●通算4代目、日産との合作で2代目となる現行eKワゴンは2機種構成
「リアル試乗」eKワゴンの話なのに、前回は初代eKワゴンの誕生経緯を書きました。
今回からが本題で、主役は、周囲に派生車が存在することでシリーズ中のスタンダードな位置づけとなっているeKワゴンの「現行モデル」です。
実はeKワゴンが三菱オリジナルだったのは2006年9月の2代目までで、先代にあたる2013年6月の3代目は、日産との合弁、NMKVによる共同開発。生産は三菱が行いました。
いま販売中の4代目もNMKVでの合作には違いありませんが、ついぞ主な開発&デザイン作業は日産が執り行い、生産は三菱が担当…こう書くと「おれたちがここまで仕上げたから、あとはおまえら図面どおりに造れ」「ハ」と、なんだか日産に三菱が服従しているように見えますが、実際はそうではなく、その途中の評価などは両者で行い、要所要所で三菱側の意見も採り入れられているのだと。やはり共同開発なのです。
現行4代めは2019年3月に発表されたクルマで、今回の試乗車に持ってきたのは、昨年2022年9月に3回めの改良を受けたモデルですが、せいぜい車体色のバリエーションが変わったくらいで、それ以前のクルマと何ら変わるところはありません。
現行ekシリーズは先代に続けてトール型とハイト型に分かれており、トール型には今回の「eKワゴン」と、「こちらのほうがよっぽどデリカミニじゃないの」といいたくなる、デリカD:5顔をした「eKクロス」が属し、ハイト組は「eKスペース」と、近々デリカミニにバトンタッチする「eKクロススペース」で構成されています。
写真のクルマのナンバープレートを見ればおわかりのとおり、今回の試乗車は都合上、三菱自動車の広報の方の手配で得られたレンタカーとなっています。
これまで「リアル新車試乗」で拝借してきたメーカー試乗車は、「新車」にはちがいないものの、他のメディアが乗った後の、積算距離計が少なくとも数千キロ刻まれているクルマが多いのですが、今回のeKワゴンは、聞けば乗るのは筆者が初めての新車とのこと。
本「リアル試乗」は、「ユーザーが新車を買った場合の立場で乗り…」という思想で行っていますが、今回のeKワゴン試乗はまっさらさらな新車で、期せずしてメーカー試乗車を借りたのとは違う、ほんとうの「リアル試乗」となりました。
eKワゴンはekシリーズの中の標準型と書きましたが、それだけに価格帯がシリーズ中最も安く、機種構成もいちばんシンプルになっています。
すなわち安いほうは132万5500円の「M」、高いほうは140万8000円の「G」のたった2機種で、いずれも13万2000円高となる4WDが用意されています。他のシリーズのように、ターボ車もハイブリッド車もなければ、「なんとかプレミアム」のような上級版もなし! すべてガソリンモデルに徹していて全機種CVT。選ぶのに迷うことはありません。
MとGとで思ったほどの装備差は見られず、装備表を見ての実用上の目立つ違いといったら、シートバックポケット、助手席シート下のトレイ、リヤシートスライドをバックドア側からできる肩口スライドレバー、キーレスエンジン始動、オートエアコンがGだけにつくことくらいで、6スピーカー、TV&GPSアンテナなどをまとめたナビ取付パッケージや、いまどきの先進安全デバイス一連で構成されるe-ASSISTは全機種標準装備。ただし、安全デバイス関連のパッケージオプション2種はGだけにメーカーオプションとなっています。
MとGの価格差は8万2500円ですが、装備差に照らすとこの差は妥当か、ちょい高いかなといったところでしょう。
今回の試乗車は高いほうのGの4WD車で、2種のパッケージオプションが備わっていました。
●旧式駐車場には入らない全高1650mm
いっけんオーソドックスながら、他の同類軽とは異なる持ち味を放っていた初代eKワゴンを知る目には、いまのeKワゴンのスタイルは、写真で見ても実車を見ても、何やら地味なスタイリングに映ります。
ところが近くに寄ってみればなかなかボリューム感のある造形を持っており、ドアパネルが軽自動車ゆえの平板さから免れていないのは仕方ないにせよ、フロントフェンダーからフロントフェイス、リヤフェンダーからバックドアにかけては、写真では得られない力感があります。
