2023年のブルーリボン賞、ローレル賞の受賞車両が発表。ブルーリボン賞はJR東海のHC85系、ローレル賞は京都市交通局20系が受賞

■ブルーリボン賞はハイブリッド車が初めて受賞

全国規模の鉄道愛好団体である「鉄道友の会」は、2023年のブルーリボン賞、ローレル賞の受賞車両を発表。ブルーリボン賞はJR東海のハイブリッド特急車両HC85系、ローレル賞は京都市交通局20系が受賞しました。

ブルーリボン賞を受賞したJR東海HC85系
ブルーリボン賞を受賞したJR東海HC85系

ブルーリボン賞、ローレル賞は、我が国の鉄道車両の進歩発展に寄与することを目的に、鉄道友の会が毎年1回選定しています。選定の候補となる車両は、前年に日本国内で正式に営業運転を開始した新造車両または改造車両となっていて、2023年は13形式がノミネートされました。

ブルーリボン賞は鉄道友の会の会員の投票結果に基づき、選考委員会が審議して最優秀と認めた車両を選定しています。

今年のブルーリボン賞を受賞したHC85系は、ハイブリッド車両としては国内最速の120km/h運転が可能という高い動力性能を誇る一方、搭載エンジンをキハ85系気動車より半減させて燃費の向上、環境負荷の車両内外の騒音の低減を図りました。

加えて二段の防振ゴムを介してエンジンを搭載することで、振動を大幅に抑えて客室環境を改善しています。また、台車は溶接部分を減らして信頼性とメンテナンス性を向上させました。

左からHC85系のディーゼルエンジン・発電機・蓄電池・走行用モーター
左からHC85系のディーゼルエンジン・発電機・蓄電池・走行用モーター
信頼性とメンテナンス性を向上させたHC85系の台車
信頼性とメンテナンス性を向上させたHC85系の台車

エンジンなどの主要機器は常時監視され、不具合の予兆を早期に把握すると共に、車両メンテナンスにも貢献します。

客室についても、座席の改良に加えて全座席へのコンセントの設置や車内Wi-Fiサービスの実施、大型荷物対応スペースの設置、バリアフリー設備を充実させたほか、車内防犯カメラは乗務員だけでなく、指令所からもリアルタイムで確認することができるなど、セキュリティ面も向上しました。

HC85系グリーン車の車内
HC85系グリーン車の車内
HC85系普通車の車内
HC85系普通車の車内
HC85系普通車の車椅子スペース
HC85系普通車の車椅子スペース


会員による投票では、HC85系は最多の支持を獲得。選考委員会も、多くの観点からブルーリボン賞に相応しい優秀な車両であると評価しました。

●ローレル賞は京都市営地下鉄烏丸線の新型車

ローレル賞は、会員の投票結果を参考にして、選考委員会が審議の上、優秀と認めた車両を選定しています。今年受賞したのは、京都市交通局地下鉄烏丸線用新型車両の20系です。

ローレル賞を受賞した京都市交20系
ローレル賞を受賞した京都市交20系

20系の開発にあたって京都市交通局は、工業デザインの専門家や公募の市民をメンバーとした、烏丸線車両の新造にかかるデザイン懇談会を設置。「みんなにやさしい地下鉄に」「京都ならではの地下鉄に」「愛着がわく地下鉄に」をコンセプトとして、内外装のデザインを各3案制作。市民と利用者の投票によって最終案を決定しました。

外観は、「前面の造形に曲面を多用した、より近未来的なイメージ」とし、素材にモノアロイを多用してリサイクルに配慮しました。VVVFインバータ制御装置はハイブリッドSiCを採用し、全閉式電動機を使用するなど、地球環境に配慮した最新水準の車輌技術を用いました。

