スバル新型「インプレッサ」の記号性を越えたデザインとは?【特別インタビュー】

■スバル各車の個性をどうやって確立させるのか?

全幅が5ミリ広がった以外は先代と同じサイズで登場した新型。ユーティリティの高さを継承し、その上でスポーティさを加えるのがテーマだ
全幅が5ミリ広がった以外は先代と同じサイズで登場した新型。ユーティリティの高さを継承し、その上でスポーティさを加えるのがテーマだ

いよいよ4月20日に正式販売が開始された、スバル新型インプレッサ。先行したクロストレックに対し、よりスポーティさを狙ったという新型のデザインの見所はどこにあるのか?

さっそく、デザインを統括したデザイン部の井上恭嗣氏に話をお聞きしました。


●商品コンセプトに含まれるデザインテーマ

── まず最初に、新型の開発を始めるに当たって、先代のデザインをどのように評価・総括しましたか?

「ひとことで言えば『実用的』です。インプレッサは、イメージとしてはスポーティな印象があると思いますが、実際にユーザーの声を聞いてみると、統計的にはそうした意見が多い。これはボディに対して比較的キャビンが大きく、一般的なハッチバックよりワゴン的な長さを感じることがあると思えます」

今回話を聞いた株式会社SUBARU 商品企画本部 デザイン部 主査の井上恭嗣氏
今回話を聞いた株式会社SUBARU 商品企画本部 デザイン部 主査の井上恭嗣氏

── では、そこで新型はどのようなデザインコンセプトとしたのでしょう?

「実は、あえて声高にデザインコンセプトは掲げておらず、『行動的なライスタイルへといざなう、ユーティリティ・スポーティカー』という商品コンセプトで十分足りると考えました。解釈としては、WRX的な方向でなく、もっと日常的で普通に楽しめるクルマですね。『ユーティリティ』の部分では、先代のサイズとパッケージングを継承することでお客様に伝わると考え、『スポーティ』をどう表現するかに重きを置きました」

── サイズですが、全幅が5mm増えた以外は先代と同じです。これにはどのような意図がありますか?

「ユーザーの声を聞くと、商品としてこのサイズの評判がよかったんですね。なので、これは開発の最初に決めました。まあ、デザイナーはどうしても『もっとデザイン代(しろ)が欲しい』と言いがちなのですが(笑)、よく頑張ってくれました。つまり、見た目の視点だけでなく、インプレッサという商品全体の良さを理解してくれた、ということです」

ヘキサゴングリルを起点に広がるフロントフェイス。エアディフレクターの下向きの面が見所だ。
ヘキサゴングリルを起点に広がるフロントフェイス。エアディフレクター上部の下向きの面が見所だ。これは新色のサンブレイズ・パール

── 前から見て行きます。資料では「ヘキサゴングリルからはじまる立体的なフロントフェイス」とありますが、他社ではもっとグリル先端を突き出して前進感を訴えている例もあります。

「もちろん他社さんの表現は理解していますが、インプレッサはやはり日常的なクルマであって、やり過ぎはダメなんです。過剰なスポーティさよりも『ハッチバックとしてカッコいいね』という『感じのよさ』を重視したワケです」

── バンパー両端のエアディフレクター(フォグランプ周辺の整流板形状)の周囲について、他社ではこうした大きな表現を止めている例もありますが…。

「逆に、ここはアピールポイントなんです。よく見ると、ディフレクターの上のバンパー面は下向きで、下は上向きになっています。通常、下向きの面はカーデザインではやらないのですが、これを利用して前後に穴が貫通しているように見せています。この穴の形状によって、前後に抜けた乗用車らしい伸びやさが出せる。サイズが制限されている中で、この効果は大きいんですね」

赤いラインはデザイン上キーとなる部分。リアバンパー両端の独特なラインはワイド感を出すための工夫だ
赤いラインはデザイン上キーとなる部分。リアバンパー両端の独特なラインはワイド感を出すための工夫だ

── それとは少し違うかもしれませんが、フロントを始め、新型はボディの角部に細かいラインが多いですよね。

「はい。それは意識的にやっていて、角の多さ、いわゆる三つ叉を作ることでボディにカッチリ感を与えている。丈夫でしっかりしており、これならどこへでも出かけられる、というクルマに見せるための工夫ですね」

●クロストレックとの差別化が見せ所

キャビン形状は先代を継承した一方、キャラクターラインはシンプルな直線になった。これは新色のオアシスブルー
キャビン形状は先代を継承した一方、キャラクターラインはシンプルな直線になった。これは新色のオアシスブルー

