■検証・eKワゴンのe-Assist
前回は、アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンキープアシスト(LKA)の三菱総称・MI-PILOTを採りあげましたが、今回は別の機能、三菱が「e-Assist」と呼ぶ運転支援機能を採りあげます。
●全9機能構成のe-Assist
「e-Assist」は、次のトータル9つの機能から成り立っています。
1.衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM)
2.前方衝突予測警報(PFCW)
3.踏み間違い衝突防止アシスト(EAPM)
4.車線逸脱警報システム(LDW)
5.車線逸脱防止支援機能(LDP)
6.ふらつき警報(DAA)
7.標識検知機能(TSR)
8.先行車発進告知(LCDN)
9.オートマチックハイビーム(AHB)
これら9点が、MとG、すなわち全車に標準装備されています。
「Toyota Safety Sense」「Honda Sensing」「スズキセーフティサポート」「スマートアシスト」…各社の先進安全デバイスは、アダプティブクルーズコントロール(以下ACC)を含んでいるものですが、eKワゴンでは、ACCとLKAをセットにするマイパイロットが、装備表上はe-Assistとは別立ての「機能装備」に組み込まれています。
そのACCも、デリカD:5あたりまではe-Assistに含んでいますが、日産と仲間になって以降のクルマは、単なるACCから「MI-PILOT(マイパイロット)」に改め、e-Assistとは独立させています…ましてや、eKワゴンの場合、他社と異なり、マイパイロットは電動パーキングブレーキ&ブレーキオートホールドとをひとくくりにした「PKG2・先進快適パッケージ」の工場オプションで、上級Gでしか選べません。安いほうのMを検討する方、安全デバイス総称「e-Assist」があるからといって、ACC込みと早合点しないよう、要注意!
e-Assistのひとつひとつを見ていきます。
1.衝突被害軽減ブレーキシステム(FCM:Forward Collision System)
フロントガラス上部のカメラと前バンパー内のレーダーセンサーによって捉えたものが、前方の車両や歩行者との衝突のおそれがあるとき、メーター内の警報とクルマの自動ブレーキ操作でドライバーの衝突回避操作を支援します。車速約10~80km/hにて作動しますが、約60km/h以上では、歩行者に対しては働きません。
2.前方衝突予測警報(PFCW:Predictive Forward Collision Warning)
前車だけではなく、2台先の車両(前車の前車)をも検知し、急な減速などで自車の回避操作が必要とシステムが判断したとき、警報でドライバーに注意を促します。約5km/h以上から作動、フロントバンパー内のレーダーセンサーにて、前方2台前(前のクルマのさらに前のクルマ)との距離を計測します。
3.踏み間違い衝突防止アシスト(EAPM:Emergency Assist for Pedal Misapplication)
進行方向に壁や障害物、車両、歩行者(歩行者は前進時のみ)などがいる場所で、駐車操作など低速時にアクセルペダルとブレーキペダルを間違えて踏み込んだ、またはブレーキ操作が遅れたとき、ドライバーに音と表示で警告。エンジンやブレーキ制御を加えることで、過度な加速や障害物への衝突防止を支援します。
前進、後退に対して働き、前進時はフロントカメラと前バンパー内のソナーセンサーにて、後退時は後ろパンバー内に設けられたソナーセンサーにより、車両前後の障害物を検知します。
4.車線逸脱警報システム(LDW:Lane Departure Warning)
約60km/h以上で作動。フロントカメラにてレーンを認識し、ドライバーが意図せずに走行車線に近づいたとシステムが判断したとき、警報によってドライバーに注意を促します。
5.車線逸脱防止支援機能(LDP:Lane Departure Prevention)
同じく約60km/h以上で作動し、フロントカメラにてレーンを捉え、ドライバーが意図せずに走行車線に近づいたとシステムが判断したとき、警報を発するとともに、ドライバーの、車両をレーン内に戻す操作をシステムが支援します。
6.ふらつき警報(DAA:Driver Attention Alert)
ハンドル操作からドライバーの注意力低下をシステムが判断したとき、メーター内のディスプレイ表示と音により、ドライバーに休憩を促します。約60km/h以上で作動します。
