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■目立っていながらクリーンないすゞらしいデザイン
クルマ好きの間やメディアで、バスやトラックの話題が出ることはそう多くありませんが、2023年3月7日に発表されたいすゞの新型エルフとフォワードについては「カッコいい」「スタイリッシュ」と評判です。
そこで、新型のデザインの意図や特徴について、内外装を担当した3名のデザイナーに話を聞いてみました。
●パーツを共有しながらも破綻しないスタイリング
── まず最初に、デザイン開発を行う際の、乗用車とトラックでの違いを教えてください。
「嗜好品的な乗用車に対して、道具の側面が大きいトラックは、耐久性や価格に対する要求が高い。また、鉄板の厚さや機構部など諸条件に対し、スタイリングの余地が少なく、当然、造形のハードルは高くなります。さらに、コストを下げるため小型から大型までパーツの共用やモジュール展開が必要になるのですが、それによってスタイリングに破綻が起きないようにする必要もあるんです」
── 新型の商品コンセプトは「ワクワクする、NEWSが動き出す」ですが、デザインのコンセプトはどのように考えましたか?
「デザインコンセプトは『PLEASURE to CARRY』で、ドライバーが喜びを得られる環境をスタイリングで示したかった。いわゆる2024年問題を始め、物流業界では人手不足が課題ですから、若い人や女性など、今後多様化するであろうドライバーに『乗りたい!』と思わせるデザインですね。その上でエクステリアは『SOLID & EMOTIONAL』、インテリアは『EASY & MOTION』としました」
── エクステリアから伺いますが、キャブのパッケージ、空間構成は先代からどう変化させましたか?
「先代に比べ、前面で8.1度、側面は4.5度パネルを立てることで室内空間を広げています。空力的には意外に思われるかもしれませんが、空気は大きくラウンドさせたサイドから流すことで対応しています。ガラスの面積自体はほとんど変わっていませんが、角度を起こしたことでよりグラッシーに見えると思います」
── 今回、前面パネルを上から「ユーティリティ」「ブランド表現」「機能表現」の3層に分けましたが、これは新しい発想ですか?
「はい、目的別に明快に分けようと。先代までISUZUのロゴはパネル上部に付いていたのですが、実はユーザーさんが再塗装をする際に外してしまうことが多く(笑)、これをグリルに移すことで上部をスッキリさせました。
また、グリルと機能部分も区分けし、ブランドアイデンティティである『WORLD CROSS FLOW』(世界をつなぐことを意図した二枚の牙状の表現)を真ん中に配置し、下部はラジエターやレーダーなどの機能を集約させました」
── 縦型のランプは先代からの継承なのでしょうか?
「そうですね、これはいすゞのCV(キャリービークル)としてのアイデンティティなんです。先のとおり、小型から大型までのシリーズ間で共用できる汎用性を持たせながら、ボディ全体に躍動感を与える表現とした。LEDのポジションランプなどで、近未来感や華やかさを表現したのもその一例ですね」
── 大開口のグリルは思い切った表現ですが、これは現在の流行を取り入れた結果ですか?
「はい、乗用車的なアプローチを狙っていますが、先の通り、レーダーの設置や大型化したラジエターの冷却機能など必然性を持った形状です。また、重い荷物をしっかり積んでいる表現でもありますね。
前面パネルは、ルーフから大きなU字を描くようなイメージになっていて、柔らかな丸みを持たせています。そのため、開口は大きいのですが、最近のミニバンのようなオラオラ系にはなっていません(笑)」
●乗用車的でありながら道具らしい使い勝手のよさ
── インテリアの「EASY & MOTION」では「タフで使いやすい」を掲げていますが、インパネのゾーン分けはそれに当たりますか?
「そうですね。たとえばセンタークラスターでは、ドライバーを中心に、上から奥行きを変えた3層のレイヤー構造になっています。これは操作の頻度を考えたレイアウトで、わずかですが3度だけドライバー側に傾けています。また、操作する部分はブラックに、それ以外はグレーの2トーンで色分けをしています」
── もうひとつの「親しみや軽快さ」はどのように反映させましたか?
「インパネ全体の四角いイメージからの脱却です。先代は四角さを逆手に取って合理性を追求したデザインとしましたが、新型ではエクステリアに合わせてナナメのラインをテーマとしました。センタークラスターやドアの内張りなどのほか、助手席側のグローブボックスも外側に向けてナナメに逃げていて、これは空間確保に役立っています」
── シートは一見変わったように見えません。また、収納は意外に少ないように思えます。
「シートは、まずポジションを下げて頭上空間を確保しています。また、乗降時に引っかからない座面形状や、耐久性に優れた新規のファブリックなど、膨大なテストを繰り返して開発しました。収納は多ければいいわけでなく、実際に使い勝手のいいものを厳選し、さらにフタ付きの内蔵タイプとして室内のノイズを減らしているんです」
── 最後に。今回は久々のモデルチェンジでしたが、デザイン的に達成できた点はどこにあると考えていますか?
「17年ぶりのモデルチェンジということで、実はデザインコンセプトを決めるのにも1年かかったのですが、そういう長いスパンに対応できるデザインになったのか?が不安でしたね。
結果的に、社内プレゼンの反応などを見ても、たとえばグリルはトラックの象徴としてロングライフに耐え得るグラフィックとなったし、インテリアも今後のキャッチアップに対応できる造形になったと確信できました。時代にミートしたアウトプットができたということでしょうか」
── 発表時はもちろん、その後の長い時間にもフィットする息の長いデザインですね。本日はありがとうございました。
(インタビュー:すぎもと たかよし)