発案は阪神タイガース関係者かと思う黄色地・黒文字のナンバープレート(見るたび、1976年軽規格改定時の運輸省はよくこの色の組み合わせを考えついたなと思う)がついているから「軽自動車!」とわかるわけで、これが白プレートだったら、クルマに詳しくないひとはまず普通車と思い込むでしょう。
全長×全幅×全高は3395×1475×1670mm。初代、2代めと続いた、1550mmの「ちょうどいい」全高は先代で忘れ、先代の1620mmを経て現行は1650mm(試乗車は4WDなので1670mm)となっており、旧型のゴンドラ式駐車場にはなお入りません。
室内高さの広大さを売りにするなら全高を上げ、ためにゴンドラ式に入らなくなってもそれがウィークポイントにならない、後のeKスペース&eKクロススペースに全高1780mmを任せるなら、こちらeKワゴンは、キャラクター明確化のためにも、やはり1550mmあたりにとどめておいたほうがよかったのではと思わなくもありません。
全高が1600mmを超えていながら見た目に背高感が強調されていないのは、バランス良くフードを持ち上げているゆえで、全体がうまくまとまっていると思いますが、ちょっと心配なのがフロントフェイス。
真横から見たとき、バンパーの突き出し量が皆無でまっ平ら! むしろ見た目にはラジエーターグリルのスリーダイヤモンドのほうが車両最先端なのではないかと思うほどのものです。
歩行者保護対策で出っ張りを極力なくしたいのと、エンジンルーム長はおろか、バンパーの突出を削いででも、その儲かり分を室内長延長に充てたいためで、サイズが限られる軽自動車では特にこの傾向が顕著ですが、カタログに示される全長が前後バンパー間の距離とはわかっていても心情的には不安になるものです。
●インテリアの、定番中の定番なデザイン
運転席に座ると、ハンドルを正面に、左手の自然なリーチ位置にシフトレバー、その左に空調パネル、その上のトレイを挟んで空調吹出口、オーディオスペース…自動車工業会で申し合わせているのかと思うほど、メーカーを超えた軽自動車定番のレイアウト。軽自動車幅1480mmという制限下でインパネシフトを採る以上、致し方なきとすべきでしょう。
全体的にスイッチ類は少なめ。三菱の先進安全デバイス、e-AssistやMI-PILOTのスイッチはハンドルに集中させ、各機能のON/OFFはメーターディスプレイ内で行うためです。
メーターは右に速度計、左に回転計を配した2眼式の自発光式で、その中央にカラーの液晶が挟まれています。液晶は底部にATのポジション、スイッチ切り替えで積算距離、区間距離A、B、燃料計を常に表示。その上部には燃費情報、航続可能距離、走行支援、前輪タイヤ向きのほか、小さくて見にくい底部燃料計をここで拡大表示することもできます。
この液晶画面が「このクルマの開発主体は日産だったけな」と思わせるところです。表示の仕方や操作のさせ方がどうも日産くさいのです。
そういえば、NMKV開発の前と後とでは生まれが異なるためでしょうが、センターメーターが2代めで途絶えたままなのは残念なところです。
センターメーターは好き嫌いが分かれるようで、否定派は「夜間、ハンドルの前が真っ暗になるのがイヤ」といいますが、筆者は肯定派。ハンドル輪っかの外側にあるため、グリップに隠れる部分がなくなること、どの席からでも見られるようになり、何となく前後席乗員に一体感が生まれることがいいと思うのですが、ひと頃は国産車もあれほどセンターメーターに力を入れていたのに、なかなか広まりを見せることはありませんでした。
いまなら、近年拡大化が著しいナビ画面との両立性の問題があるのでしょうが、ナビのサイズなんてそこそこでいいから、センターメーターを復活させてほしいよ。わが友人も一時期中古で買った初代eKワゴンを使っていましたが、助手席に乗せてもらったときは「見やすい」と感心したっけか。
助手席と運転席側の一部には、前面に化粧パネルが施されています。触ればカチカチのプラスチックで、本当はふんわりしたパッドであれば望ましいのですが、見た目にやわらかそうに見せているのはうまい。内装色に準じたアイボリーカラーですが、同じような色のパネルを施しているワゴンRスマイルで指摘した、助手席ガラスへの映り込みによるドアミラーの見にくさに気づくことはありませんでした。
