2代目になって走りと使いやすさがますますアップしたメルセデス・ベンツの最量販SUV【メルセデス・ベンツGLCとは?】

■メルセデス・ベンツGLCの歴史/当初GLKの名前でスタートしたミドルレンジSUV

新型GLCのエクステリア
新型GLCのエクステリア

メルセデス・ベンツには、長い歴史を持つGクラスというSUVが存在します。

かつてはゲレンデヴァーゲンと呼ばれたGクラスは、軍用車両をベースとしたヘビーデューティなモデルで、現代のSUVとは違い、クロスカントリー4WDのベクトル上にあるモデルです。

軍用モデルをルーツに持つGクラス
軍用モデルをルーツに持つGクラス

メルセデス・ベンツの現代的なSUVは、2代目Mクラスから始まるといっていいでしょう。初代MクラスはGクラス同様にラダーフレームを用いたモデルで、現代的という表現にはそぐわない面もあります。

2代目Mクラスが登場したのが2005年。翌2006年にはその上のモデルとなるGLクラスが市場投入されます。Mクラス、GLクラスともにアメリカの工場で製造されています。

当時の社名はダイムラークライスラーであり、Mクラスはジープ・チェロキー、GLクラスはダッジ・デュランゴとプラットフォーム共有していたからです。Mクラスは現在のGLE、GLクラスは現在のGLSへとその系統を繋ぎます。

アメリカで製造されたMクラス
アメリカで製造されたMクラス

2008年にはMクラスよりも小型のSUVとしてGLKが投入されます。GLKのKはドイツ語での短い、つまり英語のShortにあたるKurzの頭文字を取って名付けられました。

GLKはクライスラー車とプラットフォームを共有するのではなく、メルセデス・ベンツのCクラスと共有するモデルでした。GLKは2016年にフルモデルチェンジを受け、GLCと名前を変更します。

2013年にはGLAがデビューしていたので、ボトムからGLA、GLC、GLE、GLSのラインアップが完成されました。GLAとGLCの間を埋めるGLBは2019年に登場します。

ここでは装備によるグレード違いは考慮せず、ボディタイプ、パワーユニット、駆動方式の違いでGLCの変遷を説明します。

2016年2月のデビュー当時は、2リットル直4ターボ4WDのGLC250のみ。同年9月に2リットル直4ターボ4WDのPHVモデルと、3リットルV6ツインターボ4WDのAMG仕様を追加します。

先代のGLCエクステリア
先代のGLCエクステリア

2017年2月には全高を低く、全長を長く設定したスタイリッシュな4ドアクーペを追加。また、FRモデルも設定されます。4ドアクーペは2リットル直4ターボ4WD、2リットル直4ターボFR、2リットル直4ターボ4WDのPHV、2.1リットル直4ディーゼルターボ4WD、3リットルV6ツインターボ4WDのAMG仕様を設定。

通常のSUVボディには2リットル直4ターボFRに加え、2リットル直4ディーゼルターボ4WDも追加されました。

2018年には4リットルV8ツインターボ4WDのAMG仕様を設定します。なお特別仕様車、シリーズ中に消滅したモデルについては、省略しています。

現行モデルは2023年に登場。当初のラインアップは、クーペではない普通のSUVに2リットルの直4ディーゼルターボを搭載、ISGを組み合わせたマイルドハイブリッド方式を採用するGLC220d 4MATICのみとなっています。

●メルセデス・ベンツGLCの基本概要 パッケージング/Sクラスとも共通性のあるプラットフォームを用いる

先代のGLCは、MRAと呼ばれるプラットフォームを使っていました。このMRAというプラットフォームは乗用車用に開発されたもので、なんとCクラスからSクラスまでをカバーするというもの。現行GLCは、MRAの進化版プラットフォームであるMRA2を使っています。