7.標識検知機能(TSR:Traffic Sign Recognition)
フロントカメラで標識を検知、メーター内のディスプレイに表示します。
8.先行車発進告知(LCDN:Leading Car Departure Notification)
先行車が発進しても自車が停止を続けた場合、音とメーター表示にてドライバーに報知します。
9.オートマチックハイビーム(AHB:Automatic High Beam)
先行車または対向車のライト光、または周囲の明るさなどに応じ、ビーム(光束)のロー/ハイを自動切り替えます。
それにしてもまあ、アルファベット3文字4文字が多いことよ! 「Mitigation」「Misapplication」「Prevention」なんて初めて知りました。
●実践・e-Assist
e-Assistを働かせるセンサーは車両前後に備えられ、フロントではマイパイロット編で活躍したカメラとレーダーセンサーに加え、フロントバンパー内に設置されたソナーセンサーが登板、リヤもバンパー内に埋め込まれたソナーセンサーが受け持ちます。
今回の試乗では、e-Assist9機能のうちの次の4つを試しました。
4.車線逸脱警報システム(LDW:Lane Departure Warning)/5.車線逸脱防止支援機能(LDP:Lane Departure Prevention)
システムは、試乗車のようなマイパイロット付き車はそのメーンスイッチ押しでACCと同時起動、マイパイロット非装着車は計器盤右下の走行支援スイッチを押して起動、マルチインフォメーションディスプレイ(MID)内にマークが点灯します。
高速道路で試しましたが、意図的に車両を左右どちらかの白線に近づけてみると、即座に警報音を発するとともに、マークがオレンジ色に変わって点滅します。試乗車の場合、マイパイロット付きだからでしょう、LKAが車線を認識することで点灯する車線表示もオレンジ色に変化します。これがLDW。
LDPは、同じく約60km/hで作動し、車両をレーンのどちらかに寄せたとき、警報音とMIDにて警告を行うと同時に、短時間のうちにブレーキ制御を行い、車両を車線内に戻す側に振る操作を促すようで、いわばクルマがレーンから逸脱しそうになるとまず第1段階としてLDWが働き、それでもハンドル操作が得られなければ第2段階としてLDPが機能すると考えればいいでしょう。
「促すようで」と書きましたが、実は「試した」といいながらも、筆者が確認できたのはLDWまでで、ブレーキ制御で車両が戻る動作をしていることまでは実感できませんでした。
筆者の理解力が追いついていないこともあるでしょう、この種のデバイスでかなりややこしいのは、マイパイロット付き車ならもれなく付いてくるLKA、そしてこのLDW&LDP、機能や動作の境目がわかりにくいことです。
LDWもLDPもLKAのうちのような気がするし、LKAを分けるにしても、LDWの先にLDPがあるのだから、呼称はいっそLDPに統一したほうがいいのでは? でもそのいっぽうで分けておいたほうがいいような気もする…いま書いていてもややこしいですが、いずれにしても、ユーザー理解のために、取扱説明書の熟読が必須なことは確かです。
7.標識検知機能(TSR:Traffic Sign Recognition)
筆者がこれだけでもほしいと毎度思っている機能。
他社の他車でもずいぶんな広まりを見せている標識認識機能は、クルマによって認識する標識、その数にばらつきがありますが、eKワゴンのその数は控えめで、次の3つとなります。
1.進入禁止標識
2.一時停止標識
3.最高速度標識
これは最新日産車に準じているようで、いまのノートもエクストレイルも新型セレナも同じ内容。最新三菱車のほうが充実していたらおもしろいなと思って簡単に調べてみたら、標識認識はせいぜいアウトランダーに備わる程度で、エクリプスクロスにやデリカD:5には、機能自体がありませんでした。
使ってみると、筆者の生活環境では、駐車場から出て最初に認識するのは「止まれ」。走行中に多く認識するのはやはり最高速度標識で、一般路でもふとMIDにやれば、気づかぬうちに「40」「50」の標識が表示されていたものです。他のクルマもそうですが、昼間でも夜間でもなかなか認識率は高く、「3」と「8」、「5」と「6」をよく見間違えないなと感心します。
