BMW「iX5 ハイドロジェン」を清水和夫が実走! BEVとFCEVの二刀流で推し進めるBMWのゼロエミッション戦略とは?

■BMW初のFCEV水素燃料電池「BMW iX5 HYDROGEN」を清水和夫がベルギーで初試乗!

●なぜBMWはEVだけではなく、FCEVを作ったのか?

BMW iX5 HYDROGEN×清水和夫
BMW iX5 HYDROGEN×清水和夫

2023年3月21日にクリッカーで公開した、【BMW初のFCEV水素燃料電池車「iX5 ハイドロゲン」を清水和夫が初体験! MIRAIとは別物の乗り味だった】では、タイトルにある通り、BMW初のFCEVはどんな未来を担っているのかなどを、国際モータージャーナリスト・清水和夫さんとモータージャーナリスト・石井昌通さん(通称:ボン)とのクロストーク動画でお届けしました。

今回は、実際に「BMW iX5 HYDROGEN」をベルギーの街中に連れ出し、清水さんの試乗インプレッションをお届けします。

トヨタ、ホンダ、ヒョンデに続く、FCEV第4のメーカーとなったBMW。iX5 ハイドロジェンを快適ドライブしながらの清水トークを聞いてみましょう。


●水素を燃やすのはもったいないから、電気を作って走ったら0-100km/hが6秒!

さぁ、ついにBMW iX5ハイドロジェン(FCEV)に乗ります。

さぁ、BMW iX5 HYDROGENでアントワープをドライブです
さぁ、BMW iX5 HYDROGENでアントワープをドライブです

昔はね、BMWはHydrogen 7(ハイドロジェン・セブン)で12気筒の燃焼エンジンでやってたけど、やっぱり燃やすともったいないから燃料電池でいこう!って。

BMW初のFCEV、これはトヨタとのコラボレーション。トヨタのシステムを全部入れたのかな?と思ったら、実はスタックのところだけがトヨタ。ガワとか昇圧するハイボルテージのところのバッテリー、リヤモーターなど、全部BMWが独自でやっています。

ですからこのクルマ、0-100km/h=6秒! ちょっとしたGTカー並みのパフォーマンスです。

BMW iX5 HYDROGENのフロントビュー
BMW iX5 HYDROGENのフロントビュー

BMWは『2050年の気候変動1.5度に抑える』ということをコミットした、ヨーロッパ最初の自動車メーカーだと言っていました。バッテリーEVだけじゃなく、この水素燃料電池、発電して電気で走るFCEV。このふたつをコアにして、ゼロエミッションの世界をこれから駆け上がっていく。そんな戦略があります。

BMW iX5 HYDROGENのリヤビュー
BMW iX5 HYDROGENのリヤビュー

iX5ハイドロジェンは、X5のプラットフォームを使って、フロントにスタックと高圧のインバーターがあり、真ん中に2本の700気圧のタンクがあります。水素重量で6kg。これは、トヨタのMIRAIと同じです。

しかし、モーターの出力は400psくらいあるんです。ということで、電圧は400Vに昇圧されて、リヤに積むバッテリーもリチウムイオンでかなり出力が高い。やっぱりBMWのブランドにかなった出力を持っています。

●静かでトルキー、しかもEVより軽い♪

乗り味は、バッテリーEVと同じで、振動するところがないから静かでトルキー。

BMW iX5 HYDROGENのコクピット
BMW iX5 HYDROGENのコクピット

そして、重量はバッテリーEV(BEV)より軽いんです。大体、BMWのプラグインハイブリッド(PHEV)と同じくらいの重量と言っていますから、バッテリーEVよりも軽い。

BEVの充電が30分、1時間(急速でも)かかるところを、FCEVの充填なら3~5分。それと、社会全体を考えた時に、EVが増えると充電の待ち時間が必要なので、それだけ多くのインフラを作ると社会コストが上がってしまう。

BMW iX5 HYDROGEN
BMW iX5 HYDROGEN

そういう意味でも、水素インフラのほうが、社会全体のコストが上がらない。

「BEVとFCEVをセットで推し進めていく」というのが、当面のBMWのゼロエミッション戦略です。

●BMWらしい安心感も健在のiX5ハイドロジェン。排熱は暖房に利用

ハンドルを握っているところのフィーリングは、BMWそのもの。普段、ステアリングは軽いですけど、高速に行くとしっかりと手応えも出てくる。サスペンションも乗り心地がいいです。スポーティだっていうところも感じられるし、乗り心地もいいし、『パーフェクトマシン』という感じがします。

