実はドクターイエローよりもレア。新幹線の「N700S確認試験車」ってなに?

■営業車仕様だけど乗客を乗せない試験専用編成

東海道・山陽新幹線の最新型車両N700Sは、2020年7月にデビューして以来増備が続いていて、2023年1月の時点でJR東海所有の0番代J編成が36本、JR西日本所有の3000番代H編成が2本在籍しています。

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増備が進められている東海道・山陽新幹線用N700S

新幹線を新規で開発する場合、量産車が登場する2年程前に試作車もしくは先行車を製造。試験走行を実施して、量産車の仕様を決定しています(例外はあります)。

N700Sについても、JR東海が2018年にN700S9000番代確認試験車J0編成を製造して、性能試験を行いました。

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試運転中のN700S確認試験車J0編成

試作車・先行車は量産車が登場した後も、台車の60万km耐久試験が終了するまで試験走行を続行。耐久試験の終了後に、仕様を量産化改造して、営業運転に投入するのが一般的です。

しかし、N700S確認試験車は量産化改造されて営業運転に使用されることなく、引き続き開発部品のテストを行う試験専用編成としています。

試験専用編成というと、JR東日本で現在試験走行中のALFA-Xのような、最先端の技術で製造された車両を連想します。

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JR東日本の試験車両ALFA-X

しかし、営業車両用の新規開発部品の試験には、同じ営業車両を使用した方が現実的なデータを得られます。そのため、営業編成に試験用部品を組み込んで試験走行をすることも多く見られます。

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パンタグラフ遮音板を取り付けて実走テストを行ったJR東日本E7系

JR東海も以前は同じ手法を採っていましたが、2001年以降は営業車両とほぼ同じ仕様の試験専用編成を使用して、実走テストを継続的に行っていて、2018年に登場したN700S確認試験車は3代目の試験専用編成となります。

●N700S確認試験車は量産車と何が違う?

N700S量産車の仕様はN700S確認試験車の試験走行の結果を反映させて決定しています。そのため、N700S確認試験車の仕様も試験期間中に細かく変化していますので、取材した当時の確認試験車と量産車の違いを見てみたいと思います。

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N700S確認試験車先頭車の先頭台車カバー
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N700S量産車先頭車の先頭台車カバー

【先頭台車カバー】

外観上で一番異なるのは、先頭車の先頭台車カバーの形状です。確認試験車ではフルカバータイプとなっていますが、量産車では下部が少しオープンになったタイプとなっています。

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N700S確認試験車のロゴ
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N700S量産車のロゴ

【ロゴ】

実は、N700Sの金色のロゴも違います。確認試験車の金色とシャドーは明るめとなっていますが、量産車は少し濃くなっていて、メリハリがきいています。

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確認試験車が登場した時の検電アンテナ
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確認試験車後期と量産車の検電アンテナ

【検電アンテナ】

先頭車の屋根上にある検電アンテナは、架線に交流25000Vが流れていることを検知するためのもので、新幹線のシンボル的存在です。

N700S確認試験車は伝統の逆L字形で登場しましたが、試験走行期間中に新形状のものに交換。量産車では新形状のアンテナを採用しています。

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確認試験車の普通車座席
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量産車の普通車座席

【内装】

確認試験車の内装は、2019年10月30日の報道向け試乗会時点のものです。普通車の座席は背面テーブルのアーム形状が異なるほか、確認試験車にはなかった背面の荷物フックが量産車に設置されています。

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確認試験車のグリーン車座席
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量産車のグリーン車座席

【グリーン車座席】

グリーン車の座席は、シート背面部の色、背面テーブルのアーム形状、背面テーブルロックレバー部分の形状と高さ、荷物フックの位置と高さ、小物ネットの色などが異なっています。

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確認試験車で車いすスペースを2か所とするため検討中の内装レイアウト
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車いすスペースを2か所として登場した量産車(1次車)

【車いすスペース】

N700S確認試験車は、車いすスペースを従来の車両と同じく11号車に1ヵ所備えて落成しました。しかし、試験期間中に車いすスペースを2ヵ所に増やすこととなり、確認試験車の内装を改造。シートピッチや座席の設置場所も含めて検討を行いました。