── 次にサイド面ですが、キャラクターラインは先代のカーブを描いたものから直線的な表現になりましたね。

「先代は、スバル独自の『Dynamic×Solid』として、走りそうなカタチやカタマリ感といった記号性を『VIZIVライン』として表現しました。ただ、スバルのユーザーは全車のデザインを揃えることを望んでいるわけではない。新型では、進化したデザインフィロソフィである『BOLDER』を反映、より各車の個性を出すため、VIZIVラインではなく、もっとシンプルにするべきと考えました。記号性ではなく、純粋に走りそうな造形ですね」

── 日常的なクルマとしつつ、前後フェンダーの張り出しはかなり大きいですよね。

「はい。4WDもありますし、フェンダーを大きく力強く見えることにはこだわっています。ただ、先のとおりインプレッサはキャビンが大きいので、デザイン代がない。そこで、新型ではキャビン後半を大きく絞ることで、全体のサイズは変えずにフェンダーの張り出しを作った。キャビンを小さくすることは、実用性を重視するスバルとしては画期的なことなんですよ」

── 次にリアビューです。先代のコンビランプはスバルが打ち出している「コの字」的な横長の四角形でしたが、新型はずいぶん複雑なカタチになりましたね。

「そうですか? 今回はランプのカタチ自体を『コの字』にしたのでよりわかりやすいと思っています。ただ、新型はフェンダー後端を絞っているので、それを取り囲むようにランプをかなり前の方まで伸ばしているんですね。それがあって、複雑なカタチに見えるのかもしれないですね」

大きな「コの字」形としたリアランプは、絞られたフェンダーを取り囲むように前方まで伸びている
大きな「コの字」形としたリアランプは、絞られたフェンダーを取り囲むように前方まで伸びている

── リアランプの下やバンパー両端などに引かれた複雑なラインにはどんな意図があるのでしょうか?

「それはクロストレックとの関係性で、このクルマのポイントでもあるんです。2台は鉄とガラス部分を共有していますが、クロストレックではSUVとして背を高くボディを分厚く見せ、一方、インプレッサではより乗用車的に見せたい。そこで、とにかく伸びやかでワイドに見せるためのラインを入れているワケです」

●どういう個性を与えるかの理由を探る

── 次にインテリアですが、どのようなテーマを掲げたのでしょうか?

「コンセプトや基本造形はクロストレックと同じで『使い易さ』『カジュアル』『行動的』です。普通に考えればもっと高級感を狙うところですが、ユーザーさんは気軽に遊びに行きたいんですね。あまり抑揚を付けず、幾何学的な造形にしている理由はそこにあります」

横基調のインパネに縦型の大型ディスプレイを配した独特のレアウト。過度な抑揚は避け、幾何学的なイメージとした
横基調のインパネに縦型の大型ディスプレイを配した独特のレアウト。過度な抑揚は避け、幾何学的なイメージとした

── ただ、カジュアルとしては、大型のセンターディスプレイによるインパネは重く見えませんか?

「そういう面はありますね。ここは先の『使い易さ』をメインに考えたのですが、縦長の画面には賛否もあり、また、造形的には横長のインパネに縦長のモノを置くのは大変なんです。ただ、一般的にクルマに詳しい方は、小さくてもリアルなスイッチを好む一方、初心者は大きな画面を求めるんですね。デザイン面だけでなく、SUBARUとしてそうした要望に応えるためにも採用しています」

── ボディカラーでは2つの新色が用意されましたが、その意図を教えてください。

「いずれも大自然がテーマで、まずクロストレックと共用の『オアシスブルー』は砂漠の泉をイメージしたものです。これはどこまでも走れるような元気さ、スポーティさの表現。インプレッサ専用の『サンブレイズ・パール』は燃える太陽のイメージですが、パールを効かせることでシックで落ち着いた色にしています。暗いところでは茶色に見えるなど、印象の変化が評判と聞いています」

── 最後に。今回もキープコンセプトですが、最近のスバル車はモデルチェンジをしても「変わったように見えない」という声が多い。その点についてどう思われますか?

「いろいろな理由があると思いますが、基本的には『こうあるべき』という造形の蓄積ではないでしょうか。単にトレンドや変化感を追わず、変えないほうがお客様にとってよいという判断は実際あります。

一方、現在スバルが掲げている『BOLDER』では、デザイン部全体が各車種の個性の確立のため、また変化の激しい時代の気分とライフスタイルに合わせるために、もっと変えていくべきだと考えています。そのためデザインを変える理由、つまり『お客様が自身のためにデザインに求めること』を研究しているところです。是非、今後の新型車にも期待して欲しいです」

── それこそ本当の「BOLDER」はこれからが本番のようですね。本日はありがとうございました。

(インタビュー:すぎもと たかよし

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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