GLCのエクステリア
GLCのエクステリア

ホイールベースは先代と比べて15mm延長。全長は従来モデルよりも50mm延長され4725mmとなりました。全幅は先代同様の1890mm、全高は5mmマイナスの1635mmとなりました。ホイールベースが伸びているにもかかわらず、最小回転半径は5.5mと従来モデルよりも0.1m短縮。

さらに、オプションのリアアクスルステアリング(4WS)を装着した場合、低速では逆位相に4.5度の転舵が行われ、最小回転半径は5.1mにまで短縮されます。

車両全幅を変更していないので、ラゲッジルームの幅も従来どおりの1100mmですが、奥行きは56mm延長され1008mmとなりました。

定員乗車時のラゲッジルーム容量は従来比60リットルアップの610リットルですが、新型GLCには後席シートバックを10度おこし搭載力をアップするカーゴポジションを設定。カーゴポジションとした際のラゲッジルーム容量は、従来比70リットルアップの620リットルとなります。

リヤシートをすべて折りたたんだ際の奥行きは56mm延長の1834mm、最大ラゲッジルーム容量は80リットルアップの1680リットルとなりました。

●メルセデス・ベンツGLCの基本概要 メカニズム/ディーゼルターボのビルトイン式ISGを組み合わせたユニットを採用

今回、設定されたパワーユニットは、ディーゼルターボのマイルドハイブリッドのみとなります。搭載されるエンジンはOM654Mと言われるもので、OM654のモディファイバージョンとなります。モディファイに当たる部分はストロークの2mm延長で、これによって排気量が42cc増えています。

OM654の発展型エンジンとなるディーゼルターボのOM654M
OM654の発展型エンジンとなるディーゼルターボのOM654M

エンジンは単体で使われるのではなく、ユニット内に収められているISGと組み合わせての48Vマイルドハイブリッドとしています。国産車の多くはオルタネーターのようにベルト駆動のISGを使用しますが、OM654MはユニットのなかにISGがビルトインされています。

エンジン単体のスペックは145kW(197馬力)/440Nmで、モーターによるブーストは17kW(23馬力)/205Nm。WLTCモード燃費は18.0km/Lで、従来型の15.1km/Lよりも19%の改善となります。

今回リリースされたモデルは4WDの4MATICのみで、前後基本トルク配分が45対55のセッティングとなります。組み合わされるミッションは9Gトロニックの名前で知られる9速AT。

サスペンションは、フロントが4リンク、リヤがマルチリンク。4リンクは固定式の4リンクではなく、ダブルウィッシュボーンの上下AアームをそれぞれIアームとした独立サスペンションです。標準のサスペンションは金属のコイルバネを採用。試乗車はドライバーズパッケージというオプションが装着されていたため、エアサスとなっていました。

●メルセデス・ベンツGLCのデザイン/キープコンセプトでメルセデス・ベンツらしさを強調

GLCの正面スタイリング
GLCの正面スタイリング

ボリューム感あふれるシルエットは、メルセデス・ベンツのSUVらしさがにじみ出る部分。19インチ(標準は18インチ)ホイールがどっしりとした安定感を生み出しています。

AMGラインパッケージのグリルは、細かく立体的なスリーポインテッドスターがちりばめられている
AMGラインパッケージのグリルは、細かく立体的なスリーポインテッドスターがちりばめられている

フロントまわりでは、大型のグリルと、その中心に配置されたスリーポインテッドスターが目を引きます。大型グリルといっても必要以上に大きく、威圧感を持たせたものではない部分がメルセデス・ベンツらしさでもあります。試乗車はAMGラインだったので、立体的に配されたスリーポインテッドスターが装備されています。

GLCのサイドスタイリング
GLCのサイドスタイリング

サイドから見ると、面や線がシンプルに構成されていることがわかります。前後フェンダーの上端を結ぶ面を膨らませ、グラマラスなボディとしたうえで、アンダー部分にはキリッと引き締めるプレスラインが入れられています。