量産車(1次車)は車いすスペースを2ヵ所として登場。車いすが通れる通路の幅を確保するため、富士山側のD・E席の幅を若干狭くしています。

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量産車(2次車)からは車いすスペースを6か所に増やしました

2020年10月にはバリアフリー法が改正されました。それに対応して2021年度に投入した量産車(2次車)J13編成以降は、車いすスペースを6ヵ所に増やしています。

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確認試験車で検討された荷物スペース
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量産車およびN700Aで採用された荷物スペース

【デッキの荷物コーナー】

N700Sはデッキ部分に2段式の荷物コーナーを設置していて、2023年度から運用予定です。同時に、一部のN700Aについても荷物コーナーの整備を進めています。

この荷物コーナーについてもN700S確認試験車に設置して、仕様を検討。当初はワイヤーロックを4個備えていました。量産車ではワイヤーとバーを併用した二重ロック構造としています。

●歴代の試験専用編成はリニア・鉄道館で展示

N700S量産車の仕様が決定し、台車の60万km耐久試験も終了したN700S確認試験車の今後について、歴代の試験専用編成の実績から考えると、N700Sのマイナーチェンジ車や次世代車の開発実走テストを行うものと思われます。実は、歴代の試験専用編成は一部が現存していて、リニア・鉄道館で展示されています。

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N700系9000番代量産先行試作車Z0編成

東海道・山陽新幹線車両の先代試験専用編成はN700系9000番代量産先行試作車Z0編成(現・X0編成)でした。

Z0編成は2005年3月に製造されました。試験走行の結果を反映させたN700系量産車が2007年7月1日にデビューし、台車の60万km耐久試験が終了した後もZ0編成は量産化改造されず、営業運転に入ることなく試験運転を続行。主にN700A用に開発した部品の実走テストを実施しました。

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N700Aタイプに改造されX0編成となった9000番代量産先行試作車

2014年にはN700Aに準じた仕様(N700Aタイプ・通称N700“スモールA”)に改造し、編成番号をX0編成に改めました。

X0編成はN700S用開発部品の実走テストも実施。2018年にN700S確認試験車J0編成が落成。試験専用編成の役割をJ0編成に譲り、X0編成は2019年2月で廃車となりました。現在は1号車・14号車・8号車がリニア・鉄道館で休憩スペースとして利用されています。

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引退後、リニア・鉄道館で展示されているN700系X0編成

現役時代は乗ることができなかったN700系X0編成ですが、今はいつでも中に入ることができます。

N700系量産車と異なり、客室にはコンセントが設置されておらず、量産車では採用されなかった荷物スペースの面影が残っています。また、洗面所の形状も量産車と異なるなど、量産先行試作車だけの装備を堪能することができます。

N700系X0編成が登場する前に、試験専用編成として活躍した300系9000番代試作車J1編成の先頭車も、リニア・鉄道館で展示されていて、車内に入ることができます。

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リニア・鉄道館で展示されている300系9000番代J1編成の先頭車

300系9000番代は、1990年にJ0編成として落成。試験結果を反映させた300系量産車が1992年に「のぞみ」としてデビュー。J0編成は1993年3月に量産化改造を行って、編成番号もJ1編成に改めて営業運転に投入しました。

その後、J1編成は2000年に営業運転から離脱して試験専用編成となり、N700系用の開発部品やデジタル式保安装置の実走テストを行いました。J1編成はN700系量産先行試作車Z0編成(→X0編成)登場後の2007年に引退。この編成は営業運転の実績はありましたが、試験専用編成としては初代となります。

J1編成とZ0編成→X0編成の実績を見れば、N700S確認試験車J0編成の今後も予想できるというもの。今後も東海道・山陽新幹線の進化のために試験走行を行うことでしょう。

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N700S確認試験車は今後も試験走行を行うと思われます

でも、運転するチャンスは限られていて、存在はドクターイエローよりもかなりレア。見ることができれば、ドクターイエロー以上にラッキーかもしれません。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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