あの47万円アルトと現在の最安アルト「タイプA」を当時と今の初任給何ヶ月分で買えるか計算したら意外にも…販売台数、人気ボディ色、燃費など調べてみた【新車リアル試乗5-9 スズキ アルトA 販売動向と燃費、まとめ編】

■ファーストカーにもなりそうな? アルトを総まとめ。販売動向も見てみよう

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アルトのボディ色バリエーションは、2トーンが4種、モノトーン単色が8種の、計12種類

アルトの「リアル試乗」の最終回。

発表・発売から約10ヶ月経った時点での販売動向解説、そしてアルトの総まとめを行います。

●販売動向

スズキ広報の方にお願いし、アルトの昨年2021年12月22日販売開始(発表は12月10日)から今年2022年10月いっぱいまでの、販売動向を出していただいています。

ワゴンRスマイルのときと同じく、ここに出ている各数字は、アルト「シリーズ」のもの。「アルト」を名乗るクルマには、本家「アルト」のほかに、「アルトラパン」もあるわけですが、下記数値はアルト「シリーズ」の合算値となります。ご了承ください。

1.販売台数(2021年12月22日~2022年10月31日)
3万0970台

2.全体の2WD・4WD比率
約8:2

3.機種別比率 → 公表せず。

4.ボディカラー比率(モノトーンのみ。比率、2トーンの種別、比率は公表せず)

1位:ホワイト
2位:ソフトベージュメタリック
3位:シルキーシルバーメタリック

5.メーカーオプション装着比率 → 公表せず。

6.ユーザー層
・メインユーザーは50代~60代
・独身や子育てが終わった方の割合が高い。
・購入決定のポイント:車両価格、低燃費、安全装備、スタイル・外観、運転のしやすさ。
・使用用途:買い物や近所の外出、通勤・通学、家族の送り迎えなど。

どの数値もおおよその傾向しかつかむことはできないのですが、これらとは別に、筆者が別で全国軽自動車協会連合会(通称・全軽自協)の、昨年2021年1月…つまり2021年末に発表される現行アルト前の約1年間と、今年に入ってからの10月までのぶんのアルトの販売台数を調べてみました。

<2021年/2022年>

1月:5104台(うち、バン326台)/5277台(同17台)
2月:6639台(同309台)/6140台(同17台)
3月:8706台(同595台)/7697台(同21台)
4月:5408台(同382台)/5315台(同10台)
5月:5832台(同377台)/4464台(同10台)
6月:4670台(同294台)/4877台(-)
7月:4267台(同189台)/5106台(-)
8月:3417台(同68台)/4803台(15台)
9月:4788台(同58台)/6600台(-)
10月:3890台(同33台)
11月:4160台(同22台)
12月:4038台(同7台)

新型と旧型が混在する2021年12月と翌2022年1月を中心に、その前と後を見てみると、それほど大きな数字の違いは見られません。全体的には2022年のほうが多い傾向にあるのですが、その間、あちらアルトラパンも改良や特別仕様車を投入したりがあるため、アルト、アルトラパンの合算値だけでは、アルトの新型化でその内訳にどのような変動が表れているかは推し量り様がありません。

ただ、昨今は半導体不足による納車遅れがあたり前になっているので、以前までのように、売れている・売れていないの判断を数字だけで判断することはそぐわなくなりました。自動車メーカーにも販社にも手を打てない要因で落ちた数字であれこれ述べ立てるのはフェアではありません。

ただ、全体が大きくないのは、もはや軽自動車がハイト型に移っているということを示していると思います。

もうひとつ注目は、アルトバンが2021年7月までの間に、コンスタントな数の数百台ずつ買われていることで、この点、乗用主体ながら商用ユース・社用ユース需要が手堅く存在していることがわかります…もともとアルトは1979年にバンからスタートしたんだもの。

それにしても、ワゴンRスマイルの回でワゴンRとワゴンRスマイルの合計だけを見たとき、単なる背高型のワゴンRにスライドドア付きワゴンRスマイルが追加されて以降、シリーズ全体の販売量がグンと増えたことがわかりました。

この変動だけ見ると素人は、アルトをちょい背高型にし、スライドドア付きにした「アルトハッスルスライドスリム」を出せばといいたくなりますが、やめておきましょう。

★メーカーコメント
新型アルトは、歴代のアルトが守ってきた、「お求めやすく、軽く、扱いやすい」という軽セダンの本質的な魅力はそのままに、時代のニーズに合わせて「マイルドハイブリッド」の採用や、「予防安全装備」を充実させました。

ぜひ一度お近くのスズキのお店でご試乗いただければ幸いです。

●エピローグ

<初代アルト>
1979(昭和54)年5月11日、発表・発売。
車両本体価格・47万円(モノグレード構成.・4MTのみ・全国統一価格)。
1979年大卒初任給:10万9500円。

<現行アルトA>
2021(令和3)年12月10日発表・22日発売。
車両本体価格・85万8000円(消費税10%込み94万3800円・CVTのみ)。
2021年3月大卒初任給:約22万円。