リヤは、フェンダーの膨らみがバンパーギリギリまで迫るようなことのない、余裕のあるリヤハッチの配置により、複雑で動きのある表情が与えられています。リヤバンパーの下には左右2本出しで、クローム加飾されたエキゾーストエンドが装備されますが、これはダミーで、実際は左下に排気されるように設計されています。

GLCのリヤスタイリング
GLCのリヤスタイリング

インテリアでは、タップリと厚みを持たせたインパネが目を引きます。インパネはT字型で、上下2分割のデザイン。上部はエアコン吹き出し口などを配置、下部はパネルのみの構成でイグニッションスイッチが装備されるだけです。

MB_GLC_インパネ
MB_GLC_インパネ

インパネセンターには、縦型の11.9インチ液晶ディスプレイを配置。多くの操作はこのディスプレイで行いますが、運転モードの切り替えやハザードランプなど、一部はディスプレイ下に装備された物理スイッチで操作します。

スピードメーターも同じく液晶方式で、横型12.3インチ。横方向のステアリングスポークは2段式で、多くのスイッチ類を配置しています。

シートは、標準タイプの場合はコンフォートシートが装着されます。AMGラインを選んだ場合はスポーツシートとなります。試乗車はレザーARTICOシートと呼ばれるタイプを装着。このシートは、レザーエクスクルーシブパッケージ、もしくはAMGレザーエクスクルーシブパッケージを選んだ場合に装着されます。

●メルセデス・ベンツGLCの走り/マイルドハイブリッドは力強く、エアサスは安定感と乗り心地を両立

GLCの走行シーン
GLCの走行シーン

2トンに迫ろうかというGLCのボディを引っ張るのは、440Nmのエンジンとそれをアシストする205Nmのモーターです。クランクシャフトと同軸上にモーターを配置するので、モータートルクはダイレクトに作用すると考えていいでしょう。

その結果、加速は十分に力強く、ボディの重さを感じることなく走ることができます。ディーゼルエンジンなので、低速からしっかりとトルクを発生していますが、それに起動時から最大トルクを発生するモーターが組み合わされるのですから、中低速の力強さについては申し分のないものだといえます。

コーナリングの安定感も十分に確保されています。試乗車はエアサス仕様で、モード切り替えによって足まわりのセッティングが変わります。スポーツモードにすれば、車高が15mmダウンするので安定性はより向上。高速道路でのスタビリティの高さに磨きが掛かります。

コンフォートモードだからといって柔らかすぎるような印象はなく、高速道路でも不安感なく走ることができます。さらにマイルドになるのはオフロードモードです。オフロードモードでは、標準に比べて車高が15mmアップします。

オフロードモードを選ぶと、車載のカメラの映像を合成して、フロア下の状況がモニターに表示される「トランスペアレントボンネット」が使え、ドライバーをアシストします。オフロードモードを選ぶと、『オフロードでのみ使用すること』と、モニターにアラートが表示されます。

リアアクスルステアリング(4WS)の効果は絶大で、大きなボディを感じさせない動きです。日本で4WSが流行った時代は、モニターやセンサーなどが発達する以前のことだったの、ちょっと使いにくい面もありましたが、現代のクルマと4WSとの親和性は高く、これからも発展していく分野だといえるでしょう。

●メルセデス・ベンツGLCのラインアップと価格/まずはディーゼルターボのマイルドハイブリッドのみの設定でスタート

先代では数多くのモデルをラインアップしていたGLCですが、新型ではディーゼルターボ+ISGのマイルドハイブリッドで、駆動方式が4WDとなるGLC220d 4MATICのみの設定となっています。

GLCのリヤスタイル
GLCのリヤスタイル

モノグレード展開のGLCですが、パッケージオプションが4種類用意されていて、オリジナリティのあるモデルとすることができます。

基本のパッケージオプションは、AMGラインパッケージとレザーエクスクールシブパッケージです。AMGラインパッケージには、追加でAMGレザーエクスクールシブパッケージとドライバーズパッケージを装着可能。そのほかにもサンルーフやボディ色、フットトランクオープナーがオプションで用意されます。