内装は「華やかで雅なカラー」でまとめています。

20系の車内は「華やかで雅なカラー」でまとめています
20系の車内は「華やかで雅なカラー」でまとめています

両先頭車には、多目的スペース「おもいやりエリア」を設置。車椅子、ベビーカー、大型荷物に対応するほか、京都の伝統産業品の飾り付けスペースとしています。

20系の特徴である多目的スペース「おもいやりエリア」
20系の特徴である多目的スペース「おもいやりエリア」

そのほか、ホームとの段差の低減や多言語表示などのインバウンド対応など、高い完成度と京都らしさを併せ持つ優れた車両であることが評価されました。


●歴代ブルーリボン賞プチトリビア

ブルーリボン賞が制定されたのは、1958年。ローレル賞は1961年です。日本カー・オブ・ザ・イヤーが始まったのが1980年ですので、その歴史の長さが窺えます。

小田急ロマンスカーSEはロマンスカーミュージアムで展示されています
小田急ロマンスカーSEはロマンスカーミュージアムで展示されています

ブルーリボン賞が制定されたきっかけは、1957年にデビューした小田急ロマンスカー3000形SEです。

SEは国鉄、鉄道技術研究所が小田急に協力するとともに、各メーカーの最新技術を盛り込んで開発。当時としては画期的な低重心車体と、線路幅1435mm以下の狭軌世界最高速度145km/hを記録しました。

鉄道友の会は、その革新的な技術になにか賞を与えたいと考えて、ブルーリボン賞を制定したわけです。

ブルーリボン賞を多く受賞した鉄道会社は、近畿日本鉄道で9形式が受賞しています。近鉄は2階建て車両のビスタカーや、名阪特急で活躍したアーバン、最近では2021年に名阪特急の新エースである80000系「ひのとり」がブルーリボン賞を受賞しました。

近鉄名阪特急のエースとして活躍している80000系「ひのとり」
近鉄名阪特急のエースとして活躍している80000系「ひのとり」

ブルーリボン賞の元祖とも言える小田急は8形式で2位。最新は2019年に受賞した70000形GSEです。

小田急70000形GSEは前面展望室がトレードマーク
小田急70000形GSEは前面展望室がトレードマーク

小田急は、3000形SE以降に登場した特急車両9形式のうち8形式でブルーリボン賞を受賞しています。唯一ブルーリボン賞を逃したのは、30000形EXE。この年(1997年)は、なぜかブルーリボン賞の該当車がありませんでした。

小田急と並ぶ8形式が受賞しているのは、なんと国鉄です。小田急3000形の開発に協力することで得た技術を活かして開発した151系を初め、新幹線0系や世界初の寝台電車581系など、時代のエポックとなった車両が受賞しています。

川崎車両で保存されている1965年受賞車の新幹線0系(左)と1959年受賞車の151系(右)
川崎車両で保存されている1965年受賞車の新幹線0系(左)と1959年受賞車の151系(右)

JRグループは7社すべてにブルーリボン賞受賞車があります。最多はJR東日本とJR西日本の5形式で、JR九州の4形式、JR東海の3形式と続き、JR北海道、JR四国、JR貨物が各1形式受賞しています。

JR東日本E7系(左)とJR西日本W7系(右)は2015年に受賞。両社の共同開発で、2社が受賞しました
JR東日本E7系(左)とJR西日本W7系(右)は2015年に受賞。両社の共同開発で、2社が受賞しました

特急車両以外でブルーリボン賞を最初に受賞したのは、1977年の名古屋鉄道6000系。また、国鉄・大手私鉄以外の鉄道会社でブルーリボン賞を受賞したのは、1980年の江ノ島鎌倉観光電鉄(現・江ノ島電鉄)1000形でした。2007年には、富山ライトレール0600形が路面電車として初めてブルーリボン賞を受賞しました。2013年には、地下鉄車両として初めて東京メトロ1000系が受賞しています。

1977年に通勤車両で初めて受賞した名鉄6000系
1977年に通勤車両で初めて受賞した名鉄6000系
地方私鉄では初めて江ノ電1000形が1980年に受賞
地方私鉄では初めて江ノ電1000形が1980年に受賞
富山ライトレール0600形が路面電車として初めて2007年に受賞
富山ライトレール0600形が路面電車として初めて2007年に受賞
地下鉄では2013年に受賞した東京メトロ銀座線1000系が最初です
地下鉄では2013年に受賞した東京メトロ銀座線1000系が最初です


京浜急行1000形1890番代のブルーリボン賞記念プレート
京浜急行1000形1890番代のブルーリボン賞記念プレート
東京メトロ17000系のローレル賞記念プレート
東京メトロ17000系のローレル賞記念プレート

ブルーリボン賞・ローレル賞を受賞した形式は一部の先頭車に記念プレートが取り付けられています。

受賞車両は鉄道友の会のホームページで公表されていますので、乗車する時は記念プレートを探してみてはいかがでしょう。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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