虫の息だった軽自動車市場を再び活性化させた功績(アルト第1回・プロローグより)を持つアルトも、1979年の初代から40年と余の間に、軽自動車規格改定をくぐり抜けながら立派になり、最廉価のAでさえも、いっちょまえの装備&安全デバイスを持っています。

車両本体価格の上昇率は、約1.83倍に。約40年の間に価格も上がったわけですが、初任給換算すれば、高くなったとはいえません。

epilogue 3 srs side and curtain airbag
アルト全機種につく、サイド& カーテンエアバッグ
epilogue 4 manual air-conditioner control panel 1
エアコンだってついている。昔は10万円超の、販社装着オプションだったもの。

初代は47万円÷10万9500円で、月収約4.29か月分の価格。年収の約38%分で買えたわけです。

いっぽう、これを2021年に置き換え、平等を期すべく税抜き価格で同じ計算をすると、85万8000円÷22万円=月収約3.9か月分にして、年収の32.5%で手に入れられる計算。ここへきて、自動ブレーキはあるわ、エアバッグは6つもあるわ、エアコンはついているわ…初任給での年収に対する車両価格の低下はわずかですが、もろもろの安全デバイス、快適装備の充実化を見ると、見た目の計算値よりもはるかに安くなっていると見るべきです。ましてや走りの感触、走行音といった面では、1000~1300cc級のクルマと比べても引けを取らない。40年経てばあたり前とはいうものの、このあたりのメーカーの努力は称えていいのではと思います。

もうひとつ思ったのは、いま日本で売られているクルマの中で見ても、価格に対する充実度は、このアルトAがいちばん高いのではないかということでした。

epilogue 5-2 mira e-s b saIII
ミライースB SAIII(2017年5月登場時)
epilogue 5 mira e-s b saIII
こちらミライース。最廉価Bに安全装備を施した、B SAIII(スマートアシストIII)。写真は2017年5月登場時のもの

アルトAの競合はずばり、ダイハツのミライースB・SAIII(スマートアシストIII)でしょう。アルトAの94万3800円(税込み)に対し、ミライースB・SAIIIは92万6200円…ミライースのほうが1万7600円ほど安いですが、あちらミライースはサイドエアバッグが標準なのは最上級G・SAIIIにとどまり、かつカーテンエアバッグは全車未設定なのに対し、こちらアルトはサイド&カーテンエアバッグが、Aばかりか全機種標準装備という大きな違いがあります。

筆者自身は、安全デバイスの効果はわかっていても、価格が安ければなくても構わないと考えるクチなのですが、いまどき商品としてはあるほうが強みであることは明らかです。1万7600円高いとはいえ、これらもおまけでついてくると考えると、中身と価格のバランスからいってアルトのほうが商品力は上といえるのではないかと思います。

今回、アルトの中でもいちばん安いAをなぜテストに選んだか。

毎度いっていますが、いまは乗用車の価格はかなり上昇しました。軽自動車を買うのにさえ、200万円近い出費を強いられる時代です。

車両価格を押し上げているのは、まずは安全デバイスの標準化。自動ブレーキ、義務化されたオートライト、インテリジェントナントカシステム…省電力ですむ、すなわち電気の発電量が少なくて済むから結果的にガソリン消費が減るという大義名分の下、ランプのLED化も進んでいます。環境保護を背景として何でもかんでもお行儀よくするクルマを造るようになり、気づいたら軽自動車も普通車も値段が上がり放題に上がっている状況です。

そのような趨勢を嘆きながら周囲を眺めまわしたとき、いま風の安全デバイス充実に差をつけないまま各装備を緻密に厳選、見た目の飾りたてなどかなぐり捨ててでも価格の安さを優先し、税込み94万8000円の値札をチラつかせるアルトAが俄然輝きを帯びて見えてくるではありませんか!

いまや日本中を見渡しても、100万円を切る価格の乗用車は稀になりました。そのアンダー100万円車の素性をみなさんといっしょに見てみたかったわけです。

「クルマの値段と卵の値段は上がらない」の理論もそろそろ当てはまらなくなってきたなと思っていたのですが、こと、アルトについてはまだ通用していてホッとしているところです。

軽自動車なので、他のハイト型と全長、全幅が変わろうはずはないのですが、1525mmに抑えられた全高のせいで、いかにも機動性の高そうなところも魅力のひとつに数えられます。この小ささにものいわせ、配達・商品の積み降ろしで街や住宅路、Aでなくとも、後席に子供(メーカーによると、メインユーザーは50~60代とのことなので、子どもじゃなく孫か!)を乗せ、習い事や駅までの送迎に広い道、せまい道をちょこまか走りまわるチビの様子を思うと、微笑ましくなります。特に背の高いものを積む頻度が少なければこの全高でも充分事足りる。となるとハイト型に比べて軽くもあるから燃費だって抑えられるということになります。

長距離ドライブは稀、高速道路だってほとんど使わない。移動は長くて同じ県内の観光地に行くくらいというひとなら、そしてスライドドアに執着がないのなら、多少お世辞も含みますが、ファーストカーにもなりうる実力はあるのではないか。

