ドクターイエローよりもレア?鉄道界で働くメルセデス・ベンツ最強の「ウニモグ軌陸車」

■大井川鐵道の軌陸車はフリクションドライブモデル

SL列車や「きかんしゃトーマス号」で有名な静岡県の大井川鐵道に、メルセデス・ベンツ ウニモグの軌陸車が存在するのをご存じでしょうか?

大井川鐵道のウニモグ軌陸車

軌陸車とは、自動車に線路走行用の格納式鉄輪を装備した車両です。

保線や工事の現場付近までは道路上を移動して、最寄りの踏切から現場までは線路上を移動。作業を効率よく行えるのが軌陸車の特徴です。

軌陸車は国産のトラックやダンプをベースにしたものがほとんどですが、ウニモグの軌陸車も国内に数台存在します。

ウニモグと言えば、ドイツのダイムラートラックが製造する4輪駆動多目的作業用トラックとして有名です。

標準モデルとなる多目的作業型ウニモグは、前進8段・後進6段の変速機を標準装備。オプションとして前進16段・後進16段、前進24段・後進24段の設定もあります。

また、作業機を駆動するためのメカニカルPTOや油圧システムを搭載し、1000種類以上の作業用アタッチメントが設定されています。

フリクションドライブモデルの前輪。鉄輪の外側にある筒がフリクションドラムです

ウニモグ軌陸車についてネットで調べてみると、日本ではドイツ・ザグロ(ZAGRO)社製と、ツヴァイベグ(ZWEIWEG)社製が確認されているようです。

大井川鐵道のウニモグ軌陸車はザグロ社のフリクションドライブモデルで、U400多目的作業型がベースです。フリクションドライブモデルは、ウニモグのトレッドよりも線路幅が狭い路線で採用しています。ちなみに、大井川鐵道の線路幅はJR在来線と同じ1067mmです。

フリクションドライブの車輪は、筒型のフリクションドラムと鉄輪が一体となっています。

フリクションドライブモデルの後輪。なお、前後輪とも油圧によって昇降します

線路を走るときは、フリクションドラムを介してタイヤの駆動力を鉄輪に伝達するため、タイヤの回転方向と鉄輪の回転方向が逆になります。ちなみに、ウニモグ軌陸車モデルの変速機は前進・後進ともに8段となっているので、走行する分にはあまり問題とはならなさそうです。

ザグロ社のウニモグ軌陸車フリクションドライブモデルは、大井川鐵道の多目的作業型ベースのほか、高機動型ベースがJR東海やJR西日本に存在。また、多目的作業型ベースがJR九州に存在するようです。

●ウニモグのけん引力が活かせる軌道案内輪付モデル

線路幅がトレッド幅に近い1372mmや1435mm軌間の線路では、軌道案内輪付モデルの軌陸車が採用されています。軌道案内輪付モデルは、線路から脱線しないための油圧昇降式ガイドローラーを備えた軌陸車です。ウニモグのタイヤはレールと接していて、タイヤで走行します。

京王に在籍しているツヴァイベグ社製軌道案内輪付モデル。高機動型ウニモグがベースです

国内では、ツヴァイベグ社製の軌陸車が確認されているようです。京王電鉄と東京都交通局都電荒川線には、高機動型ウニモグベースの1372mm軌間仕様の軌陸車がいます。

京王では電車の入換にウニモグ軌陸車が使用されています

軌道案内輪付モデルはゴムタイヤで走行するため、鉄輪よりもトラクション性能に優れています。メーカーの説明では、800tの列車をけん引することもできると言われています。

鉄道の建設を行っている鉄道・運輸機構も、ツヴァイベグ社製軌道案内輪付ウニモグ軌陸車の1435mm軌間仕様を多く所有していて、2022年9月に開業した西九州新幹線の建設でも活躍しました。なお、鉄道・運輸機構では、ウニモグ軌陸車を特種車(特殊車ではない)と呼んでいます。

鉄道・運輸機構が西九州新幹線の建設に使用したウニモグ軌陸車

鉄道・運輸機構のウニモグ軌陸車は、多目的作業型がベース。形式は軌道工事用と電気工事用に大きく分かれています。

軌道工事用は工事用の機械や建設資材を運ぶ軌陸車で、下り勾配を一定の速度を保って走ることができる抑速装置を搭載しています。また、重い資材を運ぶために2台連結した重連運転ができるタイプや、クレーンを搭載したタイプもあります。

電気工事用は、架線の設備を設置するためのものです。トンネル内で高所作業ができる2人用ツインバゲット付きの軌陸車と、耐震性の高い大型電柱を建植することができるクレーン付き6輪の軌陸車があります。

西九州新幹線の建設に使用された鉄道・運輸機構の軌陸車は、今後北陸新幹線や北海道新幹線の建設で活躍するのかもしれません。

今回、取材に加えてネットで調べてみても、国内にウニモグ軌陸車が何台現存しているのかは把握しきれませんでした。また、敷地外からも見えない軌陸車も多く、見るのは容易ではありません。ある意味ドクターイエローよりもレアな存在かもしれません。

(ぬまっち)

この記事の著者

ぬまっち(松沼 猛) 近影

ぬまっち(松沼 猛)

1968年生まれ1993~2013年まで三栄書房に在籍し、自動車誌、二輪誌、モータースポーツ誌、鉄道誌に関わる。2013年に独立。現在は編集プロダクション、ATCの代表取締役。子ども向け鉄道誌鉄おも!の編集長を務める傍ら、自動車誌、バイク誌、鉄道誌、WEB媒体に寄稿している。
過去に編集長を務めた雑誌はレーシングオン、WRCプラス、No.1カーガイド、鉄道のテクノロジー、レイル・マガジン。4駆ターボをこよなく愛し、ランエボII、ランエボVを乗り継いで、現在はBL5レガシィB4 GTスペックB(走行18万km!)で各地に出没しています。
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