手まわり品の収容スペースは豊富で、目を引くのは助手席前のグローブボックス上の引き出し(アッパーグローブボックス)と、インパネ中央のこれまた引き出し式のセンタートレイ、そして助手席ドアのふたつき車検証入れです。センタートレイはすぐ左上の引き出し式ドリンクホルダーの底支えも兼ねています。
車検証入れはeKワゴンの伝統的なもので、通常のグローブボックスが車検証を入れるといっぱいになる程度のサイズのため、平素開くことの少ない車検証一式の置き場所をドア側に移したのは正解。もっとも、それゆえに助手席側に通例のドアポケットはなくなってしまうのですが。
後席シートはスライド付きで、一番後ろに下げた状態なら、お世辞でなく身長176cmの筆者が足を組んでもどこにもぶつからないほど広い! ときおり書いてきましたが、筆者は他の身長176cmに対して手足のバランスが不釣り合いで、脚のほうが長いときています。その筆者が広いと感じるのですから、一般的な体型のひとなら全員せまいと感じることはないでしょう。
そしてフロアがフラットであることのすばらしさよ! これがわずかでもトンネルの盛り上がりがあると広さ感は大きく削がれるわけで、やはり床は平らであることに越したことはありません。
この「リアル試乗」で何度もいっていますが、どうせなら後席にひとが座っていないときのためのスライド位置も付加してほしいと思います。
最後端位置での広々さも魅力ですが、どちらかといえばフル乗車の機会はまれで、実際には前席乗車はひとりかふたり、後席は荷物置き場になることのほうが多いはずです。そのとき、前席背もたれスレスレまでスライドしてくれれば、前席からふり向くだけで荷をつかむことができる。
これは筆者のアイデアではなく、筆者が使っていた日産ティーダに用いられていた機能で、最初「スライドなんか使わないだろ。」と思っていたのですが、前席スレスレまで近づけられることがわかり、その便利さを知るや「ほかのクルマでも採り入れればいいのに。」と宗旨変え。
後席スライドというと、ひとが座ったときのことばかり考え、フットスペースを最小限に残した最前端位置にしがちですが、発想を逆転させ、後席にひとがいないときの、前席乗員のための前席スレスレ後席スライドを考えてほしいと思います。
このあたり、コマーシャルやカタログなどで上手にPRすれば、「いいね、eKワゴン!」となるんじゃないかな。
というわけで今回はここまで。
次回「走り編」でお逢いしましょう。
(文:山口尚志 モデル:海野ユキ 写真:山口尚志/三菱自動車工業/モーターファン・アーカイブ)
【試乗車主要諸元】
■三菱eKワゴン G〔5BA-B36W型・2022(令和4)年型・4WD・CVT・スターリングシルバーメタリック〕
●全長×全幅×全高:3395×1475×1670mm ●ホイールベース:2495mm ●トレッド 前/後:1300/1290mm ●最低地上高:155mm ●車両重量:900kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.5m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:BR06型(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:659cc ●圧縮比:12.0 ●最高出力:52ps/6400rpm ●最大トルク:6.1kgm/3600rpm ●燃料供給装置:電子制御燃料噴射 ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):21.0/18.0/22.7/21.5km/L ●JC08燃料消費率:24.2km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トルクアームリンク式3リンク ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:154万0000円(消費税込み)