■見た目はオーソドックスでも、隠れた便利があちこちに
ユーティリティ編の第2回めにして後編。
前回採りあげきれなかった項目を見ていきます。
今回はユキさんといっしょに、室内空間全体に目とレンズを向けてみましょう。
やりきれるかな?
●室内空間
・前後席居住性
筆者は、頭上空間はせいぜい座り直しする際に頭がぶつからないていどがちょうどよく、それ以上は無駄な空間だと思っています。ましてやバンザイできるほど高い天井は無駄で、それほど余白があるなら、頭がちょうどいいところに来るまで着座高さやフロアを上げてくれと考えているほど。
で、eKワゴン。バンザイはできないまでも、座り直し空間プラスアルファかベータくらいのクリアランスがありますが、無駄と感じるどころか、これもちょうどいいかッ! と思うように。節操がありませんな。
ことスライド機構付きシートとなる後席の広々感は前席以上で、最前端位置にするとひざ元空間は90年代のカローラ/サニー並ですが、最後端にすると、身長156cmのユキさんが脚をいっぱいに伸ばせるほど広くなる!
ユキさんばかりではなく、176cmの筆者が座っても足元空間は広大で、ユキさんならフロアに正座できるかも知れません。
加えて、フロアがお茶の間・・・は古い、リビングと同じように完全にフラットなのも効いています。その広さ&心地いい様子は、脚を伸ばすユキさんの上半身がリヤピラーに隠れていることからもおわかりになるでしょう。
その代わり、そのとき乗員は車両最後端に近いわけで、各自動車メーカーは、安全のアピールを前面衝突ばかりではなく、後面衝突時の後席乗員、ミニバンなら3列シート乗員の安全性をPRしてほしいと思っています。
それにしても、軽自動車サイズの変遷はあれど、よくもまあこれだけ不満のない空間を構築できるようになったもんだと、いまの軽自動車には感心します。
・前後席シート単体
運転席側を広くとって左右分割にした、ベンチ風シートとなっています。座面も背もたれも、身体を包み込むような形状はしていないのですが、座ればしっかりと身体を保持し、カーブで上半身が左右に揺すられることもありませんでした。
センターにはアームレスト、運転席は上下アジャスター付きとなっています。
リヤシートは、これまた前席とは対照的に思いっきり平らにしましたねというほど、座面も背もたれもフラットな造形ですが、試乗本編で書いたとおり、筆者は嫌いではありません。
フル乗車がまれなら、eKワゴンの場合、そのキャラクターから長時間乗車ということも少ないでしょう。おそらくは、家族・知人をそこいらまでの送迎に30分弱という使われ方が多勢でしょうから、ヘンに凝ってコスト高になるよりいいと思います。これがディアマンテとなると話は別です。
・スライドレバー/リクライニングレバー
リヤシートはリクライニング、スライド機構付き。
リクライニングの解除レバーは左右シートバック車両外側に、スライドレバーはクッション中央足元にあり、軽く引き上げて前後させることができます。
・前後席乗降性
バンパー突出量、フード長をミリ単位で詰めてでもキャビンを拡大しているため、応じて前後とも開口部は広めです。
加えて車両を横から見たとき、フロントガラス中央部とフロントピラー、傍目にはほとんど同じ角度ですが、測ればその傾斜角はそれぞれ32.8度、36.6度で、特に寝ているわけでも起きているわけでもない傾きであることから、開口部は適度なタテヨコ寸法が確保されており、乗降姿勢に無理は生じません。
後席からの乗降では、リヤシートの最前端時・最後端時とでは、ユキさんの両脚の動かし方が異なっていることがわかります。最前端(符丁でフロントモスト:front most という)のときは脚を左・右の順で外に出しているのに対し、最後端(リヤモスト:rear most)では、両脚揃えてヒョイと回転させながら外へ・・・ユキさん本人もたぶん無意識に動作していると思います。
と、わかったようなことを書いていますが、実は筆者もこれを書く際に自分のコマ撮り写真を見ていま気づきました。
・アシストグリップ
アシストグリップは、未使用時は上にハネ上がり収容されるタイプ。
運転者はハンドルがグリップ代わりでしょ? とでもいいたげに、ドライバー用のものは省かれるクルマが多いなか、eKワゴンはきちんとドライバー用も設置してくれています。凹凸路走行時、上半身を安定させるのにつかむものですが、座りなおしをするときだってありがたい。筆者も旧ジムニーに自分でつけました。なかなか便利に使っています・・・いくらでもないんだから全部のクルマにつけろ!