【メルセデス・ベンツ GLC220d 4MATIC】

●車両本体価格:820万円

●AMGラインパッケージ:60万円
・AMGラインエクステリア
・19インチAMG5スポークアルミホイール
・シートヒーター(後席)
・スポーティエンジンサウンド
・スポーツシート
・アンスラサイトライムウッドインテリアトリム
・本革巻スポーツステアリング
・AMGラインインテリア

●レザーエクスクールシブパッケージ:66万円
・本革シート
・ヘッドアップディスプレイ
・Burmester 3Dサラウンドサウンドシステム
・サウンドパーソナライゼーション機能
・シートヒーター(後席)
・MBUX ARナビゲーション
・ブラックオープンポアウッドインテリアトリム

●AMGレザーエクスクールシブパッケージ(AMGラインパッケージ同時装着必須):55万円
・本革シート
・ヘッドアップディスプレイ
・Burmester 3Dサラウンドサウンドシステム
・サウンドパーソナライゼーション機能
・MBUX ARナビゲーション
・ブラックオープンポアウッドインテリアトリム

●ドライバーズパッケージ(AMGラインパッケージ同時装着必須):49万円
・リア・アクセルステアリング
・AIRMATICサスペンション

●パノラミックススライディングルーフ:22万円
●メタリックペイント:8万円
●ダイヤモンドホワイト(メタリック):18万円
●ヒヤシンスレッド(メタリック):18万円
●フットトランクオープナー:3万8000円

●メルセデス・ベンツGLCのまとめ/キープコンセプトながら、最新機能も投入した正常進化版

先代モデルとくらべて、ボディ全長が若干伸びただけで、ボディサイズには大きく変更されることがなかったGLC。2020年、2021年にはグローバルの販売台数でもっとも売れたメルセデス・ベンツ車だったというだけに、フルモデルチェンジが保守的になったのは当然のことでしょう。

GLCのエクステリア
GLCのエクステリア

とはいえ、プラットフォームを進化させたこと、パワートレインをマイルドハイブリッドにしたこと、リア・アクセルステアリングという4WSを採用したことなど、その進化度は大きなものとなりました。

乗り味もかなり進化していて、メルセデス・ベンツらしいしっかりとしたフィーリングはさらにアップ。加速感や安定感も向上しています。現在、メルセデス・ベンツのFR系乗用車はCクラスからSクラスまで同一のプラットフォームを使っていますが、それがSUVモデルにまで広げられていることが大きく影響しているのでしょう。

現在のパワートレインはディーゼルターボのマイルドハイブリッドだけですが、今後パワートレインのバリエーションも増えることは必至。ますます人気となって、販売台数も増加することは間違いないでしょう。

(文・写真:諸星 陽一)

●メルセデス・ベンツGLC主要諸元
・寸法 全長×全幅×全高(mm):4720〈4725〉×1890×1640〈1635〉
ホイールベース(mm):2890
トレッド 前/後(mm):1625/1640
車両重量(kg):1930〈1990〉
・エンジン
タイプ:直4DOHCディーゼルターボ
排気量(cc):1992
最高出力(kW(ps) /rpm):145(197)/3600
最大トルク(Nm(kgm)/rpm):440(45.0)/1800〜2800・モーター
タイプ:交流同期電動機
定格電圧(V):44
定格出力(kW):10
最高出力(kW):17
最大トルク(Nm):205
・トランスミッション:9速AT
・ドライブトレイン:4WD
・燃料消費率(WLTCモード、km/L):19.1
・シャシー
サスペンション(F/R):ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
タイヤサイズ:235/60R16〈235/55R19〉
ブレーキタイプ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスクディスク

※〈 〉内はAMGラインパッケージ、ドライバーズパッケージ同時装着車

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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