逆に、「進入禁止」を捉えるチャンスには恵まれず、というよりも、筆者の環境では、「進入禁止」の標識があるのは住宅街で、そっと試してみたのですが、「進入禁止」標識は交差点ないしT字路の、道同士の接続点にある場合が多く、クルマにしてみれば、いきなりアップで現れることになる(=他の標識のように、進む先でこちらを向く標識を、早々と認識できる位置関係にない)ため、確認することはできませんでした。
実際にはターンシグナルを出し、ハンドルをまわして右左折しかけたところで知らせてほしい(ドライバーはこの時点で「あ、いけね」と気づく)わけで、いずれは曲がりかけるや即、認識し、告知してくれるようになるやも知れません。
素人考えからすると、これら3つを認識するならそろそろ他の標識も認識してもよさそうな頃です。
追加を望むのは「Uターン禁止」と「指定方向外禁止」。これらを見落とそうものなら、物陰で見張っているパトカーが、ここぞとばかりにご登場あそばします。ぜひ追加することを熱望します。
お店で売っているドライブレコーダーの中には、車線逸脱や、次項の先行車発進を知らせてくれるものがありますが、標識認識機能は入れられないのかな。あれば買うのに。
8.先行車発進通知(LCDN:Leading Car Departure Notification)
これも筆者がほしいと思っている機能。
信号待ちの後、前車発進に気づかず、後ろからホーンを鳴らされて前を見たら、前車ははるか先だったということがありますが、LCDNがついていてくれれば心強い。
次の4条件のうち、いずれかを満たしているときに告知します。
1.シフトがP、R以外、ブレーキペダルで停止している。
2.シフトがNで停止している。
3.シフトがP、R以外で、ブレーキオートホールドにて停止している。
4.ACCで停止保持中。
信号待ちでシフトをPに入れて停車するクルマをたまに見かけますが(一瞬リバースランプが点灯することでわかる。)、1と3の条件から、このような使い方をするひとには、クルマは告知しないことになります。
「後ろにクルマがいない」「先頭ではない位置で赤信号待ち」という、このようなときに限ってなかなか訪れない好条件を何とか見つけて試してみました。
先行車発進後も停止を続け、MID内に告知表示されたのは、先行車の自車からの距離が写真のようにまでなったときでした。
これまたぜひ採り入れてほしいのが、青信号告知と矢印信号告知。
先行車発進も去ることながら、車列先頭での赤信号待ち時、青点灯ばかりか、よく見たら赤点灯の下で青矢印が点灯(まさに上写真の信号!)して慌てるということも少なくありません。
最新トヨタ車(とSUBARU車)なんぞ青も矢印もきっちり監視…他社もそろそろ採り入れなければならない頃でしょう。
認識する道路標識の数も、青信号&矢印信号も、プログラムの組み様でどうにでもなるはずで、タダでできるでしょ? というのは素人考えがすぎるかな。
というわけで、今回はこれにておしまい。
オートマチックハイビームは次回まわしとします。
(文:山口尚志 写真:山口尚志/三菱自動車工業/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■三菱eKワゴン G〔5BA-B36W型・2022(令和4)年型・4WD・CVT・スターリングシルバーメタリック〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1670mm ●ホイールベース:2495mm ●トレッド 前/後:1300/1290mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:900kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:BR06型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:659cc ●圧縮比:12.0 ●最高出力:52ps/6400rpm ●最大トルク:6.1kgm/3600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射 ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/22.7/21.5km/L ●JC08燃料消費率:24.2km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トルクアームリンク式3リンク ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:154万0000円(消費税込み)