とにかく静かでトルキー
とにかく静かでトルキー

いや~本当に音がしないね。タイヤはブリヂストンの20インチ・ウインタータイヤを履いていて、乗り心地はマイルドです。

このクルマは当然、水素で発電して電気で走っていますから、アクセルを戻すと回生ブレーキ、そんなに“いやらしくない”程度に減速もあります。

コレ、スポーツモードがあるんだよね。パドルが付いてるから、これで回生ブレーキが変わります。右のパドルを引くとギアダウンしたみたいな、エンジンブレーキみたいな回生ブレーキがちょっと強まります。

ブリヂストンのウインタータイヤを履く
ブリヂストンのウインタータイヤを履く

おぉ~スポーツ、速いな!

今、街中を走っていますけど、後ろから水蒸気が出ているくらいで、ほぼゼロエミッション。よく水素エンジンの話が出ますけど、水素エンジンは燃やしたらNOxが出るから、カリフォルニア規制とか、都市部ではNOx問題がつきまとってしまう。なので、燃やすよりも発電したほうがいい。

ベルギーの港町、アントワープにて
ベルギーの港町、アントワープにて

燃料電池の場合は、電気を発電するときには、同時に水と熱が出ますよね。ちなみに、家庭用燃料電池はその排熱を使用し、朝には60度くらいのお湯が200Lくらいできる。日本にはそういう1kWの家庭用燃料電池があります。

クルマの場合は、その排熱はヒーターに使えます。バッテリーの場合は熱が出ないからヒーティングがけっこう大変なんですけど、FCEVの場合はスタックが発熱するその熱を、寒いヨーロッパの冬の暖房に使える、という排熱利用も出来ます。

●何から水素を作るか?が今後のポイント

ヨーロッパではセルフの水素充填もできるそうです
ヨーロッパではセルフの水素充填もできるそうです

アントワープって、思った以上にデカい港町ですね。ヨーロッパの輸出入の起点になっています。日本の自動車産業…自動車メーカーや部品メーカー、大体このアントワープに品物が着くので、日本のオフィスがあるんです。私もこのアントワープに何度も来たことがあります。昔以上にこの港町はどんどん拡大していますね。

水素の場合、リニューアブルエナジー(Renewable Energy)から直接、水素を作るのが、『グリーン水素』といって一番綺麗な状態の水素。CO2がちょっと出るようなやり方で水素を作るのを『ブルー水素』っていう言い方をしています。原発の廃熱から作る水素は『レッド水素』(※ピンク、パープルと表される場合もある)、赤い水素というような言い方をしていました。

いずれにしても、水素はどのようなものから作るか?というところが問題。電気も水素も一次エネルギーではないので、その作り方によっては環境負荷が増えてしまう場合もある。

どの方法で水素を作るのか?が今後の課題
どの方法で水素を作るのか?が今後の課題

理想的なのは、水素も電気も、再生可能なエネルギーから作る。水を使って電気分解で電気から水素に変えるというのが重要です。

それともうひとつ。ここは港町なので船舶の事業が盛んなんですけど、大型船はディーゼルエンジンを持っていますから、そのディーゼルエンジンに水素をブチ込んで燃焼させる。あるいは、5000ps以上のデカい船はアンモニアで燃焼させる、ということを言っていました。


前回のBMW iX5 ハイドロジェン記事と合わせ、清水和夫さんがレポートするBMWによる二刀流のゼロエミッション戦略を知り、近未来の自動車のあり方を考えてみましょう。

(試乗:清水 和夫/動画:StartYourEnginesX/アシスト:永光 やすの

【関連記事】

BMW初のFCEV水素燃料電池車「iX5 ハイドロジェン」を清水和夫が初体験! MIRAIとは別物の乗り味だった
https://clicccar.com/2023/03/21/1268685/

【関連リンク】

StartYourEnginesX
https://www.youtube.com/user/StartYourEnginesX

【関連記事】

この記事の著者

清水和夫 近影

清水和夫

1954年生まれ東京出身/武蔵工業大学電子通信工学科卒業。1972年のラリーデビュー以来、スーパー耐久やGT選手権など国内外の耐久レースに参加する一方、国際自動車ジャーナリストとして活動。
自動車の運動理論・安全技術・環境技術などを中心に多方面のメディアで執筆し、TV番組のコメンテーターやシンポジウムのモデレーターとして多数の出演経験を持つ。clicccarでは自身のYouTubeチャンネル『StartYourEnginesX』でも公開している試乗インプレッションや書下ろしブログなどを執筆。
続きを見る
閉じる