液体水素はロケット燃料
5月26日(金)~28日(日)、富士スピードウェイで開催されたENEOSスーパー耐久シリーズ2023 第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース。
昨年来、スーパー耐久と言えば必ず思い浮かべるくらい注目を集めているのが、水素カローラ「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」。
その水素カローラが2023シーズンでは大進化を遂げて、この第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レースから走り出しました。
なにが大進化かと言えば、燃料の水素をこれまでの70Mpa高圧”気体”水素から”液体”水素に変更したこと。この液体水素を使ったマシンがレースに参戦することは、世界で初めての出来事なのです。
液体水素は、一言で言えばロケットの燃料です。あの、国産ロケットの代表格であるH-IIロケットの燃料も液体水素です。ロケットの場合は宇宙空間に酸素が無いので液体酸素も積んでいますが、水素カローラの場合は地球上に豊富にある酸素を使って水素を燃焼させますので、液体酸素は必要ありません。
水素カローラが液体水素を使うメリットは一言で言えば航続距離の延長。液体水素が持つエネルギー密度の高さによるもので、液体水素は70Mpa高圧気体水素の約2倍のエネルギー密度があり、タンクの容量が同じであれば航続距離も2倍となります。
今年の液体水素仕様では、1回の充てんで15周・約70kmを走行できることとなります。
また70Mpa高圧気体水素では、水素充填の際に高圧圧縮が必要であったため、水素タンクローリーの他に昇圧装置を設けたトラックも必要で、その設備面積は広大となりピットでの水素充填は不可能となっていました。
これまでの気体水素タンクローリー複数台が必要であった容量を、液体水素システムでは水素タンクローリーが1台で賄うことができ、また昇圧装置も必要ないことから、設備面積が前年比で1/4から1/5と非常にコンパクトとなりました。それにより、念願のピット内充填が可能となりました。
●液体水素のデメリット克服はこれからの課題
液体水素のデメリットはー253度という極低温でなければ液化しないというところで、温度管理はかなり厳しいものと言えそうです。
パートナー企業の一つである川崎重工が、液体水素専用船でオーストラリアから極低温で運び、こちらもパートナー企業の一つである岩谷産業がこのレースのために液体水素充填のシステムを新開発。作る、運ぶという、マシンへの充填までの温度管理の面は、確実にサポートされているとのこと。
マシン側では、この液体水素を気化してエンジンに送り込むわけですが、極低温のため燃料ポンプがもたないという懸念があり、レース中にポンプを2回交換するということになっています。
これに要する時間は1回目が4時間、2回目は3時間と、かなりの時間を擁してしまうこととなり、航続距離が伸びた分をスポイルする形となってしまっています。
これを克服するために、様々な大学の研究機関と共同で超電導技術を使ったモーター駆動による燃料ポンプの開発をスタートさせています。この超電導も極低温だからこそ使える技術、ということで共同研究を始めたとのこと。
●MORIZO選手こと豊田章男会長もドライブした水素カローラが世界を動かす
極低温の-253度や超伝導の可能性を模索など、もはやSF映画の領域ではないかと思われる水素カローラ「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」。ドライバーにはMORIZO選手ことトヨタ自動車新会長の豊田章男さんや、TOYOTA GAZOO Racing ワールドラリーチームのヤリ=マティ・ラトバラ代表も名を連ねます。
そんなSFみたいな内容を、GRカローラに詰め込んだ水素カローラは、2021年から地道に活動を続け、「意志ある情熱」という言葉の広がりとともにパートナーを増やしていきました。
そして今年2023年、液体水素を使っての新たなステップに臨んでいきますが、この開発の目的は「カーボンニュートラルの選択肢を狭めない」というもので、水素エンジンは日本がこれまで培ってきた内燃機関の技術を、絶やすことなく継承できるカーボンニュートラルへ向けた選択肢となっていきます。
そんな水素カローラの情熱は世界を動かしているとも言え、来賓としてこの富士SUPER TEC 24時間レースに訪れていたル・マン24時間レースのオーガナイザー、ACO(フランス西部自動車クラブ)の会長であるピエール・フィヨンさんは、「ル・マン24時間レースの水素クラスへの参戦を希望するメーカーには、燃料電池と水素内燃機関の両方の技術を認め、導入することをここに公式に発表いたします」と、5月27日(土)に行われた記者会見で発表。導入の時期は2026年と明言されました。これはかなりの驚きとともに、世界中で報じられました。
世界最高峰の24時間レースであるル・マン24時間レースを動かした水素カローラーとスーパー耐久富士SUPER TEC 24時間レース。
ル・マンが動いたということは、ヨーロッパのメーカーも水素エンジンへ参入してくる可能性は高くなることが予想されます。まさに、世界を動かしたと言っても過言ではないでしょう。
●液体水素カローラのレーシングマシンとしての実力は?
液体水素カローラ「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」の予選ベストタイムは2分2秒567で、これはNDロードスターやデミオのST-5クラスよりも速く、GR86のST-4クラスよりも少し遅いというタイム。出力的には概ね270馬力程度と言われていますが、重量は水素タンクやその保護カバー、試験装置、センサー類などにより、ST-4クラスマシンよりかなり重いとのこと。
これが決勝となってもタイムがほとんど変わることなく推移しており、レースとなった場合は、ST-4クラスの中ではバトルに加わることは無くても、後方からワンチャンスが狙える位置につけることが可能と言えます。
実際のところは、水素充填の頻度やポンプ交換に要した時間などがあるので、そこを含めると争いになることはありませんが、走っているときのアグレッシブな姿はかなり印象的と言えます。
富士SUPER TEC 24時間レースではナイトセッションがあり、そこでも一切、手を緩めることなく果敢に攻めていきます。
経済誌やNHKのニュースにも取り上げられることの多い水素カローラですが、そのTV画面や紙誌面に、縁石に乗り上げてコーナーを攻めていく水素カローラの姿があります。研究開発車両だからといってゆっくり走っているわけではなく、しっかりとレーシングスピードで走っているからこそ、水素カローラは注目を浴びているのです。
今回の富士SUPER TEC 24時間レースでは、海外のメディアも非常に多く、また海外の技術者も数多く訪れていました。やはり、世界初の液体水素エンジンレーシングマシンによる参戦は、世界に大注目されているのです。
燃料ポンプ交換などで長時間の作業が行われたとはいえ、アクシデントも無く、外観はスタート時のまま完走を果たした液体水素カローラ「ORC ROOKIE GR Corolla H2 concept」。
ピットロードを逆走しパルクフェルメに向かう液体水素カローラの窓から、フィニッシュドライバーのMORIZO選手が手を出し、ピットロードで迎える他のチームのスタッフなどへ24時間をともに戦い抜いた証としてタッチをしていく姿は、富士SUPER TEC 24時間レースの名物となっています。
「意志ある情熱」を掲げ、もっといいクルマを作るということを推し進め、水素エンジンで世界を動かした水素カローラ。今シーズンの残り5戦で、もっともっと進化をした姿が目の前に現れることを期待して止みません。
(写真・文:松永 和浩)
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《S耐TV・富士24時間 #1》ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 第2戦 NAPAC 富士SUPER TEC 24時間レース決勝
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スーパー耐久シリーズ2023でのグリーン電力導入について
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