 

 

クルマがドライバーに投げかけてくる情報表示がシンプルで疲れないのもいい。いまのクルマは情報過多なのに気づかされました。また、造りもシンプルなので、ランプ類をはじめ、どこかが壊れても修理費が安そうなのも安心感がある。とにかく、使うにも維持するにも疲れない、気を使わない、苦にならないのクルマなのです。

このような時代になったことだし、スペーシアやN-BOXをはじめとする多目的・多機能スペーシーな軽がメインであるいっぽうで、アルトのような、シンプル志向の本流低価格軽のマーケットがふくらんでもよさそうです。

もうひとつ、アルトワークスともターボともいいませんが、このエンジンのまま、あるいはちょい出力を上乗せしたエンジンに、5速のマニュアルトランスミッションを組み合わせたモデルがあれば、たくさんは売れないでしょうが、おもしろいクルマになるのではないかと思いました。ほどほどの出力だからこそおもしろくなりそうなのと、全体的にシンプルなので、いい意味で昔のクルマの良さを思い出させてくれるような気がします。

なかなかいいクルマだったので、エピローグが長くなりました。

最後、燃費の話でアルトの「リアル試乗」を幕とします。

次回は…次回はまだ決めていません。何にしましょうかね。

お楽しみに。

(文:山口尚志 写真:山口尚志/スズキ)

【燃費報告】

fuel consumption 1
帰着時のメーター

★トータル燃費:21.11km/L(カタログ燃費 = WLTC:25.2km/L)
★総走行距離:437.4km(一般道167.9km + 高速道245.9km + 山間道23.6km)
★試乗日:2022年8月6日(土)~8日(月) 期間中、晴れと雨が混在。クーラーはほとんどONのまま。

【経路内訳】
一般道:東京都練馬区~新宿区~江東区、群馬県前橋市内、高崎市内 計167.9km
高速道:
首都高11号台場線台場IC~都心環状線C1右まわり~5号池袋線早稲田IC
関越自動車道 下り・練馬IC~北関東道・前橋南IC 87.9km、前橋IC~昭和IC 28.7km
関越自動車道 上り・昭和IC~前橋IC 28.0km、前橋南~練馬IC 87.8km 計245.9km
山間道:赤城山 23.6km
※今回、霧に見舞われたため、赤城山走行は早々と1往復めの中腹で引き返しました。

【所感】

fuel consumption 3
このときの給油量は20.72L
fuel consumption 2 wt
394.8km走行時の燃料計残量は2ドット

車両重量が870kgだった前回のワゴンRスマイルは、マイルドハイブリッドにして燃費21.33km/Lでカタログ値達成率は約85%。対してガソリンエンジンとなる今回のアルトは車重680kgの燃費21.11km/Lで達成率は約83.8%。いずれもほとんどクーラーはONのまま。

山間道走行の条件は異なるが、結果はほぼ同じとなった。ワゴンRスマイル試乗の中で、「マイルドハイブリッドは、車重増による燃費、走りの悪化分を抑制するにとどまる、ほどほどハイブリッド」と書いたが、今回のアルトの燃費はそれを証明したような気がする。

装備構成が近いハイブリッドSとLの価格差は9万9000円。リッターあたりの燃費差は25.2km/L。途中の計算は省くが、ハイブリッドを選んで元をとるには約4万kmちょい走った時点であり、年間1万km走るひとなら4年、5000kmのひとなら8年かかる計算に…街乗り主体というキャラクターからしても、安さが武器のアルトでわざわざハイブリッドを選ぶ必要はないのではないかと書いたら、「SDGsが叫ばれるこの時代に!」と怒られるか。

帰着時の給油時の燃料計めもりは2ドット、スタート時と同じ給油機から自動ストップで注がれた燃料の量は20.72Lでした。ワゴンRスマイルもアルトも、燃料タンク容量は27Lです。

【試乗車主要諸元】

■スズキアルト A(3BA-HA37S型・2022(令和4)年型・2WD・CVT・シルキーシルバーメタリック)

●全長×全幅×全高:3395×1475×1525mm ●ホイールベース:2460mm ●トレッド 前/後:1295/1300mm ●最低地上高:150mm ●車両重量:680kg ●乗車定員:4名 ●最小回転半径:4.4m ●タイヤサイズ:155/65R14 ●エンジン:R06A(水冷直列3気筒DOHC) ●総排気量:658cc ●圧縮比:11.5 ●最高出力:46ps/6500rpm ●最大トルク:5.6kgm/4000rpm ●燃料供給装置:EPI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:27L(無鉛レギュラー) ●モーター:- ●最高出力:- ●最大トルク:- ●動力用電池(個数/容量):- ●WLTC燃料消費率(総合/市街地モード/郊外モード/高速道路モード):25.2/23.0/26.0/25.8km/L ●JC08燃料消費率:29.4km/L ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式/トーションビーム式 ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格94万3800円(消費税込み・除くディーラーオプション)