●空調/オーディオ
・タッチパネル式フルオートエアコン
フルオートは、Gに標準で、Mはマニュアル式となります。
広大なスペースを占めるタッチ式エアコンパネルは先代eKワゴンから。
これを見るたびに思い出しますが、これは確かこのパネルを生産するサプライヤーからの提案だったはずで、先代eKワゴン/日産デイズの開発をドキュメントした「ガイアの夜明け(テレビ東京)」で見た覚えがあります。
一等地の面積を独占しているだけにひとつひとつのスイッチが大きく、かつ、操作面が扱いやすいCVTレバーと同じ傾斜面にあるので操作しやすい…のですが、音は鳴るものの、やはり目で見て狙いを定めて指を持っていかなければならないぶん、ボタン式や回転ノブ式のほうが操作感は上です。
風量がダイレクトに選べるのはいいですが、温度上下が0.5刻みなのがもどかしい。2度上げ下げするのに4回チョンチョンタッチするのはどうも・・・いまはカスタマイズ設定が盛んなのですから、0.5度刻みか1度刻みかを選べるといいのと、以前の三菱車のように、夏場は最低温度をワンタッチでできるように、ついでに冬場の最高温度もチョン押しセットできるスイッチがあればいいと思います。
70年代末~2000年代初頭までの三菱車は、バルブ式や2色の蛍光管、液晶などで、風の出どころや風量が見てすぐわかる、空調絵表示を用いていたことがあります。見るだけで楽しいものでしたが、またやればいいのに。
<調整可能なタッチスイッチ感度>
このパネルはたぶん静電容量式ですが、タッチ感度の調整が可能です。先代もできたようですが、5段階から選ぶことができ、初期段階では「2」に設定されています。とはいえ、筆者には1も5も同じに感じられ、5のままで使っていました。
5代めeKワゴンは、念じるだけでコントロールできるようにきっとなるでしょう。
調整法は写真のとおり。
・後席ダクト
たいていは寒冷地仕様に限られる後席用の足元暖房吹出口が、eKワゴンでは全車標準装備。後席乗員の足ですぐに蹴飛ばせそうに見えますが、これは前席をいっぱいに前に出して撮っているため。足が届いて壊すことはないでしょう。カーペットに埋め込むのが普通なのですが、このほうが安くできるのかな。
<換気性能>
例によって、いつもの感覚的換気性能調べのお話に移ります。
方法は、空調パネルを「上半身送風」「外気導入」「ファンOFF」にセット、80km/h時、100km/h時の走行風圧(ラム圧)による外気導入量を、ファン全風量のうちのいくつあたりに相当するかを測る、メーカーの空調設計担当者が激怒しそうなくらい、いいかげん、いや、感覚的なものでございます。
結論からいうと、80km/h時であれ100km/h時であれ、入ってくる風の量は虫の息みたいなものでした。
【80km/h時】
ファン風量全7段階のうち、以下それぞれの状態で次の風量に相当。
・全窓閉じ:0.01
・運転席窓 30mm開:0.01
・助手席窓 30mm開:0.01
・両席窓 30mm開:0.01
【100km/h時】
同じくファン風量全7段階のうち、以下それぞれの状態で次の風量に相当。
・全窓閉じ:0.1
・運転席窓 30mm開:0.2
・助手席窓 30mm開:0.2
・両席窓 30mm開:0.4
いまのクルマは風の流路内にクーラーのエバポレーターが置かれる「エアコン」になっているため、風の流れが遮られ気味になって自然風が入りにくいのですが(クルマの気密性が高いというのもある)、うまく工夫して導入量を増やし、換気性能向上をめざしてほしいものです。乗員の眠気防止のためにも。
・マルチアラウンドモニター
このクルマはレンタカーで、三菱電機ではない、なぜかトヨタ系のデンソーテンのイクリプスナビがついていたので内容は省略。
スペースについてだけいうと、このクルマはオーディオの類はすべて販社オプション対応。大画面9インチ版の、アラウンドモニター対応ナビが入るようになっていますが、試乗車は通例の2DINタイプでした。
デジタルルームミラー車に含まれるアラウンドモニターのナビ画面版写真を載せておきます。詳細は車庫入れ編で述べましたが、別写真を少しだけ。
クルマの後ろにユキさんがしゃがんでいるときのアラウンド+リヤビューは、このように映ります。デジタルルームミラーでも意外と見にくいことはありませんでしたが、デジタルミラーより画面が大きいぶん、やはりナビ画面のほうが把握やしやすい。
販社オプション品ではないイクリプスナビで映るのがなぜなのかはよくわかりませんが、対応する社外品ナビ、販社オプションナビ、うまく接続できたデジタルミラー付きのeKワゴンを買った方はうまく使い分けてください。
・ステアリングスイッチ
三菱販社オプションナビ装着時は、ステアリングスイッチが機能します。
機能は写真のとおりで、電話の通話開始・終了スイッチだけは右スポークに取り付けられています。
せっかく「上下左右」と「戻る」があるのに、ナビのメニュー選択・決定ができないのがもったいない点です。筆者のティーダは「上下選択」「決定」「戻る」でナビ操作もできたのに、いまの日産車はできなくなっています。
・アンテナ
オーディオはオプションでもアンテナは標準装備。現代的に、伸縮するのではない、フレキシブルのショートアンテナが、後席右ルーフ上についています。ほんとうは運転席頭上にあるといいのですが、背高のクルマにはちがいないから、洗車機に入れるときなどはどのみちクルマから降りなきゃいけないかな。身長156cmのユキさんにはやっと手が届く高さにあります。
やっぱり2回でも終わらなかった・・・
タイトルの「後編」を「中編」に書き換え、本当の後編は次回にまわします。
またお逢いしましょう。
(文:山口尚志(身長176cm) モデル:海野ユキ(身長157cm) 写真:山口尚志/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■三菱eKワゴン G〔5BA-B36W型・2022(令和4)年型・4WD・CVT・スターリングシルバーメタリック〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1670mm ●ホイールベース:2495mm ●トレッド 前/後:1300/1290mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:900kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:BR06型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:659cc ●圧縮比:12.0 ●最高出力:52ps/6400rpm ●最大トルク:6.1kgm/3600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射 ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/22.7/21.5km/L ●JC08燃料消費率:24.2km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トルクアームリンク式3リンク ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:154万0000円(消費税込み)